シンガポールの子供たちが数学に強い理由とは?

OECDが実施する国別学力テスト
世界的な得点減
数学的リテラシーの落ち込み
新型コロナウイルス感染症の影響
数学教育の難しさ
アジア諸国の躍進
第1位はシンガポール
マカオに23点差
裕福な国
教育の成功
シンガポール式算数
1980年代に開発されたメソッド
世界各国でも導入が進む
文章題が中心
シンガポール式算数の基礎
CPAアプローチ
具体的な操作を重視
「具体的な作業をする」
問題の図式化
抽象的な段階へ
暗記ではなく理解重視
「マスタリー」という概念
誰も取り残さないクラス
他の国でも採用
日常生活でも使える方法
OECDが実施する国別学力テスト

経済協力開発機構(OECD)は、学習到達度調査(PISA)と呼ばれる学力テストを各国で行なっている。この調査は2000年から3年ごとに実施されており、2023年12月に第8回(PISA2022)の結果が公表された。

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世界的な得点減

第8回の結果は世界的に大きく落ちこんだ。EU加盟国では前回の報告と比較して「読解力」で14点下がり、「科学的リテラシー」では6点、「数学的リテラシー」では平均20点も下落したのだ。

数学的リテラシーの落ち込み

報告書によると、数学的リテラシーについてはヨーロッパ諸国における落ち込みが特に顕著だが(ノルウェーでは33点の低下、アイスランドでは36点の低下)、アメリカも13点減、ラテンアメリカで第1位のチリも6点減になっている。

新型コロナウイルス感染症の影響

2022年に行われたこの第8回調査には、81の国と地域からおよそ69万人の15歳から16歳の生徒が参加した。全般的な得点の低下は新型コロナウイルス感染症の影響によるものと考えられている。パンデミックは3年間にわたって教育現場を直撃したのだ。とりわけ、数学的リテラシーの得点は他の分野にくらべて特別悪かった。

数学教育の難しさ

その理由としては、数学は教師の手助けなしには理解度や習熟度がなかなか上がりにくい分野であるからだと考えられる。テクストのみで、あるいは家族に教えてもらうような状況では(感染症の拡大で自宅学習が一般的となった)、なかなか理解が進まなかったのだろう。

アジア諸国の躍進

そのような世界的傾向にもかかわらず、10か国では平均得点の向上が見られ、そのほとんどがアジアの国となっている。

 

第1位はシンガポール

シンガポールの場合、数学的リテラシーで6点アップ(575点)し、この分野と読解力、科学的リテラシーの3分野で1位となった。台湾、日本、韓国もそれぞれ数学的リテラシーの得点を伸ばしている。

マカオに23点差

シンガポールは以前から数学の部門でとても良い成績を収めているが、今回の調査結果では2位のマカオに23点差をつけている。

裕福な国

シンガポールの人口は540万人、世界で最も裕福な国の一つである。

教育の成功

シンガポール当局は、生徒たちの考える力を伸ばすにあたり、数学の教育は重大な役割を果たすと考えている。シンガポールの子どもたちは早い段階から、推論、論証、コミュニケーション、モデル化などを含む複雑な数学化のプロセスを発展させることを学ぶ。

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シンガポール式算数

シンガポールの数学教育を特徴づけるアプローチは、シンガポール式算数、または「マスタリー・アプローチ」と呼ばれている。

1980年代に開発されたメソッド

シンガポールの現在の数学教育は、1980年代に同国の教育省が公立学校向けに開発したものがベースになっている。

世界各国でも導入が進む

このシンガポール式算数は、ここ数十年で米国、カナダ、英国、インドなどでも導入されており、近年は日本でも紹介されるようになっている。

 

文章題が中心

この数学教育の特徴は、計算方法の単なる暗記ではなく、文章題を「バー・モデル」という図に置き換え、その解法プロセスを深く理解することに重点を置いている。

シンガポール式算数の基礎

その基礎となっているのは、「CPAアプローチ」(具体的・絵画的・抽象的)と「マスタリー(熟達)の概念」である。

CPAアプローチ

CPAアプローチは、アメリカの教育心理学者ジェローム・ブルーナーが1960年代に出版したいくつかの著書で展開した議論に基づいている。

具体的な操作を重視

抽象的な数学的操作は、子どもにとっても大人にとっても理解することが難しい。よってCPAアプローチでは、抽象的な概念をより具体的なものに移しかえて理解を深め、その上で次の段階へすすむのである。

「具体的な作業をする」

「シンガポール式算数では、子どもたちは決まって何か具体的な作業をするのです」と、オックスフォード大学教育学部のアリエル・リンドルフ(Ariel Lindorff)准教授はBBCに語っている。

問題の図式化

「たとえば、足し算用のキューブを合わせたり、絵を描いたり、花の絵があってそれを足し合わせたり、あるいは人の絵やカエルの絵など、単なる数字よりもイメージしやすく、親しみやすい絵を使って問題を図式化することができるのです」と、リンドルフ教授は続ける。

抽象的な段階へ

数学の問題をこのように具体的なレベルにおとしこみ、そのプロセスをみずから理解して初めて、生徒たちは抽象的な段階へ進むことになるのである。

暗記ではなく理解重視

したがって「CPAアプローチ」は、公式の暗記に頼るのではなく、具体的な作業を通して数学を理解する方法だと言える。

「マスタリー」という概念

シンガポール式算数のもう一つの柱は、「マスタリー」という概念だ。クラスの生徒たちは一緒に学習を進め、それでいて取り残される生徒は出ない。

誰も取り残さないクラス

他の生徒よりも理解が早い生徒は、そのテーマについての情報を深め、そうでない生徒は理解につとめ、最後にはクラスの全員が数学的概念をマスターするのである。

他の国でも採用

この教育メソッドは、アメリカ、カナダ、イスラエル、イギリスなどの国でも採用されているが、シンガポールほどの効果は得られていない。アリエル・リンドルフ准教授の解説によれば、「シンガポールの成功は、教育にまつわる文化的なコンテクスト、歴史に関係したもの」だという。

日常生活でも使える方法

シンガポールの学校教師であることは、とても前途あるキャリアに就いていることを意味する。また、数学教育は決して一方的なものではなく、生徒たちは教師やクラスメイトとコミュニケーションをとりながら数学的問題の解法を探っていくので、その過程で身に付く問題解決方法は日常生活においても応用のきくものになるのである。

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