仏ロレアルを創業したベタンクール家:その成功とスキャンダル

生きていれば101歳
遺産相続で大波乱
ロレアル創業者の娘
戦間期の急速な成長
幼いころからビジネス
ド・ゴール政権の大臣と結婚
ネスレ社との提携
ロレアルの成長
フランス一の資産家
ウェルト=ベタンクール事件
写真家フランソワ=マリー・バニエ
母娘の葛藤
リリアンヌの後見人
裕福な後継者
ロレアル重役の妻として
キリスト教とユダヤ教の狭間で
経営権を取り戻す
2人の後継者
ファッション業界をリード
生きていれば101歳

仏ロレアル・グループの相続人で、2017年9月にこの世を去ったリリアンヌ・ベタンクール。生きていれば2023年に101歳を迎えているはずだった。リリアンヌは言わずと知れた化粧品ブランドの発展とグローバル化に貢献し、莫大な遺産と経営順調なビジネスを後継者に託したはずだったのだが……

 

遺産相続で大波乱

ところが、リリアンヌが最期を迎えるにあたって、ベタンクール家も大きな波乱に見舞われることとなったのだ。今回はこのフランス屈指の大企業の歴史と将来を写真で追いかけよう。

 

ロレアル創業者の娘

ロレアルの前身「フランス無害染毛株式会社」の創設者、ウジェーヌ・シュエレールの一人娘として1922年に誕生したリリアンヌ・ベタンクール。父ウジェーヌは慎ましい出自の化学者だったが1900年代に起業に挑戦し、大成功を収めることとなった。

戦間期の急速な成長

衛生用品や化粧品に対する熱意の高まりを追い風に、巧みな広告戦略を展開することでウジェーヌは戦間期のうちにロレアルを急成長させることに成功。1957年に彼がこの世を去ると、一人娘のリリアンヌが35歳の若さで同社トップの座を継ぐこととなった。

 

 

幼いころからビジネス

家業を通じて幼いころからビジネスの世界に触れていたリリアンヌ・ベタンクール。そのため、大した苦も無くロレアルの発展とグローバル化に貢献することができた。

ド・ゴール政権の大臣と結婚

リリアンヌは1950年にアンドレ・ベタンクールと結婚。この頃から彼もロレアルの経営に加わるようになっていった。同時に、アンドレは戦後のフランス政界で政治家としても活躍しており、シャルル・ド・ゴール政権とジョルジュ・ポンピドゥー政権では大臣も務めていた。ところが、1990年代初頭にはスキャンダルによってロレアル経営陣を離れざるを得なくなってしまった。

ネスレ社との提携

敵対的買収や国有化の危機を前にして、ロレアル社は1974年にスイスのネスレ社と提携。このとき以来、ネスレ社はロレアル株の30%ほどを保有することとなった。両社はその後、数十年にわたって買収を繰り返しながらともに成長してゆくことになる。

 

ロレアルの成長

リリアンヌはまた、一族の外から有能な経営者をスカウトして会社を成長させてきた。フランソワ・ダル、リンゼイ・オーウェン・ジョーンズ(写真)、ジャン=ポール・アゴン、そして現職のニコラ・イエロニムスといった経営者たちの手で、ロレアルは世界中に店舗を構える化粧品業界のトップとなったのだ。

フランス一の資産家

ビジネスにおけるこの成功の結果として、リリアンヌは長らくフランス随一の資産家の地位にあった。1980年からこの世を去るまでフランスで一番裕福な女性であったばかりか、『フォーブス』誌の長者番付では2017年に推定資産395億ドルで世界一裕福な女性とされている。

 

ウェルト=ベタンクール事件

しかし、リリアンヌの晩年は一連のスキャンダルによって汚点が付くことになってしまった。まず、2010年に明るみに出たウェルト=ベタンクール事件だ。事件名にもなっているウェルトとは、当時サルコジ政権で大臣を務めていたエリック・ウェルト(写真)のことであり、利益相反行為に手を染めた疑いがもたれていた。ただし、この事件に関与したとされる政治家たちは全員免訴、あるいは免責されている。

 

写真家フランソワ=マリー・バニエ

しかし、もっとも世間の耳目を集めることとなったのは、リリアンヌ・ベタンクールとセレブ写真家、フランソワ=マリー・バニエの関係だろう。リリアンヌの娘フランソワーズ・ベタンクール=メイエールが、バニエはリリアンヌの判断力の衰えに付け込み、10億ドルあまりを不当に寄付・贈与させたとして裁判所に提訴したのだ。

 

母娘の葛藤

フランソワーズの立場では、バニエが母の衰えに付け込んで現金や名画を受け取っていたのは明らかだったという。しかし、数年にわたる対立の末、母娘は正式に和解を発表。フランソワーズがすべての訴訟を取り下げる代わりに、フランソワーズ=マリー・バニエはこれ以上リリアンヌから寄付を受け取らないことで合意に達したのだ。

 

 

リリアンヌの後見人

バニエ=ベタンクール事件は、リリアンヌの判断力の衰えにともなって2011年末に行われた後見人登録と無関係ではないだろう。なお、リリアンヌは2007年に夫のアンドレを亡くしている。

 

裕福な後継者

母の死後、フランソワーズ・ベタンクール=メイエールはロレアル・グループが長期にわたる成功で築き上げた莫大な財産を相続することとなった。2022年には一族の資産が610億ドルを突破、フランスで第4位の富豪となっている。さらに、ジェフ・ベゾスの元妻を抜いて世界一裕福な女性の座も手にしたのだ。

 

 

ロレアル重役の妻として

アンドレとリリアアンヌの一人娘、フランソワーズは、1984年にジャン=ピエール・メイエールと結婚。メイエールはアウシュヴィッツ強制収容所で命を落としたラビ(ユダヤ教の聖職者)の孫にあたり、1994年にロレアル社取締役会の副会長に就任。2010年には持ち株会社テティスの経営者となった。

 

キリスト教とユダヤ教の狭間で

カトリックの教えの下に育ったフランソワーズ・ベタンクール=メイエールは、聖書解釈やキリスト教とユダヤ教の関係などをテーマとする著作をいくつか出版している。

経営権を取り戻す

リリアンヌの死を契機として、ロレアル社とネスレ社は提携を解消。ネスレ社が保持していたロレアル株の一部はベタンクール家に売却されることとなった。その結果、2020年にはベタンクール=メイエール家がロレアル株の3分の1を一手に握ることに。

 

2人の後継者

フランソワーズ・ベタンクール=メイエールとジャン=ピエール・メイエールの間には2人の息子がいる:1986年生まれのジャン=ヴィクトルと1988年生まれのニコラだ。次期トップ候補を2人も抱え、ロレアルの未来は安泰だろう。

 

ファッション業界をリード

長男のジャン=ヴィクトルはビジネスマンとしてすでにベテランだ。2012年に祖母リリアンヌの後継者としてロレアルの取締役に就任。同年にカシミヤブランド「エグゼンプレール」も共同設立しているのだ。ベタンクール家が今後も高級ファッション業界をリードしてゆくのは間違いなさそうだ。

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