脳インプラント:うつ病治療の決め手になるか?
私たちの脳を冒す一筋縄ではいかない病気、うつ病。しかも、WHO(世界保健機関)によれば、世界で最も広く蔓延している疾患なのだという。
公式データによれば、全世界で2億8千万人以上が罹患しており、これは世界人口の約4%に相当する。
そのため、これまで何十年にもわたってうつ病に対する効果的な科学的治療法が研究されてきた。そしてついに、きわめて革新的な最先端技術が発表された。
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それは患者の脳に直接埋め込むインプラントというものだ。この装置を通じて脳に対して電気による刺激を与え、うつ病の改善を促すという。
脳科学を応用するニューロテクノロジーのスタートアップ「Inner Cosmos」社は、これを「心のデジタル錠剤」と呼んで期待を寄せている。『ビジネス インサイダー』誌によると、2022年の夏に米国ミズーリ州のセントルイスで、初めてうつ病治療のために刺激を送る装置(インプラント)が患者の脳に挿入されたという。
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この試験は1年間継続され、2023年には新たな装置が別の患者に試される予定だ。
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すでにヒトに対する臨床試験が実施されているとすれば、米国の医療当局が要求する非常に高いレベルの安全性が確認され、相当に進んだ段階にあるといえるだろう。
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うつ病治療のために脳に直接働きかけるインプラントにとりくんでいる企業は、「Inner Cosmos」社だけではない。この分野でよく知られている「ニューラリンク」社のほか、「Stentrode」社や「Synchron」社も興味深いプロジェクトを進めている。
「Inner Cosmos」社の原点は、創業者であるメロン・グリベッツの経歴にある。子供の頃、ADHD(注意欠陥障害)と診断されたことが、大人になってからこのプロジェクトに取り組むきっかけとなった。
プロジェクト発表会でメロン・グリベッツが「当社は、うつ病という非常に大きな市場のためにインプラントを作ったが、将来的には他の認知障害の治療にも使われるだろう」と述べたと、『Bloomberg』が報じている。
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このインプラントは、頭皮の下に電極を装着する。頭皮の下ではあるが、インプラントの装着は低侵襲に、つまり体への負担を最小化した状態で行われる。
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このインプラントにより、うつ病を誘発するとされる脳の左側の背外側前頭前野に軽い電気刺激を与えることができる。
脳インプラントによる電気刺激は1日1回、15分程度行われる。
「薬」を毎日服用するのと同じように毎日続ける治療の一種だが、電気刺激という形で行われる。
「Inner Cosmos」社のいわゆる「デジタル錠剤」は、アプリを介して使用される。患者の脳の状態を読み取りグラフにすることも可能で、継続的なモニタリングも可能だ。
この試験のインパクトは大きく「Inner Cosmos」社はFDA(米食品医薬品局)からIDE(治験機器免除)と呼ばれる承認を取得し、ヒトへの適用を開始することになった。しかし、このメカニズムが100%有効であるかどうかが分かるのは、まだ先の話だ。
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「Inner Cosmos」社は、こうした装置を頭皮下に直接埋め込むことでうつ病の治療に取り組む最初の企業だ。最終的に発売するインプラントは、臨床試験用のものより更に小型にすることを目指している。
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うまくいけば「Inner Cosmos」社のインプラントは、心理学、精神医学、そして薬物といった従来の方法ではなく、ハードウェアを通じてメンタルヘルス問題に取り組むという、パラダイムシフトになるはずだ。しかし、まだ目標に到達していない現段階では、うつ病の症状を自覚したら専門家の指導に従い、実際に多くの人を回復に導いている現行の治療方法に従うことが重要だといえるだろう。
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