日本の月面探査機「SLIM」が2度目の越夜に成功

SLIMが月面着陸
「ピンポイント着陸」に成功
目標地点から55メートル
探査機の軽量化
金属3Dプリントの脚
変形型月面ロボット「SORA-Q」
H2Aロケットで打ち上げ
エンジンが脱落するトラブル
日光が当たりはじめ、運用再開
月の起源を探る
犬種にちなんで付けられた岩石の名前
越夜に成功
2度目の越夜に成功
SLIMが月面着陸

1月20日、宇宙航空開発機構(JAXA)が開発した小型月着陸実証機「SLIM」がトラブルに見舞われながらも月面に着陸。これは昨年のインドに続き、世界5ヵ国目となる快挙だ。ちなみに、2月には米国企業インテュイティブ・マシンズの月着陸船「Nova-C」が、民間企業としては初の月面着陸を果たしている。

画像:JAXAデジタルアーカイブス

The Daily Digest をフォローして世界のニュースをいつも手元に

 

「ピンポイント着陸」に成功

しかも、今回SLIMが行ったのは単なる月面着陸ではない。NHKによれば、同機は目標地点からの誤差を100メートル以内に抑える「ピンポイント着陸」に成功した世界初の探査機になったというのだ。では、SLIMはそもそもどのような探査機で、何を目指しているのだろう?

画像:JAXAデジタルアーカイブス

目標地点から55メートル

JAXAいわく、SLIMは「『降りやすいところに降りる』探査ではなく、『降りたいところに降りる』探査」を実現するための第一歩だ。実際、SLIMは月面の目標地点からわずか55メートルの場所に降下し、かつてない精度の着陸を達成。今後の探査に向けて新たな可能性を拓いたと言える。

画像:JAXAデジタルアーカイブス

 

探査機の軽量化

また、SLIMが追求するもうひとつの目標は探査機の軽量化だ。JAXAによれば、将来的な太陽系科学探査では高度な観測装置が必要となるため、探査機を軽量化してより多くのリソースを観測装置に割くことができるようにしなくてはならないのだという。

画像:JAXAデジタルアーカイブス

 

金属3Dプリントの脚

この目標を実現するため、JAXAは着陸時の衝撃を吸収する脚を金属の3Dプリント製にしたほか、電子機器の小型化、電源系統の軽量化も図ったという。

画像:JAXAデジタルアーカイブス

 

変形型月面ロボット「SORA-Q」

実は、SLIMには2つの子機が搭載されており、本体から分離してミッションを行うようになっている。なかでも、JAXAが玩具メーカーのタカラトミー社等とともに共同開発した「SORA-Q」は一風変わった仕掛けを持っている。SLIMに格納されているときはボール状の姿をしているが、月面に放出されるとまるで変形ロボットのように展開し、自律的に探査を行うのだ。着陸後のSLIM本体の写真を撮影したのは、この「SORA-Q」だ。

画像:JAXAデジタルアーカイブス

H2Aロケットで打ち上げ

SLIMを搭載したH2Aロケットは2023年9月7日に種子島宇宙センターから打ち上げられた。その後、SLIMは月の重力を利用した軌道変更「月スイングバイ」を経て月周回軌道に投入され、着陸の機会をうかがっていた。

画像:JAXAデジタルアーカイブス

エンジンが脱落するトラブル

そして2024年1月20日、SLIMはついに月面着陸に挑む。ところが、高度50メートル付近で2基あるメインエンジンのうち片方が脱落するトラブルが発生。ひっくり返った状態での着陸となってしまった。

画像:脱落するメインエンジンを捉えた写真(JAXAデジタルアーカイブス)

日光が当たりはじめ、運用再開

この影響で太陽電池には日光が当たらず、当初は運用を停止せざるを得なくなってしまった。しかし、日光の角度が変わったことから1月28日に太陽電池が発電をはじめ、SLIMも再起動されることとなった。

画像:JAXAデジタルアーカイブス

 

月の起源を探る

運用を再開したSLIMからは、月面を捉えた写真などが地球に送られてきた。同時に、限られた時間の中で月面探査をスタート。SLIMに課された主なミッションは小型軽量探査機によるピンポイント着陸の実証であり、この目標はおおむね達成されたと言ってよい。しかし、JAXAはさらなる目標として月の起源探究を掲げている。月内部の物質が露出していると考えられる地点の岩石を分光カメラで分析し、その組成を地球上のものと比較することで、月が誕生した経緯を解き明かすのだ。

画像:電源回復直後にSLIMが送信した月面の様子(JAXAデジタルアーカイブス)

 

 

犬種にちなんで付けられた岩石の名前

SLIMが観測対象とする月面の岩石には「あきたいぬ」や「トイプードル」といった犬種の名前が付けられている。NHK放送によれば、この命名法を発案したのは立命館大学宇宙地球探査研究センターの佐伯和人センター長だという。佐伯センター長いわく、具体的な名称を付けることによって現場での混乱を避けることが目的だが、犬の名前を採用したことで岩石の相対的な大きさがイメージしやすくなるという利点もあったとのこと。

画像:JAXAデジタルアーカイブス

越夜に成功

SLIMの着陸地点は2月1日に夜を迎え、同機は再び休眠状態に。月面では氷点下170度の夜が2週間にわたって続くため、SLIMが機能を維持できるかどうかは未知数とされていた。しかし、時事通信によれば、JAXAは2月25日に同機との通信回復を確認し、調査に着手したという。

画像:JAXAデジタルアーカイブス

 

2度目の越夜に成功

そして3月27日、さらなる朗報が舞い込んできた。JAXAはSLIMが再び越夜に成功したと発表したのだ。そもそも極寒に耐えるような設計になっていない同機が、2度にわたって再起動したことは大きな驚きをもって受け止められた。『日本経済新聞』によれば、2度の越夜を経たSLIMは温度センサーや一部のバッテリーに不具合が見られるものの、探査機そのものの機能は維持できており、機体の分析を行うことで今後の探査機開発に役立つと考えられるそうだ。

写真:SLIMチームと同機搭載のマルチバンド分光カメラ(MBC)チーム(JAXAデジタルアーカイブス)

The Daily Digest をフォローして世界のニュースをいつも手元に

ほかのおすすめ