大人になってからの社会的孤立はあなたの脳を老けさせる?
社会的孤立と孤独は現代の社会において、深刻な健康問題を引き起こすファクターになっている。最近の研究によると、孤立と孤独は脳を早く老いさせる可能性があることが分かった。
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は「社会的孤立」を、他者とのつながりの欠如や社会的な支援やふれあいがほとんど得られない状態だとしている。
つづけてアメリカ疾病予防管理センターは「孤独」を、ひとりぼっちだと感じること、あるいは他者から切りはなされていると感じることだと定義している。当人にとって重要な意味をもつ親しい結びつきが欠けている、あるいはどこかに属しているという実感がない、といったような感覚である。
これまでの研究は、社会的孤立と孤独の状態をさまざまな健康リスクの増大と結びつけてきた。不安、抑うつ、卒中、認知症、依存症、心臓病、2型糖尿病、あるいは早死になどである。
このような先行研究を踏まえたうえで、ニュージーランドの研究グループは社会的孤立と孤独がヒトの脳にどのような影響をもたらしうるか、データの分析をこころみた。
「健康と幸福を左右する社会的決定要因に興味があります。社会的孤立あるいは社会的ふれあいの欠如は、その決定要因のひとつなのです」と、研究グループのリーダーであるロイ・レイ=イー(Roy Lay-Yee)が、科学ニュースサイト『PsyPost』で語っている。ロイ・レイ=イーはオークランド大学のシニアリサーチフェローである。
彼はつづけて、「社会的につながっていることはきわめて重要です。そのつながりがもたらす効果は心と体に深い影響をもたらし、私たちの生活を大きく左右します」とコメントしている。
社会的孤立が個人とその脳にどのように作用するかを研究するため、ロイ・レイ=イーと彼の研究グループはニュージーランド、ダニーデンの縦断的コホート研究「The Dunedin Multidisciplinary Health and Development Study」の充実したデータを用いた。これは1972年4月から1973年3月に生まれた1037人を対象とする長期の(現在も継続中の)追跡研究である。
このダニーデン研究では、幼少期の5歳から11歳まで、そして成人期にあたる26歳から38歳までを含むさまざまな年齢において健康評価をおこなっており、45歳の時点では脳の健康測定をおこなっている。
さらにこの長期研究では、研究対象者の社会的孤立についても追跡調査しており、十分なデータの蓄積がある。ロイ・レイ=イーをはじめとする研究者たちはそのデータを分析し、幼少期から成人期にかけての社会的孤立のパターンという観点から、研究対象者を四つのグループに分けたという。
分けられた四つのグループとは、「孤立なし」「幼少期のみ孤立」、「成人期のみ孤立」、「子供から大人まで持続する孤立」である。
科学ニュースサイト『PsyPost』によると、研究対象者たちは45歳のときに頭部のMRI検査を受けた。その検査によって得られた脳の構造のさまざまな測定値を組み合わせてアルゴリズムを作成し、それによって脳の年齢を推定したのだ。このアルゴリズムが量化するのは、脳の推定実年齢と研究対象者の実際の年齢との差であり、それは「脳年齢ギャップ推定値」と呼ばれる。
研究者たちは、社会人口学的因子(性別など)、社会経済学的因子(収入や職業など)、家族因子(10代での出産、片親、虐待歴など)を含むさまざまな要因を考慮にいれて、調整を分析に反映させた。その結果、「成人期のみ孤立」のグループは孤立を経験したことのない人々に比べて、推定脳年齢が平均で1.73歳高いことが明らかになった。
「ここから得られる教訓は、社会的なつながりを維持せよ、ということになるかもしれません。それは長期的には脳の健康増進や認識機能の向上といった、さまざまな利益をもたらすことにつながるでしょう」と、ロイ・レイ=イーは『PsyPost』に語っている。
ところで、幼少期にのみ孤立を経験した人々は、中年に達したときの脳年齢が他のグループと比べて高くなる、ということはなかった。
「幼少期に経験される社会的孤立が脳年齢にネガティヴな影響を与え続けないということは、私たちにとって驚きでした」と、ロイ・レイ=イーはコメントしている。「これはつまり、社会的つながりを向上するのに遅すぎることはない、ということを意味しています」
この研究によって、成人期の社会的孤立と脳の老いとの関連が示された。だが心理学ウェブメディア『PsyPost』によれば、残念ながらこの研究では決定的な結果は得られていないとしている。「さらなる研究により、社会的孤立がじじつ脳の老いをもたらすのか、またそのメカニズムはいかなるものかを確かめる必要があります」と、ロイ・レイ=イーは語っている。彼らの論文は2023年7月、ケンブリッジ大学出版の学術誌『Psychological Medicine』のオンライン版に掲載された(タイトルは「Social isolation from childhood to mid-adulthood: is there an association with older brain age?」)。