ロシアによる米国侵攻はあり得る?
広大な領土を誇る米国はその地理的条件ゆえに、これまで他国の攻撃に晒されたことはあまりない。しかし、ウクライナ侵攻を巡って緊張が高まりを見せる中、ロシアが米国に侵攻するというシナリオはあり得るのだろうか?
実は、そのようなシナリオを題材としたフィクションはすでに存在する。ジョン・ミリアス監督の『若き勇者たち』(1984年)だ。冷戦末期に制作されたこの作品では、ソ連が米国本土に攻め込んでくるという設定になっており、2012年にはリメイク版もリリースされている。
これは、ウィキペディアが作成した『若き勇者たち』における世界地図だ。メキシコや米国南部はソ連の支援を受けるニカラグアおよびキューバの支配下にあり、ソ連軍はアラスカ経由で北部から米国に攻撃を仕掛けるのだ。
突拍子もないシナリオではあるが、すべてが荒唐無稽というわけではない。というのも、アラスカ州が外部からの攻撃に対し脆弱なのは事実なのだ。実際、第二次世界大戦中には日本軍がアリューシャン列島に侵入したこともある。
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1942年に、日本はアラスカ州に属するアリューシャン列島のうちアッツ島とキスカ島を占領。しかし、翌年には米軍が両島を取り返している。
また、侵攻とは言えないまでも、米国内での破壊工作ならばナチス・ドイツも試みたことがある。「パストリアス作戦」だ。ドイツは1942年6月に潜水艦2隻を用いて、工作員8人をロングアイランド(ニューヨーク州)およびフロリダ州の海岸に相次いで送り込んだのだ。しかし、メンバーの裏切りで事件が発覚、工作員たちは密告した2人を除いて全員処刑されてしまった。
米国を侵攻する企てとしてもっとも野心的なものは、メキシコ革命期の混乱の中で生まれた「サンディエゴ計画」だろう。大胆にも、アリゾナ州やニューメキシコ州、カリフォルニア州、テキサス州をメキシコに併合するという目標が掲げられたのだ。ただし、実際には散発的なゲリラ戦や破壊活動に留まっている。
ともあれ、米国本土に対する本格的な侵攻を行うのは至難のわざだ。ウィキペディアでは、このような作戦にともなう困難について詳しく説明されている。
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それによれば、まず問題となるのは米国の広さだ。ウィキペディアいわく:「たとえば、南西部の砂漠地帯や中西部の五大湖が、主要な人口密集地を侵略の脅威から遠ざけている」
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また、領内深くまで侵攻した場合、外部からの補給線を維持するのはほぼ不可能だろう。
また、ウィキペディアによれば、「軍事専門家ディラン・レールケは米国の西海岸および東海岸に水陸両用作戦を仕掛けたとしても、橋頭堡を確保する上では規模が不十分だと指摘している」とのこと。
したがって、ここ数十年に関していえば、米国への侵攻が真剣に検討されたことはまったくない。核兵器の応酬というシナリオを想定していたソ連ですら、本土侵攻は眼中になかったのだ。
CNN放送が国際戦略研究所(IISS)やストックホルム国際平和研究所(SIPRI)、さらに軍事力評価機関「グローバル・ファイヤーパワー」のデータをまとめたところによれば、米軍は130万人規模の兵士に加えて航空機およそ1万3,200機、戦車6,600両を抱えるほか、原子力空母11隻を含む軍艦484隻、駆逐艦と潜水艦も数十隻保有しているとされる。
一方、アナリストや研究者たちの多くは軍事力よりも地理的要因を重視しているようだ。しかしこの点でも、北米大陸の大部分を領土とする米国は大きなアドバンテージを持っていると言えよう。
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もちろん、SFの世界なら話は別だ。たとえば、フィリップ・K・ディックのディストピア小説『高い城の男』では、第二次世界大戦で枢軸国が勝利し、米国が日独の支配下に置かれた世界が描かれている。
また、ハリウッドでも、冷戦下で暮らす人々の強迫観念をユーモラスに描き出したコメディー映画『アメリカ上陸作戦』(1966年)が制作された。
いずれにせよ、米国は自国を脅かすリスクについて常に目を光らせている。大規模な本土侵攻はほぼ不可能だとしても、アメリカ同時多発テロ事件のような思いがけない攻撃を受ける可能性は否定できないためだ。
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