リナ・カーン:ジェフ・ベゾスやマーク・ザッカーバーグを震撼させる希代の法律家
2021年6月に米国の連邦取引委員会(FTC)委員長に就任したコロンビア大学の法学教授リナ・カーン。31歳での就任は史上最年少だ。波紋を呼んだ論文「Amazon's Antitrust Paradox(アマゾンの反トラスト・パラドックス)」で知られる彼女は今、ITの寵児たちを震え上がらせている。
リナ・カーンが連邦取引委員長に就任すると間もなく、アマゾンとフェイスブックはFTCの企業調査資格を剥奪するよう請願を行った。カーンが以前からとっている反トラスト的姿勢からして、両社は公平に扱ってもらえないだろうというのだ。
エリザベス・ウォーレン上院議員およびカーン派の人々はIT業界の大企業が新委員長に「嫌がらせ」しようとしているとして、両社の請願を却下した。
1989年、英国ロンドンでパキスタン人の両親のもとに誕生したリナ・カーン。家族とともに米国に移住したのは、リナが11歳のときだ。その後、ウィリアムズ大学およびイェール大学で学んだ。
カーンは「今どきの反トラスト派」と呼ばれることもある新ブランダイス派を自認している。この流派の主張は、今日の独占禁止法は市場価格と消費者の権利ばかりに気を取られ、不当な利益を上げる独占・寡占企業に対する措置をなおざりにしているというものだ。
新ブランダイス派という呼称は、20世紀初頭に合衆国最高裁判所長官を務めたルイス・ブランダイスに由来する。市場でシェアを独占するような企業が現れると自由競争や革新、労働者の権利が損なわれると考える、反トラスト法の擁護者だ。
その精神はカーンの学術論文「Amazon's Antitrust Paradox(アマゾンの反トラスト・パラドックス)」にもよく表れている。『ニューヨーク・タイムズ』紙は2017年に『イェール・ロー・ジャーナル』に掲載されたこの論文を「数十年にわたる市場の独占状態を再定義したもの」だと評価した。
カーンは、シェアを独占する大企業が価格を低く抑え、顧客を満足させているというだけで、市場をコントロールすることができるのはおかしいと主張している。
『ガーディアン』の報道によれば、カーンは論文の中で、グーグルやフェイスブック、アマゾンといった巨大なハイテク企業の台頭は、デジタル時代に合わせて米国の反トラスト法を修正する必要があることを示していると主張している。
カーン委員長いわく:「消費者の長期的利益には製品の質や多様性、革新性が含まれる。そして、こういった要素はしっかりした競争と開放的な市場の双方を通じて最も促進される」
アマゾンがカーンの主な標的になったのは不思議なことではない。『ニューヨーク・タイムズ』紙が指摘する通り、ジェフ・ベゾスが作り上げた小売業の巨頭は50万人以上の従業員を雇用しているほか、クラウドコンピューティング部門を通じてインターネットに及ぼす影響も計り知れないのだ。
時価総額1兆ドルを突破し、一時的に世界ランク2位に浮上したこともあるアマゾン。その収入額はツイッター、フェイスブック、グーグルの収入額を合わせてもまだ届かない。
しかし、アマゾンは従業員に対する待遇についても激しい批判を浴びている。従業員の福祉よりも迅速な配達を優先しているというのだ。
『ガーディアン』紙が2021年3月に掲載した記事によれば、アマゾンの運転手は休憩なしの14時間勤務を強いられており、倉庫の状況も決して良いとは言えないという。
アマゾンはまた、反労働組合の姿勢で知られてきた。長年にわたる法廷闘争の結果、アマゾンの倉庫でようやく労働組合が認められたのは2022年4月のことだ。
連邦取引委員会のカーン新委員長は就任早々、大企業が盤石になりすぎるのを阻止する企業合併法の修正を承認し、好調な滑り出しを見せた。さらに、IT企業による個人情報の利用に制限を設けプライバシー保護を高めることにも意欲を示している。今後の活躍が期待されるところだ。