ギャングが暴走、内戦状態に陥るエクアドル
2024年1月17日、エクアドルの都市グアヤキルで、検事が殺害されるという事件が発生した。殺害されたセサル・スアレス検事は麻薬関連の犯罪を追及していたのだ。
AP通信が伝えたところによれば、事件当時、スアレス検事は運転中だったが、運転席の窓から銃撃を受けたとのこと。
同国のディアナ・サラサール検事総長は検事たちの安全確保を要請する一方、麻薬関連犯罪の捜査は継続されると約束。EFE通信によれば、スアレス検事の殺害事件に関連して、すでに容疑者2人が逮捕されたとのこと。
一連の事件によって周辺住民は避難を余儀なくされたほか、公共施設の閉鎖や交通機関の麻痺が相次ぎ、パニックはエクアドル全土に広がっている。
エクアドルでは以前から犯罪組織による暴力がはびこってきたが、ここにきて一段と激しさを増している。今回の事件が発生する前にも、誘拐事件や放送局の襲撃、さらには服役中の犯罪組織リーダーによる脱獄事件などが相次ぎ発生。これを受け、エクアドルは犯罪組織との間で「武力紛争」に陥っているとして、ダニエル・ノボア大統領が全土に非常事態宣言を出す事態となっていた。
このような緊迫した状況の中、スアレス検事の殺害事件が発生。ノボア大統領は非常事態宣言を延長するという決断を下した。
一連の暴力事件の発端となったのは、悪名高い犯罪組織のボス2人が服役先の刑務所から逃亡したことだった。これに対し、ノボア大統領は20あまりのギャング集団を「テロ組織」に指定し、断固対応する構えを見せていた。
こういったギャング集団はおもに麻薬ネットワークの運営に手を染めており、近年はエクアドルの治安を急速に悪化させる元凶となっている。
とりわけ、ギャング集団のターゲットとなるのは彼らの犯罪を捜査したり追及したりする人々だ。たとえば、2023年8月には、大統領選の候補者だったフェルナンド・ビジャビセンシオ氏が犠牲となった。
汚職との戦いを掲げて大統領選に立候補したビジャビセンシオ氏は、ジャーナリストとして当局と犯罪組織の癒着を追及しており、ギャング集団から何度も脅迫を受けていたという。
地元メディアの報道によれば、ビジャビセンシオ氏が追及していた汚職事件は、今回殺害されたセサル・スアレス検事が担当する事件とも関連性があったという。
ビジャビセンシオ氏が告発した人物には多数の地方公務員候補者が含まれており、その一部は検察当局によって麻薬ネットワークとのつながりが指摘されていたのだ。
2022年には、服役中だった麻薬王レアンドロ・ノレロが刑務所で死亡する事件が発生したが、彼の独房をあらためた検察は裁判官や検事、警察官、公務員などがノレロを支援していた形跡を発見することとなった。
これが発端となり、犯罪組織と国家中枢の癒着が明るみに出る。この事件は「病巣転移事件」と呼ばれ、スアレス検事が捜査を担当していたという。また、容疑者の中にはビジャビセンシオ氏に告発された人物も含まれていたとのこと。
エクアドル検察は事件に関連して、複数の裁判官や検事、公務員、警察官、弁護士などを起訴。AP通信によれば、ディアナ・サラサール検事総長はこの事態を、「高くついたレントゲン検査」と形容したという。
ユーロニュース放送によれば、米国の国際麻薬・法執行局はエクアドルのグアヤキル港について「ヨーロッパや世界各地にコカインを運ぶための主要物流センター」と表現しているとのこと。
犯罪組織はバナナをはじめとする一次産品を輸出するための物流システムを悪用して、おもに欧州向けの違法薬物を輸出しているのだ。
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EFE通信によれば、このような麻薬ネットワークの暗躍によってエクアドルは2023年に中南米で最も暴力がはびこる国になってしまったという。
また、スペイン紙『エル・パイス』は、エクアドルでギャングの暴力によって2023年に命を落とした犠牲者の数は2019年の4倍に増加したと報じている。
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