情熱が続く期間はわずか1年以内:神経科学者が「恋」の動きを分析した結果とは
だれかにどうしようもなく心が惹きつけられ、胸を焦がすことを恋という。それは性的な欲望と分かちがたく結びつくと同時に、たぎるような情熱に支えられている。
その感情はきわめて強力で、ノルアドレナリンをはじめとする神経伝達物質の分泌をたえず促し、私たちの身体や精神に大きな影響を与える。
写真:Unsplash - Jonathan Borba
興味深いことに、バルセロナ大学の科学者サラ・テラーによると、恋をしている人の脳内で分泌されるホルモン物質は、ストレスを感じている人の脳内で分泌されるものと同じだという。
恋をしている人は、ストレスを感じている人と同様、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)の分泌が活発になることによる頻脈、動悸、血圧の上昇といった身体的影響を受けていると、ブラジル紙『オ・グローボ』は報じている。
恋に落ちた人が夜にぐっすり眠れなくなるケースはよくある。不眠は多くの場合、情熱がもたらす慢性的な症状なのだ。
恋に落ちると眠れなくなるだけではない。神経科学者のサラ・テラーはスペイン紙『ラ・バングアルディア』で次のように語っている:「私たちが恋に落ちると、脳の前部の働きが抑制されます。脳のその部分は理性を司っているので、私たちは恋に落ちると少しばかり理性を失ってしまうのです」
このテーマについて研究をおこなったサラ・テラー博士は、ライターのフェラン・カセス(Ferran Cases)と共著で『El cerebro de la gente feliz(幸せな人々の脳)』という本を2022年に出版している。
情熱によって私たちは欲望や快楽を追い求めるようになるが、その一方で強い依存状態に陥ることもある。
情熱の影響下にある脳では、ドーパミンの分泌も活発になる。ドーパミンは幸せホルモンとも呼ばれ、快楽や満足をもたらす神経伝達物質なのである。ドーパミンはある種の薬物を使っても分泌されることが知られている。
「進化学的なレベルにおいては、ドーパミンは私たちにとって非常に有利に働きます。ドーパミンは、食べること、飲むこと、性行為といった、種の存続に直接かかわる機能を遂行することを助けるからです。ただ、ドーパミンには依存性があり、私たちはもっともっとそれを欲しがることになります。未来にある幸福を求めて、目の前にある今を享受することが難しくなるのです」と、サラ・テラー博士は説明している。
そのような神経科学的な作用により、恋をしている人々は不安に悩まされがちなのだ。脳がそのような状態にあまりに長く置かれると、脳の機能じたいが危機にさらされかねない。
ある人が絶えず恋愛状態にある場合、その人の心的機能は変化をきたし、異常な行動をとるようになり、私生活や仕事がそれまでのように立ち行かなくなる。
したがって、人類学者で生物学者のヘレン・E・フィッシャーが指摘するように、恋が始まってからおよそ12ヶ月から15ヶ月でホルモンレベルに著しい低下が認められることがわかっている。脳は通常の活動に戻り、隣にいるパートナーを醒めた目で見ることができるようになるのだ。
ヘレン・E・フィッシャー教授は米ラトガース大学所属の人類学者として人間の行動を研究している。研究の関心は恋愛的魅力と愛にあり、30年にわたってそのテーマの論文を発表してきた。『愛はなぜ終わるのか』(吉田利子訳、草思社、1993年)など、著書の何冊かは日本にも紹介されている。
もっとも、ホルモンレベルが低下することは必ずしも恋愛相手についての感情鈍麻や無関心につながるわけではない。それはより穏やかで、長続きする愛への移行を意味してもいる。
神経科学の知見によると、恋愛初期の情熱的なフェーズが終わると、脳内では生化学的に新しい変化が起こる。ドーパミンとノルアドレナリンの分泌がおさまり、前頭前皮質は平常運転に戻り、情熱の嵐が引いていくのだ。
感情が当初の激しさを失っても、カップルがその段階を乗り越えて連れ添った場合、また別のホルモンが効果を現し始める。愛着と共感をつかさどるオキシトシンというホルモンだ。
ブラジル紙『オ・グローボ』によると、ピッツバーグ大学の神経科学者であるエドゥアルド・カリクストは、カップルの関係が長続きするかどうかは3つの要素から考えられると指摘している。すなわち、肉体的な魅力、知性による高い評価、互いに相手の仕事や成功を認め合うことである。