過失致死罪に問われたアレック・ボールドウィンの裁判が審理打ち切りに
映画『Rust』の撮影現場で、俳優のアレック・ボールドウィンが撮影監督のハリーナ・ハッチンスを意図せず死亡させてしまった事件をめぐり、同氏の過失致死罪を問う裁判が行われていたが、審理打ち切りという予想外の展開となった。
審理打ち切りの理由は検察側が証拠品を意図的に隠蔽し、弁護側に提示しなかったことだ。この判断を受けて、ボールドウィンは思わず涙を浮かべていた。
焦点となったのはサンタフェ当局が保管していた弾薬一式とそれらの写真だ。これらの証拠品が本当に『Rust』の現場から押収されたものなのかどうかは定かではないが、これが裁判の行方を大きく左右することとなった。
これらの証拠品は『Rust』の撮影用に実弾や空砲を提供した人物たちが事件後、捜査当局に提出したものだ。
CNN放送によれば、証拠品の中には明らかに事件とは無関係なものも含まれており、事件現場からもたらされたものがあったのかどうかは不明だという。それでも、アレック・ボールドウィンや武器担当者ハンナ・グティエレス=リードに対する裁判では、その行方を左右する可能性があった。ところが、ボールドウィンの弁護団にはこれらの証拠品が提示されなかったのだ。
エンタメサイト「Vulture」によれば、解析班の上官は証拠品どうしの間に矛盾があるとわかると、「弾薬を『別の事件ファイルに』分類し、弁護側に開示しないよう」指示したとされる。ボールドウィンの弁護団はこれが大きな誤りであるとし、公訴棄却の理由になり得ると主張。
画像:Wesley Tingey / Unsplash
事件を担当したマーロウ・ソマー判事もこの主張に同意し、「陪審員はすでに宣誓しており、被告は判決に直面しております。この期に及んで、このような事実が明かされるというのは遅すぎであり、被告の準備を貶めるものです。裁判所がこの誤りを正すことはできません」と述べた。
ボールドウィンの弁護団が捜査当局による証拠品の隠蔽があったと主張したことで、裁判は波乱に満ちたものとなった。CNN放送によれば、検察官同士による激しい尋問が行われ、そのうちの1人はその場で職務を離脱。ボールドウィンは結局、無罪となった。
裁判中に訴追から離脱したのはアーリンダ・オカンポ・ジョンソン検察官。同氏は『ピープル』誌に対し、「検察官は国民だけでなく被告人に対しても責務を負っており、すべての証拠品が提示されるよう、気を配らなくてはなりません」と述べ、証拠品の不適切な取扱いが発覚したことで「倫理的な義務感から離脱せざるを得ませんでした」と説明している。
一方、ボールドウィンは感極まった様子で、「多くの人々に支えていただき、この場ではお礼をしつくせないほどです。みなさまがわたしたち家族にしてくださった親切には、言葉にできないほど感謝しております」とInstagram投稿を行った。
ともあれ、これで『Rust』をめぐる裁判はすべて幕を閉じたことになる。アレック・ボールドウィンは2021年に行われた同作品の撮影において小道具の銃を不用意に扱い、撮影監督のハリーナ・ハッチンスを死亡させたとして、過失致死罪に問われていた。ここで、事件のあらましを振り返っておこう。
2021年10月、リハーサルを行っていたボールドウィンの銃が暴発し、撮影監督のハリーナ・ハッチンスが死亡、監督のジョエル・ソウザが負傷。
画像:Jensen Ackles / Instagram
ボールドウィン(66)は小道具の銃に実弾が込められていたとは知らず、発砲は偶発的なものだったと繰り返し証言。撃鉄は起こしたが、引き金は引いていないと主張した。
画像:Reid Russell / Instagram
この事件をめぐり、ニューメキシコ州で裁判が始まったのは今年7月9日。10日間の予定だったが、審理打ち切りとなったため、ボールドウィンはわずか4日で釈放されることとなった。『ガーディアン』紙によれば、仮に有罪判決が下っていれば、最長禁固18ヵ月が言い渡される可能性もあったという。
ボールドウィンの裁判に先立って、武器担当者のハンナ・グティエレス=リードは過失致死で有罪となり、禁固18ヵ月が宣告されていた。しかし、このときはまだ、捜査当局による証拠品の隠蔽が明るみに出ていなかった。
しかし、ボールドウィン裁判の結果を受け、ハンナ・グティエレス=リードを担当するジェイソン・ボウルズ弁護士もグティエレス=リードに対する判決の取り消しを求める構えだ。CNN放送によれば、同弁護士は「今回、判事は州による不正行為を認めたが、ハンナのケースにもこれは当てはまります」と述べたそうだ。
刑事裁判は捜査当局の不手際によって打ち切りとなったが、民事裁判の可能性は依然として残されている。ボールドウィンは誤って銃を発射してしまったばかりか、『Rust』のプロデューサーとして名を連ねており、制作全体を監督する立場にあったのだ。
ハッチンスの遺族を担当するグロリア・オールレッド弁護士はCNN放送をはじめとするメディア各社に対し、「アレック・ボールドウィンが今回の審理打ち切りを祝うとしたら、それは時期尚早かもしれません。私たちはハリーナ・ハッチンスのため、最後まで戦うつもりです」とコメント。
オールレッド弁護士いわく:「あれ(刑事裁判)は私たちの訴訟ではありませんでした。しかし、今度は私たちの裁判、つまり民事裁判です。影響力を行使して裁判の行方を左右し、事態をもっと進展させることができるはずです」
BBC放送によれば、遺族の代表はボールドウィンがハッチンスの死に関して「責任を逃れることはできない」と述べたそうだ。民事裁判になれば、ボールドウィンは遺族に対する多額の賠償金支払いを求められるかもしれない。なお、プロデューサーとしては2023年に遺族との間で和解が成立している。
しかし、ハッチンスの夫、マシュー・ハッチンスはこの訴訟に加わらない見込みだ。2022年にボールドウィンと合意に達しているためだ。マシューは母を失った息子に対する支援として多額の和解金を受け取ったほか、『Rust』の製作総指揮者に任命されており、この作品が興行成績を上げた方が好都合なのだろう。