見ているだけで発汗? 激辛トウガラシの世界
トウガラシの原産地は南米ボリビアというのが定説となっており、ニューヨーク植物園によると、そこからアメリカ大陸じゅうに広まった。その歴史はかなり古く、じつに7,500年前から食用にされてきたという。トウガラシは人類が栽培を始めた最初の作物の一つなのだ。
しかしトウガラシがアメリカ大陸の外に伝播するのは大航海時代よりもあとの話である。つまりおよそ500年前、クリストファー・コロンブスがトウガラシを新大陸からヨーロッパに持ち帰り、ポルトガルの貿易商がそれをヨーロッパからアジアにもたらす。やがてトウガラシの栽培が世界各地で始まり、それぞれの食文化になくてはならない食材として定着したのだ。
写真:ciboulette / Pexels
ところで、トウガラシはものによって辛さに相当の差がある。その辛さを「見える化」しようと、20世紀初めにウィルバー・スコヴィルというアメリカの薬剤師が専用の尺度を考案した。その尺度はスコヴィル値(SHU)と名付けられ、もともとはトウガラシのエキスをどんどん薄めていって辛さがまったく感じられなくなるときの薄め具合から求められていた。しかし近年では測定技術の発達により、スコヴィル値はトウガラシの果実に含まれるカプサイシンの量の単位となった。
カプサイシンはトウガラシの辛味のもととなる成分であり、他の植物では作られない。トウガラシはカプサイシンを作ることで、ある種の哺乳類や虫や菌類から我が身を守っていると考えられている。
写真:Deepak Ramesha / Pexels
そして最近の研究によると、カプサイシンにはアドレナリンの分泌を活発にしたり、代謝を促進したりといったような健康効果があるという。英医学誌『BMJ』に2015年に発表された研究では、辛い食べ物を週に6日以上食べる人は死亡リスクが14%下がることが示された。
写真:Jennifer Lawrence Sobs in Pain While Eating Spicy Wings - Hot Ones, First We Feast / YouTube
そのように健康効果も期待されるカプサイシンだが、なかには健康面よりもむしろ辛味そのものにハマり、とんでもない量のカプサイシンを含む激辛トウガラシを生み出すべく品種改良に奮闘する人々もいる。
写真:World's hottest pepper challenge gone wrong - Lizzy Wurst / YouTube
米サウスカロライナ州で栽培された「スモーキン・エドのキャロライナ・リーパー」は、最も辛いトウガラシのギネス世界記録を2013年に更新、続いて2017年にも更新した。その風味はフルーティーで、シナモンやチョコレートを思わせる甘さも感じられるというが、さきに触れた辛味単位(スコヴィル値)で164万1,000SHUという驚異的な値を叩き出している。生産者のスモーキン・エド・カレーは10年かけてこのトウガラシを開発したという。
「スモーキン・エドのキャロライナ・リーパー」に記録を破られるまで、この「トリニダード・スコーピオン・ブッチ・テイラー」が世界で最も辛いトウガラシだった(スコヴィル値は146万3,700SHU)。その名前のとおりトリニダード・トバゴ原産の品種をもとにしており、米ミシシッピ州で開発された。サソリの尻尾のような見かけが可愛くもあり、怖くもある。
写真:Trinidad Scorpion Butch T Chili ripe on a plant by Kouya / Wikimedia
ところでギネス世界記録といえば、米国出身のグレゴリー・フォスターという人物が2021年に「一分間に食べた激辛トウガラシの数」の記録保持者になった。食べたのは「ブード・ジョロキア」というトウガラシで、その数は17個という。
写真:Most Ghost Peppers Eaten in One Minute - Guinness World Records / YouTube
そして2022年、グレゴリー・フォスターは10個の「キャロライナ・リーパー」を33.5秒で平らげるという記録を打ち立てた。「食べ始めてから30秒しないと本格的な痛みはやってこない」と彼は言っている。
写真:Spicy Showdown - Carolina Reaper Ultimate Chili Challenge, Guinness World Records / Youtube
「トリニダード・モルガ・スコーピオン」も激辛トウガラシとして知られている。ニューメキシコ州立大学のトウガラシ研究所によると、そのスコヴィル値は120万SHU。同研究所所長のポール・ボスランド教授は次のように語っている。「一口食べると、たいして辛くはないように思うが、あとからどんどん辛さが襲ってくる。たちが悪いね」
写真:Trinidad Moruga Scorpion chili peppers, Hankwang / Wikimedia
「セブン・ポット・ダグラ」は辛いことはもちろんだが、風味の良さでも知られている。トウガラシ専門の通販サイト「PepperHead」によると、茶色のトウガラシでこれほどの辛さを持つものはまれだという。そのスコヴィル値は最大で180万SHUになることも。
写真:7 Pot Douglah taste test, Peter Stanley / Youtube
「セブン・ポット・プリモ」は「ナガ・モリチ」と「トリニダード・セブン・ポット」の交配種である。ルイジアナ大学の園芸学者、トロイ・プリモが開発した。見かけはサソリの尻尾のようで、果皮は「キャロライナ・リーパー」のようにしわが寄っている。トウガラシ通販サイト「PepperHead」によると、そのスコヴィル値は140万SHUを超えるという。
写真:POD REVEIW....The FAMED 7 Pot Primo, Chase The Heat / YouTube
イギリスで開発された「ナガ・バイパー」は、スコヴィル値が135万SHUのトウガラシである。「ナガ・モリチ」と「ブート・ジョロキア」と「トリニダード・モルガ・スコーピオン」をかけ合わせて作られた。
写真:Eating a Naga Viper Chili, Brian Ambs / YouTube
「ブート・ジョロキア」はその名が広く知られたトウガラシである。この品種はスコヴィル値で史上初めて100万SHUを超え、2007年にギネス世界記録にも登録された。YouTubeなどの動画メディアでもこのトウガラシは頻繁に登場する。これは北インドおよびバングラデシュ産の品種で、もちろん料理に用いられるほか、やや意外な用途としては野生の象を追い払うためすり潰して柵に塗ったり発煙弾に仕込んだりする。
写真:A fully grown bhut jolokia or ghost pepper plant by Chella P / Wikimedia
「セブン・ポット・バッラクポア」はトリニダード・トバゴ産の激辛トウガラシで、そのスコヴィル値はおよそ100万SHUだという。
写真:The '7 Pot Barrackpore' Pod Review - Bill Moore’s Hot & Spicy Reviews / YouTube
「セブン・ポット・レッド(ジャイアント)」もスコヴィル値で100万SHUに到達する強い辛みを持っている。ところでトウガラシの名前にしばしば入っている「セブン・ポット」というのは、そのトウガラシ一莢で深鍋七杯分(セブン・ポット)のシチューを辛くできるほど強い辛さを持つ、ということからきている。
写真:7 Pot SR Gigantic Red - paulmtonkin / YouTube
「レッド・サヴィナ・ハバネロ」は、ハバネロの中でも特別に辛いものの交配を重ねて生まれた品種で、1994年から2006年まで最も辛いトウガラシとしてギネス世界記録を保持していた。そのスコヴィル値は50万SHUで、ほかの激辛トウガラシのスコヴィル値を見慣れた人にとってはたいしたことがないように感じられるかもしれないが、常人の舌には十分すぎるほど辛い。
写真:Harvest Red Savina Habanero super hot peppers - Home Gardening / YouTube
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