新たな挑戦に乗り出したイーロン・マスク:写真で迫るビリオネアの素顔
予想外の行動で私たちをあっと言わせ続けてきたIT業界の寵児、イーロン・マスク。彼に買収されるのを防ぐため、ツイッター社の取締役会は1か月にわたって交渉や抵抗を続けていたが、イーロンがツイッター社の筆頭株主となったことでついに決着がついた。いまや向かうところ敵なしのイーロン・マスクだが、一体どのようにして現在の地位に登りつめたのだろう?今回はその素顔に写真で迫ってゆこう。
イーロン・マスクは1971年6月28日、南アフリカ共和国の行政首都プレトリアで誕生した。イーロンはIT世代を代表するビリオネアだと考える人も多いことだろう。
環境活動家グレタ・トゥンベリ(2019年)、米政府を率いるジョー・バイデン&カマラ・ハリス(2020年)に続き、2021年に『タイム』誌が「今年の人」に選んだのはイーロン・マスク。テスラ社・スペースXでCEOを務めるばかりかツイッター社をも飲み込み順風満帆だ。
今や飛ぶ鳥を落とす勢いのイーロン・マスクだが、常に順調だったというわけではない。現在の地位を築くにはもちろん苦闘した経験もあるのだ。では、スペースXによる火星旅行の夢から自動運転技術、「ボーリング・カンパニー」計画まで、イーロン・マスクの波乱に満ちた半生を振り返ろう。
カナダ人の母マヤと南アフリカ人の父エロールのもとに生まれたイーロン・マスク(写真、弟キンバルとともに)。父の所有するエンジニアリング会社は成功を収めていたという。では、両親の財産はイーロンの成功にどの程度、貢献したのだろう?しかし、この問いかけはジャーナリストや伝記作家たちの間でも意見が割れている。
(写真、IG @mayemusk)
イーロンの人生を語る上で議論の的となるのは彼の父、エロール・マスクだ。アシュリー・バンス著の伝記によれば「エロールのエンジニアリング事業が成功したおかげで、イーロン一家はプレトリア有数の広大な邸宅を所有していた」という。『メール・オン・サンデー』誌いわく:「エロールは30歳になる前からミリオネアだった」
(写真:Facebook、Errol Musk)
しかし、伝記作家たちによれば、イーロンが父の財産の恩恵にあずかることはなかったようだ。イーロンが8歳のときに両親が離婚してしまったためだ。母マヤの回想によれば、困窮した母子はピーナッツバターのサンドイッチばかり食べていたという。イーロンは父とも連絡を保っていたが、父は「ひどい人間」であり、自分たちに暴力を振るったと述べている。
ウェブサイト「ビジネスインサイダー」によれば、イーロンの少年時代は「耐え難い」ものだったという。勤勉な少年だったイーロンはクラスメートのいじめの標的になったほか、父からも不当な扱いを受けていたのだ。しかし、プログラミングを習得した彼は、12歳にしてビデオゲーム用のソースコード(500ドル相当)を販売したという。アパルトヘイト政策下の南アフリカで白人として生活できたことに加え、コンピューターの世界に飛び込むことができたのだ。
イーロンの生い立ちは謎が多い。しかし、どうやら自力で道を切り開いていったようだ。高校卒業後、南アフリカを離れ、母の母国カナダに留学。弟のキンバルとともにノヴァ・スコシア銀行でインターンをするチャンスを掴んだ。
クイーンズ大学(カナダ)在学中には、クラスメートにコンピューターやカスタムハードウェアを売って小遣い稼ぎをしていたというイーロン。2年後に奨学金を獲得し、ペンシルベニア大学のウォートン・スクール・オブ・ビジネスに入学した。
本人の回想によれば、大学を卒業するには多額の借金をしなくてはならなかったという。いわく:「大学で学んだ結果、借金がおよそ10万ドルに膨れ上がった」では、在学中のアルバイトは何をしていたのだろう?どうやら、友人とともに自宅で無許可のバーを経営していたようだ。この事業は「たった一晩で1ヶ月分」の収入をもたらしたという。
ウォートン・スクールを卒業したイーロンはスタンフォード大学に移り、物理学の博士号取得を目指すはずだった。しかし、ビジネスの世界に飛び込むため、あっという間に退学してしまった。
1995年、イーロンは弟とともにZip2プロジェクトをスタート。これは28,000ドルの資金提供を受けて設立された、中小企業向けのデジタルシティガイドだ。しかし、本人の回想によれば「Zip2用に2代目のパソコンを買う余裕さえなかった」という。そして「夜中にプログラミングをしていたので、ウェブサイトは日中しか機能しなかった」そうだ。
1999年、マスク兄弟はZip2を3億700万ドルで売却。2,200万ドルの利益を手にした2人は、これを元手にオンラインバンキングサービスX.comを設立した。
次にイーロンが携わった事業はPayPalだ。同業のライバルたちと共同設立した事業だったが、筆頭株主はイーロンだ。そして2002年、PayPalをEbayに売却することで1億8000万ドルの利益を手にした。
PayPalの売却で巨額の利益をあげたイーロンは続いて電気自動車業界に着目、新技術開発にのりだした。2003年に電気自動車メーカー、テスラを共同設立。以降、数年間はこの事業に専念することとなった。
イーロンの野心的な事業といえば「スペースX」だ。あらゆる人が宇宙に行ける未来を目指している。
しかし、イーロンの事業展開はそこで終わらなかった。2006年には太陽光発電ベンチャー「ソーラーシティ」に加わったのだ。イーロンがビリオネアへの道を踏み出したのはこの時だ。
2012年には、資産20億ドルで『フォーブス』誌の世界長者番付に初登場。ウェブサイト「ビジネスインサイダー」によれば、イーロンの資産は2020年時点で推定232億6,000万ドルだという。
現在、資産価値およそ333億ドルと評価されているスペースX社。 22億ドルを投じて立ち上げたスターリンク計画は超高速ブロードバンドで地上をカバーするほか、巨大宇宙船「スターシップ」の開発を目指すというものだ。
想像力に富んだ型破りなエンジニアリングの展開で知られるイーロン・マスク。2016年には、ロサンゼルスの地下にトンネルを建設して都市圏の交通渋滞の解消を目指す「ボーリング・カンパニー(社名は「退屈」と「掘削」をかけた言葉遊び)」を設立した。
イーロンほどのお金持ちならば、他のセレブたちと同様、ゴージャスな生活を送ることもできるはずだ。しかし、イーロンはたびたび失言してはスキャンダルを巻き起こす人物でもある。 2019年、米国の裁判所は、テスラの財務状況に関して誤解を招く情報をツイッターで拡散したとして、イーロンのアカウント閉鎖を命じた。
ドージコインやビットコインをはじめとする暗号通貨に関するイーロンの発言は、暗号通過市場に大きな(そして無責任な)変動をもたらす。イーロンが暗号通貨について前向きな発言をするたびに、価値が急上昇するのだ。2021年1月にテスラが15億ドル相当のビットコインを購入したことが明らかになったとき、その価値は空前の5万ドルに達した。
大胆不敵なイーロンだが、仕事熱心な面も持っている。バカンスに出かける代わりに自社の工場を訪れ、何時間も視察するのだ。会議は深夜1時、あるいは2時まで続くことも珍しくないという。ジョー・ローガンがポッドキャストで伝えたところでは「ときには週末まで仕事をしている」そうだ。しかし、時間のあるときは、リッチなパーティーよりも子供たちと過ごすことを好んでいるという。
マスクは離婚した妻との間に6人の子供をもうけている。第一子のネバダは2002年に誕生したが、わずか10週間後に逝去。その後、イーロンと元妻のジャスティンは体外受精で子供をもうける決断を下した。その結果、2004年には双子のグリフィンとゼイヴィエールが、2006年には三つ子のカイ、サクソン、ダミアンが誕生した。
しかし2020年、イーロンには現在のパートナーでアーティストのグライムスとの間に赤ちゃんが誕生。注目されたのはその名前だ。グライムスのアルバム『4ÆM』にちなんで「XÆA-Xii」(略して「X」)というのだ。
一方、テスラ社の電気自動車もイーロンにとっては我が子のようなものだ。様々なメディアに対して仕事に夢中だと打ち明けているイーロンだが、『フォーチュン』誌によれば、ネバダ州にあるテスラの大工場に泊まり込んで新製品「モデル3」の生産準備を整えていたという。
イーロンが『ニューヨーク・タイムズ』紙に語ったところでは、「3~4日、工場に閉じこもって外出しないこともあった」らしい。週に120時間も働くほか、『ウォール・ストリート・ジャーナル』誌のインタビューでは、テスラ社オフィスの床で寝たこともあったとコメントしている。
生産性が落ちるのを避けるため、6時間以上は寝ないというイーロン・マスク。できることなら6時間未満の睡眠で済ませたいそうだが、それは身体が許さないようだ。CNBC放送のインタビューでは「睡眠時間を短縮しようとしたこともあるが、生産性が落ちてしまった」と語っている。その結果、常に6時間ピッタリ睡眠をとるのだとか。
けれども、自身の仕事習慣については「私みたいに何時間も仕事ばかりするはよくない。お勧めしません」としている。
(写真:2021年の『サタデー・ナイト・ライブ』で自嘲気味に語るイーロン・マスク)
ビジネスの世界では「問題児」のレッテルを貼られることも珍しくないイーロン。彼の問題行動はツイッター上の過剰なつぶやきだけではない。ジョー・ローガンがポッドキャストで行ったインタビューでは、カメラの前で大麻を吸ってしまったのだ。スペースX計画で協力関係にあるNASAはイーロンに対し、今後は公共の場でそのような行動をとらないよう要請した。
夢中になって仕事に取り組むイーロンだが、常に成功を収めているかといえば、そんなことはない。たとえば、テスラが開発した頑丈な電動トラック「サイバートラック」はあまり受けが良くなかったらしく、経済的な痛手になってしまった。
また、月や火星を目指すスペースXの野心的な計画もなかなか思うようには進んでいない。試験を繰り返しながら2023年に人々を月に送り込むという目標に近づきつつあるものの、時には実験機が大爆発してしまうことも。
2021年3月、SpaceXはプロトタイプ機「SN10」の打ち上げおよび再着陸の実験を敢行。実際、着陸までは完璧だった。有頂天になったイーロン・マスクは「宇宙船SN10は無事、着陸に成功した!」とツイート。
しかし、それは束の間の喜びだった。着陸の数分後、SN10は大爆発を起こし、ライブ映像で見守っていた世界中の人々に衝撃を与えることとなった。実験をレポートしていたナレーターたちも思わず「信じられない」と口にするほどだった。
しかし、セキュリティチームがすぐさま消火活動を行い、犠牲者は出なかった。また、事故原因の調査はSpaceXに委ねられている。とはいえ、着陸と同時に爆発した旧バージョンのSN8、SN9に比べれば、まずまずの結果を出したといえるだろう。少なくとも、SN10はきちんと再着陸を成功させ、直立状態を保つことができたのだ。
まるで映画のような波乱の人生を送るイーロン・マスク。ツイッター買収を成功させた彼が次に目指すのは一体なにか、型破りな天才の挑戦に目が離せない。