安楽死を提案されたカナダのパラ五輪選手:きっかけは車いすリフトの要請
カナダの元陸軍伍長のクリスティーン・ゴーティエさんが、自宅に車椅子用のリフトを設置するための補助を求めたところ、安楽死(MAID)を提案されたと明かし、カナダの議員たちを驚かせた。
ゴーティエさんは2016年のリオデジャネイロ・パラリンピックに出場したパラアスリート。12月1日に、ある退役軍人担当官から、安楽死の提案を書面で受け取ったと証言した。
ゴーティエさんは退役軍人委員会で「『あなたがあまりにも絶望的な状況にあるとすれば、MAID、つまり安楽死のための医療援助を提供することができます』と書かれた手紙を持っています」と述べた。
ゴーティエさんはジャスティン・トルドー首相にも母国語であるフランス語で手紙をしたため、今回の件に関する懸念を訴えた。
「私はトルドー首相に、退役軍人省から安楽死という選択、およびそれに必要な装置提供の申し出を受けた、という手紙を送りました」
12月2日、トルドー首相はこの案件を「絶対に容認できない」とし、本件に対する政府の対応について詳細を明かした。
トルドー首相は「私たちは追跡調査を行っており、誰の目にも明らかに必要と思われるプロトコル改定を行っています」とコメントした。
続けてトルドー首相はこう述べた。「カナダ退役軍人省は、国を守るために戦った人たちを支援するために存在するはずで、安楽死を提供する機関ではない」
カナダでは2016年から終末期患者の安楽死が合法化されている。2022年には「病状により死が予期できる」とする要件を撤廃し、安楽死の対象者を終末期患者以外にも拡大する法案が可決された。
衰弱している障害者や、耐えがたい苦痛を抱えている人たちが対象者に追加されたほか、今後は精神疾患のみを抱える人にも安楽死を認める方針だ。
カナダで安楽死を望む場合、医療扶助による死を希望する旨を記載した署名入りの書面を提出する必要があり、州によっては特定の申請フォーマットを用意しているところもある。
だが、患者に安楽死を提案する際のルールが不明確なので、退役軍人省の職員は問題に直面することになりそうだ。
カナダの退役軍人省大臣ローレンス・マッコーリーによれば、少なくとも4人の退役軍人に安楽死が提案されたという。
退役軍人省大臣は委員会の議会で「こうした問題に関わりをもつ退役軍人が本件について見聞きするようなことがあれば、申し訳なく思います。当事者がこのようなひどいやりとりに耐えなくてはならなかったのは残念です。我々は、このようなことが二度と起こらないよう、できる限りの対処を講じるつもりです」
幸い、問題視された4件はすべてカナダ退役軍人省のある一職員に起因するもので、組織的な問題ではないようだ。
ローレンス・マッコーリー大臣はこう続けた。「私たちは、退役軍人省のすべての職員が、退役軍人に対して気遣い、思いやり、敬意をもって接していると考えています。本件を引き起こした職員の行動については嫌悪感を覚えざるをえません」
今回の事件は一人の職員の問題にとどまるようだが、多くのカナダ国民は、政府公認の安楽死は行き過ぎではないかという懸念を抱いている。