伝説の万能薬エリクサー:気になるそのレシピと効能
「エリクサー」、この言葉を聞いて子どもの頃に親しんだゲームを思い出す方も多いのではないだろうか?私たちが生きる21世紀において、エリクサーという言葉を見聞きすることはほとんどないが、興味深い発見を通してその存在を再認識することもある。ここでは現代に蘇ったエリクサーのレシピから、気になるその効能や伝説との関連性をみていきたい。
そもそもエリクサーとは何なのだろう?ファンタジーの世界では登場人物の体力などを回復する特効薬として扱われているが、現実世界にもエリクサーと呼ばれる薬品は存在し、かつては不老不死の薬と信じられた時代もあった。ただし科学と医学が進んだ現代においては、どちらかというと健康増進を目的とした補助食品、もしくはアルコール(カクテルなど)と捉えられることが多い。
エリクサーと錬金術の関連性は実に興味深い。ギリシア神話に登場する伝説の錬金術師ヘルメス・トリスメギストスがエリクサーの生みの親だと伝わっている。しかし、錬金術といってもそれが発展した国、文化背景が異なるため、共通のレシピは存在しない。
エリクサーは歴史に埋もれた存在なのだろうか?それが実在していた確たる証拠はないが、2014年にアメリカで"Elixir of Long Life"と書かれた小瓶がみつかった。この発見がきっかけとなり、エリクサーの製造方法に関心が集まるようになる。
また、2019年には中国(洛陽市)の前漢時代の墓からは、エリクサーと思われる液体が入った青銅製の壺が出土している。後の調査で、古代道教の書物に記されたレシピで作られていると判明し、主な成分は硝酸カリウムとアルナイト(みょうばん石)だという。アメリカと中国で発見されたエリクサー、両者のレシピは違っても、その効果効能は「不老不死」である。さて、ここで気になるのはどんな材料でエリクサーが作られているのかということだ。
たとえば、日本の主婦の味方「クックパッド」にもエリクサーの作り方のレシピがたった1件ではあるが登録されている。気になるそのレシピは以下の通り:
・アロエ
・ルバーブ
・リンドウ
・ホワイト・ターメリック
・サフラン
・水
・ウォッカ
アロエを絞り、ルバーブ、リンドウ、サフランをフードプロセッサーにかける。その後、全ての材料を混ぜて攪拌させながら3日間寝かせて、フィルターで濾過すれば完成だ。ただし、生薬のサフランはめしべと花柱、リンドウは根、ルバーブは葉柄を使用しなければならないなど、古代のレシピを再現するのは一筋縄ではいかない。なお、このレシピは1800年代に著されたドイツの書物に記載されているそうだ。
「不老不死」の効能があるのかはさておき、世の中にはさまざまなエリクサーと思われるレシピが伝わっている。数百年前の医学書もしくは薬学書には滋養強壮、健康維持に貢献するといわれる霊薬の作り方が記載されており、驚くべきことに原材料のほとんどにアルコールが含まれているという。また、抗炎症作用や抗菌作用が期待できる生薬も多く含まれているそうだ。
先ほど紹介したレシピと被るものもあるが、アロエ、キナノキ、シナモン、カルダモンなどは現代医学でもその効能が認められている。エリクサーは中世から伝わる薬草学の知識を元にレシピが作られ、時代を下るにつれ、「苦味」を抑えるために材料をあらたに加えたり、有効成分の抽出を高めるためにアルコール成分を強めるなどの改良が加えられてきた。
中世の修道院などは薬草園や病院、薬局を併設しており、現代に残る修道院の中には、数百年前のレシピを受け継ぎ、エリクサーの材料を一部使用したリキュールなどを製造しているところもある。厳密にはエリクサーとは呼べないかもしれないが、飲もうと思えばエリクサーの亜種ともいえるカクテルやジンを楽しむことはできる。
りんごは医者知らずとして知られているが、医学が未発達であった時代にはエリクサーが滋養強壮を担う補助食品だったのかもしれない。原液をそのまま養命酒のように飲んだのかもしれないし、葡萄酒や水に溶いて飲みやすくして常用した可能性もある。永遠の命こそ得られないが、エリクサーは荒唐無稽のでたらめレシピではなく、医学、薬草学に基づいた飲み物なのだ。
実際にエリクサーと呼ばれる万能薬を製造したことがある方はほとんどいないはずだ。どの程度健康維持に寄与するのかは未知数だが、大人の自由研究と題して自作エリクサー作りにトライしてみるのは面白いかもしれない。「良薬口に苦し」の万能薬、現代流にアレンジしてエリクサーを飲んでみてはいかがだろう?