世界各地の発酵食品:美容にも健康にも役立つグルメ素材とは
何千年もの間、世界の人々から親しまれてきた発酵食品。細菌や酵母、カビが様々な食べ物や飲み物に魔法をかけ、ピリッとさせたり、酸っぱくしたり、発泡させたり美味しい効果を生み出す。さらに科学者たちは、健康や長寿促進する可能性を指摘している。
最新の科学的研究によれば、発酵食品を食べることで、腸内マイクロバイオームの構成が変化するという。腸内マイクロバイオームとは人間を始めとする動物の消化管に生息する何兆個ものバクテリア、ウイルス、菌類などの生態系を意味する。
2021年にスタンフォード大学で、発酵食品が健康な成人に与えるか影響について調査が行われた。36人を対象に、発酵食品を多く食べるグループと果物や野菜などの食物繊維が豊富な食品を多く食べるグループがつくられた。10週間後、発酵食品のグループは、糖尿病や関節炎などの病気に関連する炎症性タンパク質が大きく減少していた。
また、発酵食品を食べている人の腸内には、より多様な微生物が生息していた。同じ研究で、発酵食品が多いほど生物多様性が高いこともわかった。しかし、摂取した特定のプロバイオティクス(人の腸に存在する善玉菌)が腸内で増殖し始めただけではない。むしろ、発酵食品は腸にさまざまな微生物を呼び込むようだ。
発酵食品には、さまざまな種類がある。かなり新しい研究分野となるが、2022年に『Nutrients』誌が掲載した統計解析で、発酵食品には特定の健康効果があることを示す確かな科学的証拠が明らかにされた。
4000人近くを対象に数十年にわたって追跡調査を行った研究によれば、乳製品は2型糖尿病の発症に影響を及ぼさないことがわかった。それだけでも乳製品愛好家にとっては朗報だが、さらにヨーグルトには病気の発症リスクを低下させる働きがあるという。
4500人以上を10年間追跡調査した研究によると、チーズ、ケフィア、ヨーグルトなどの発酵乳製品は、全体の死亡率と逆相関の関係にあるという。つまり、これらの乳製品を多く摂取している人ほど、(調査期間中の)死亡率が低かった。
『British Journal of Nutrition』誌に掲載された2015年の論文によると、チーズやヨーグルトのような発酵乳製品の摂取が、心血管疾患のリスクを低下させることが、世界各地の人口調査で判明したという。
2013年の日本の研究では、健康な若い男性グループにおいて、発酵乳製品が高強度の運動後の筋肉痛とバイオマーカーを軽減することがわかった。
ある研究では、発酵キムチは生のキムチを食べたグループと比較しても、糖尿病予備軍のグループに有益であることが判明した。また別の研究では、発酵キムチを摂取すると体重が減少し、過体重や肥満の人の代謝が促進されることがわかった。
近年、科学者たちが腸内の細菌とメンタルヘルスや認知能力との間に強い関連性があることを発見した。研究規模は小さいが、45人を対象としたレビューでは、食物繊維、オートミールなどのプレバイオティクス、そして発酵食品を多くとる人は、そのほかのグループよりもストレスを感じにくいと報告された。2015年の別の研究では、発酵食品の摂取が社会不安の軽減につながることもわかった。
2020年の日本の研究で、味噌は塩分が高いにもかかわらず、血圧を下げ、心拍数を減少させ、神経活動を落ち着かせる効果があることが判明した。塩分は一般的に逆の作用を引き起こすことが知られているので、興味深い結果となった。
納豆もタンパク質、ビタミン、ミネラルが豊富な大豆ベースの発酵食品。しかし、有効成分の大部分はは、発酵中に生成されるナットウキナーゼ酵素にある。血栓の減少、血圧の低下、骨の強度の増加、栄養吸収の増加などにつながるという研究結果も出されている。
食事要素、高血圧、糖尿病、喫煙、アルコール摂取などの要因をコントロールした上で、10万人近くの日本人を15年間調査した結果、テンペ、味噌、納豆などの発酵した大豆を多くとる人の10%は、発酵大豆の摂取量が最も少ない5分の1の人と比べて死亡リスクが10%低いことがわかった。
写真:Ella Olsson/Unsplash
かつて日本でも大ブームとなった紅茶キノコ。発酵食品の研究はすすんでいるが、発酵茶である紅茶キノコの研究はまだそれほどされていない。メイヨー・クリニックによると、紅茶キノコが健康な免疫システムをサポートし、便秘を予防する可能性を示唆する研究もあるが、まだより多くの証拠が必要だ。
ピクルスとザワークラウトは食物繊維を豊富に含んでいるが、発酵食品の利点を伴う場合もあれば、伴わない場合もある。原則として冷蔵されていない状態で購入した場合は、おそらく加熱殺菌されているので、プロバイオティクスがすべて死滅している。殺菌されていないピクルスやザワークラウトが購入できない場合、自宅で作ることができる。
ほとんどすべての食材が、家庭で安価に発酵させることができる。コーク大学の解剖学・神経科学教授ジョン・クライアンがBBCにこう語った:「私が発酵食品を気に入っているのは、科学を民主化してくれるところです。値段は手ごろで、高級店で買う必要もない」
オリーブは地中海地域で最も古い発酵食品のひとつ。伝統的に発酵させたオリーブもあるが、多くの場合は低温殺菌されている。つまり、他の発酵食品のようなプロバイオティクスの効果がすべて含まれるわけではない。それでもオリーブの実は多くの健康効果をもたらす。
繰り返しになるが、研究はまだ始まったばかり。しかし、2022年にマウスで行われた実験では、サワー種の発酵パンには非発酵の白パンと比較して、コレステロールの減少、炎症の緩和、健康的な腸内細菌叢の維持などの効果がみられた。
写真:Vicky Ng/Unsplash
ビールも発酵食品のひとつだが、たくさん飲めば健康に良いというわけではない。ほとんどのビールは低温殺菌されているため、有益なプロバイオティクスを含むすべての細菌が死滅している。しかし、生きた細菌を含むものもあり、適度な摂取は腸内細菌叢を高める可能性があることが研究で示されている。ただし、アルコールの悪影響とバランスをとる必要がある。
写真:Timothy Dykes/Unsplash
ワインもブドウを発酵させて作るが、亜硫酸塩が有益なプロバイオティクスの増殖を阻害する可能性がある。キングス・カレッジ・ロンドンによる2019年の研究によれば、白ではなく赤ワインを適度に飲むことで、腸内細菌叢の多様性が増加するという。しかし、論争の的になっているワインの健康上の利点の多くは、プロバイオティクスではなく高レベルのポリフェノールが担っているようだ。
写真:Nacho Domínguez Argenta/Unsplash