村上春樹の『めくらやなぎと眠る女』が初めてアニメ化へ
村上春樹の『めくらやなぎと眠る女』が、ピエール・フォンデス監督の手によりアニメ映画化された。これまで同氏の作品は、『風の歌を聴け』『神の子どもたちはみな踊る』などが国内外で実写映画化されてきたがアニメ化は初となる。公開は7月26日だ。
アニメ映画『めくらやなぎと眠る女』は、村上の6つの短編『かいつぶり』『ねじまき島と火曜日の女たち』『めくらやなぎと眠る女』『かえるくん、東京を救う』『UFOが釧路に降りる』『バースデイ・ガール』を再構築して作られた。
映画の公式サイトによれば、実写撮影をベースにした独自の技法と緻密な音響設計により、村上の作品が持つミステリアスで生々しいリアリティを映像化することに成功したという。
すでにこの作品はアニメ映画祭としては世界最大規模で最も長い歴史を誇るアヌシー国際アニメーション映画祭で審査員特別賞、同様にアジア最大の新潟国際アニメーション映画祭でグランプリを獲得している。
村上は「短編を映画にしてもらうのは嫌じゃない」とし、その理由を「監督自身のものをたしていかなくてはいけない。そうすると、面白いものができる傾向がある」と語っている。『日刊スポーツ』紙が報じた。
また、長編の映画化には二の足を踏むが、1995年に発生したオウム真理教による地下鉄サリン事件の関係者にインタビューして書き上げたノンフィクション作品『アンダーグラウンド』だけは例外で、「映画にしてくれると、すごくうれしいな......難しいけど(中略)フィクションにする手もある」とコメント。
村上は1949年に京都府で生まれた。「映画が本当にやりたかった」ので早稲田大学文学部の映画演劇科に入るも、小説家になっていたという。本人は結果にいたって満足で「小説家の方が楽だからです。通勤がないし、会議もないし、(映画を作る)資本も集めなくていいしね。本当に楽ですね」と語っている。『日刊スポーツ』紙が報じた。
早稲田大学在学中にジャズ喫茶を経営するかたわら小説を書き始めた。1979年に『風の歌を聴け』が群像新人文学賞を受賞し作家デビューを果たす。そして、1987年発表の『ノルウェイの森』が1000万部を超える大ベストセラーを記録し、村上春樹ブームが巻き起こった。
現在も村上の人気はきわめて高く、新作の発売日には書店の開店前から本を買い求めるファンの長い列ができる。『日経新聞』によれば、2017年の『騎士団長殺し』の発売日には三省堂書店神保町本店が午前0時に本の発売を開始し、店内で「新刊を徹夜で読む会」を開催したという。
「jiji.com」のインタビューによれば、『羊をめぐる冒険』と『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』はただただ楽しみながら書いた。『ノルウェイの森』は一つ上の段階に行くために実験的にリアリズム小説にしたが、それがベストセラーとなりストレスやプレッシャーになった。書きたいことを書けるようになったのは2000年頃からだという。
『ニューヨーカー』誌の文芸編集者デボラ・トゥリースマンと対談した際に、自身の作品のモチーフやテーマは変わらないと語った:「僕はひとりの人間で、自分なりの方法で考えていて、それは崩せないのです。もっとも、同じことを繰り返し書くつもりはありませんが」
また、「深刻で複雑に絡んだ困難な問題を、流れがあって読むと気持ちがよくなる平易なスタイルで書く、僕はそれを心掛けています」とも語っている。
自身のラジオ番組「村上RADIO」で、リスナーから「どうやって自分の考えを的確で分かりやすい文章にしているか」と問われると「翻訳をこつこつ続けることで、文章について多くを学んできたような気がします......母国語の相対化みたいなことですね。同じような意味合いで、外国語でものを書いてみるというのも結構役に立ちますよ」と答えている。
村上の作品は愛、孤独、自己探求など人間が抱える普遍的なテーマを分かりやすい文体で描く。そのため日本だけでなく世界中の人達から支持されており、50以上の言語に翻訳されているという。
これまでチェコのフランツ・カフカ賞、デンマークのアンデルセン文学賞をはじめ、各国の著名な賞を受賞してきた。2023年にはスペインのノーベル賞と称されるアストゥリアス皇太子賞を受賞。『産経新聞』が報じた。
近年、村上はノーベル文学賞の最有力候補の一人とされている。7月公開の『めくらやなぎと眠る女』で注目を浴びる今年は、ノーベル文学賞にさらに1歩近づくことになるだろう。