世界でもっとも美しい市壁に囲まれた中世都市:フランス、クロアチア、ギリシャ、中国、モロッコ......
かつて敵の攻撃から街を守るため、市街地を壁で囲った城塞都市が数多く造られた。今回は中世の面影をそのまま残した、現存する市壁に囲まれた都市を紹介していこう。
フランスを代表する城塞都市がカルカソンヌ。中世に建てられた市壁は荒廃していたが、19世紀に建築家ウジェーヌ・エマニュエル・ヴィオレ・ル・デュクによって修復、1997年にユネスコの世界遺産に登録された。全長3kmの二重壁に囲まれた街は、中世の雰囲気をそのまま残している。
明清時代に築かれた平遥は、マルコ・ポーロのいた時代を彷彿とさせる。明の初代皇帝により長さ6km、高さ12mの城壁が造られ、城壁の他に6つの城門と70を超える防御拠点が現存する。1997年にユネスコ世界遺産に登録。
イングランド北部にあるノース・ヨークシャー州都ヨークは、紀元71年に都市として創設。街を取り囲む4.5kmの市壁は12世紀から14世紀にかけてつくられ、現在もほとんど無傷の状態で残っている。のんびり歩いて2時間半ほどで、市壁を一周できる。
1985年に「アビラ旧市街と市壁外の教会群」として世界遺産に登録された主な理由は、町を囲う市壁が世界で最も優れた状態で保存されていることだ。市壁には外敵から人々を守る目的があり、全長約2.5km、高さ12m、厚さ3mの市壁に、88の塔と9つの門がある。
世界的に有名な城塞都市といえば、アドリア海沿岸ダルマチア地方に位置するドゥブロヴニクだ。『ゲーム・オブ・スローンズ』をはじめ数多くの映画の舞台となった。9世紀に建設がはじまり15世紀に完成、その後も拡張そして補強が17世紀まで行われた。1994年にユネスコの世界遺産に登録。
ヒヴァの旧市街イチャン・カラ地区は、高さ約12mの煉瓦壁で守られている。中央アジアにおける代表的イスラム建築として、1990年に世界遺産に登録された。市壁の他に宮殿やモスクなどの歴史的建造物と古い民家が数多く残る。
モロッコ南部スース川流域に位置するタルーダントは「小マラケシュ」と呼ばれている。マラケシュよりはるかに規模が小さいが、都市構造が良く似ているためだ。外周6kmほどの旧市街全体を取り囲む市壁には9つの門が残る。
西安は「20世紀の大発見」と呼ばれる兵馬俑が発見されたことで世界的に有名だが、世界最大級の古代城壁もある。全長14km、高さ12m、そして幅は15~18mあり、1374年から1378年にかけて築かれた。
アラビア語で「城壁の町」を意味するイムディーナ。マルタ本島中央部の丘の上にあり、その名の通り高い城壁で囲まれている。ローマ様式、ビザンチン様式、アラビア様式など、さまざまな時代の様式がミックスされた城壁だ。現在のマルタ共和国の首都はヴァレッタだが、1570年まではイムディーナで、首都が移転し閑散としたことで「静寂の町」と呼ばれるようになった。
首都リスボンから日帰りも可能な距離にあるオビドスは、人口3000人強の小さな町。ポルトガルで一番のインスタ映えスポットとして大変人気がある。イスラム教徒に占領されていた時代に市壁が造られ、後に数世紀かけて修復された。
コロンビアを代表する城塞都市がカルタヘナ。1984年に「カルタヘナの港、要塞都市、歴史的建造物群」が世界遺産に登録された。繁栄した街を海賊などの敵の攻撃から守る目的で、1796年までほぼ2世紀にわたって建設されたが、その間も敵の攻撃にたびたび見舞われた。11kmにわたる市壁には多くの砦が配置されている。
現在はモロッコ第3の都市だが、かつてのイスラム王朝の多くは、フェズを首都と定めていた。旧市街が市壁で囲まれており、8つの門が設置されている。
スペイン国境からわずか15kmほどのエルヴァスは幾度となく領土争いの舞台となった。そのため、世界最大とされる塁壁で囲まれる「鉄壁の要塞都市」となった。2012年、塁壁や歴史地区、周辺の星型要塞などがまとめてユネスコの世界遺産に登録された。
エストニアの首都タリンには、町を守る円形の監視塔がある約2kmの市壁が現存する。市壁は13世紀から16世紀にかけて何段階かに分けて建設され、当初は35の塔があり、そのうち25の塔が今に残る。
3つの文化をもち、イスラエル人とパレスチナ人の双方が首都とするエルサレムには、旧市街を取り囲む市壁が現存する。エルサレムがオスマン帝国の支配下にあった1535年から1538年にかけて築かれ、長さ4km、平均の高さ12m、34の塔と8つの門がある。
ティチーノ州の州都ベリンツォーナは、対イタリアと戦略的に重要な場所にあり、街が市壁で囲まれている。カステルグランデ城、モンテベッロ城、サッソ・コルバロ城とともに、現在に残る中世アルプスの要塞都市として2000年にユネスコ世界遺産に登録された。市壁は15世紀初頭に建設が開始され、1480年頃に完成。
スペイン北部ガリシア地方にあるルーゴには、壮大なローマ建築が非常に良い保存状態で残っている。長さ2266mにおよぶ市壁には85の塔があり、旧市街全体を取り囲む。2000年にユネスコの世界遺産に登録された。
ミュンヘンから電車で2時間ほどの田園地帯にあるネルトリンゲンは、1500万年前に落下した隕石によってできた直径25kmのクレーターの上に建設された。城壁が街全体を取り囲み、その上を歩くことができる。『進撃の巨人』のモデルとなった場所とされ、日本人観光客が増えているという。
1608年に建設されたので中世の都市ではないが、ケベック州の州都ケベック・シティは北米唯一の城塞都市だ。旧市街中心部が、18世紀のフランス式市壁に囲まれている。1985年にユネスコの世界遺産に登録された。
中国の万里の長城に次ぎ、世界で2番目に長い壁はインドにある。万里の長城には遠く及ばないが、壁の長さは全長36km。なかでもインド最長の城壁を誇るのがクンバルガル城だ。更に5つの城塞を含む、かつてメーワール王国の首都として栄えたラージャスターンの州の丘陵城塞群が、2013年にユネスコの世界遺産に登録された。
ペロポネソス半島南東部ラコニア県にあるミストラス遺跡は、現在居住者はいないが東ローマ帝国時代にとても栄えていた城塞都市だ。