プルピ晶洞:ヨーロッパでもっとも巨大?内部観光できる結晶の世界
スペインのアンダルシア、乾いた大地にオリーブの実が揺れる。地中海の風が心地よいアルメリア地方の小さな街プルピに注目が集まっている。1999年、マドリードの地質学者のチームは、全長8メートルにも及ぶ巨大な晶洞を元銀山の跡地に発見し、ヨーロッパで最大の晶洞だと分かったためだ。
晶洞があるのはアルメリア県にある小さな街プルピ。観光資源に乏しい南スペインの街に、ロマンあふれる晶洞があるとは誰が予想できただろう。「異世界」、「まるで氷の世界」などと形容する観光客も多い。そう、プルピ晶洞は観光できる希少な晶洞なのだ。
そもそも晶洞とは何なのか?内側に向けて結晶が育った巨大な宝石の原石を見たことがある方は多いと思う。(これを「ガマ」という)晶洞もガマの一種であり、堆積岩や玄武岩の内部に形成された空洞のことを「晶洞」と呼んでいる。
プルピ晶洞は欧州でもっとも大きく、メキシコの「ナイカ鉱山」にある晶洞に次ぐ規模を誇る。元銀山の地下60メートル地点では、水晶を思わす巨大な結晶が矢じりのように成長している。気になる結晶の正体は、セレナイト(透石膏)と呼ばれる鉱物である。古代ローマ時代には、ガラスの代わりとして利用されたこともある、清流を思わせる高い透明度を誇る鉱物だ。
晶洞内の結晶はどのように成長してきたのだろう?ある大学の研究によると、セレナイトが長い年月をかけて、溶解と再結晶を繰り返してきたことで巨大化したのではないかと考えられている。太古の恐竜たちは急激な気候変動によって絶滅したといわれているが、その温度変化がプルピ晶洞の結晶にも影響を与えたのだろうか。
ミステリアスな晶洞内部に一歩踏み出すと、一瞬で空気が変わる。鉱物というものは数千年、数億年という悠久の時代を経て育まれるが、プルピ晶洞の起源はいつ頃なのだろう?所説あるが、晶洞の歴史はおおよそ500万年から600万年前に遡ると考えられている。
日本をはじめ世界各国から、晶洞目当ての観光客がプルピを訪れている。かつては銀が地元の経済を潤してきたが、現在プルピを支えているのは晶洞観光を目当てに訪れる観光客だ。豊かな地質資源を築いた先人たちには感謝しかない。
銀山が晶洞に姿を変えて、内部見学ができるようになったのは2018年頃。コロナ禍によって観光客の姿は途絶えたが、2020年には晶洞見学も再開。隣接するサン・フアン・デ・ロス・テレーロ城を併せて訪れる者も多く、プルピの街は徐々に活気を取り戻しているようだ。
気になる晶洞内の見学はガイド付きで22€。(2022年12月現在)スペイン語もしくは英語でのガイドツアー形式になり、個人での見学は受け付けていない。15名までのグループでの見学になるので、現地を訪れる方は注意してほしい。(予約はオンラインのみ)
なお、内部の写真撮影は基本的に禁止されているが、別途料金を支払うことでフォトセッションやレコーディング撮影なども可能だ。セレナイトはモース硬度が非常に低い石膏の仲間なので、結晶に触れることは原則禁止されている。中には近くで息を吹きかけるだけで、結晶が壊れてしまうものもあるので見学の際は注意が必要だ。
インスタグラムにはプルピ晶洞の前でポーズを取るセレブ、スポーツ関係者も少なくない。最近では、元レアル・マドリードの選手で、数年前にUDアルメリア(2022年現在、ラ・リーガ1部所属)の監督を務めたグティも家族とともに晶洞を訪れている。
Photo: Instagram (geodapulpi.oficial)より
アンダルシアといえばグラナダのアルハンブラ宮殿やセビージャのフラメンコばかりが注目されがちだが、アルメリアのプルピ晶洞が隠れた観光地であることはいうまでもない。名もなき鉱夫たちにより開坑された銀山で見つかったファンタジー。ひとたびセレナイトの結晶に囲まれれば、まるで小人になったような錯覚に陥いってしまう、そう答える観光客は少なくない。