プライベートジェットで飛び回るセレブ達:CO2排出量ワースト10は誰?
ガス代や電気代の高騰に頭を悩ませる庶民や、地球温暖化対策を訴える研究者たちを後目に、一握りのエリートたちはプライベートジェットを乗り回している。そこで、英マーケティング企業Yard社は、世界のセレブ40人がプライベートジェットの利用で温室効果ガスをどのくらい排出しているか見積もったところ、驚くべき結果が得られたという。
Yard社による調査の情報源は、フライト追跡サイトADS-B Exchangeのデータを分析し、セレブたちのジェット機を特定するTwitterアカウント(@CelebJets)だ。そして、各ジェット機が2022年1月以降に行ったフライト数や飛行距離をもとに「プライベートジェットの日常的な利用によって、温室効果ガスを最も多く排出しているセレブたちのリスト」を作成したのだ。
不名誉なリストのトップに立ったのはテイラー・スウィフト。彼女は気候変動についてたびたび意見を述べているため、皮肉な結果となった。Yard社のデータに基づいて『ニューズウィーク』誌が伝えたところによれば、テイラーが2022年1月以降に排出した温室効果ガスの総量はおよそ8,300トンで、これは1人当たりの平均年間排出量の1,200倍に上るという。
Yard社によれば、テイラーは1月1日から7月29日までの期間に170回のフライトを行ったという。つまり、ほぼ毎日1回プライベートジェットを利用しているということだ。総飛行時間は2万2,923分(15.9日)。これについてYard社は「テイラーが現在ツアー中ではないことを考慮すれば、非常に大きな値だ」としている。また『ニューズウィーク』誌によると、彼女の平均飛行時間は80分で、最短のフライトはミズーリ州発ナッシュビル着の36分だった。
Yard社が7月下旬に調査結果を公開すると、テイラーには批判が集中することとなった。しかし、彼女の代理人は公式声明の中で「テイラーのジェットはよく他人に貸し出されている。大半、あるいはすべてのフライトを彼女だけで行ったと考えるのは、明らかな間違いだ」と反論した。
Yard社のリストで第2位につけたのはボクサーのフロイド・メイウェザー。プライベートジェットによるフライトだけで、2022年前半に7,000トン以上の二酸化炭素を排出している。
『ガーディアン』紙の指摘によれば、メイウェザーは2020年6月から7月にかけて信じがたいほど短いフライトを行ったという。たとえば、ネバダ州ヘンダーソンからラスベガスまでのフライトだ。両都市間の距離はおよそ26キロメートルであり、自動車で移動しても16分しかかからないのだ。ところが、フロイドはわざわざプライベートジェットを利用して、10分のフライトで1トンも二酸化炭素を排出した。
第3位はラッパーのジェイ・Z。2022年前半だけで136回のフライトを行い、7,000トン弱の二酸化炭素を排出した。『ガーディアン』紙の報道によれば、彼をはじめとするスターたちのCO2排出量は、飛行時間や燃料消費量、飛行機の型番などに基づいて算出されたとのこと。
ただし、Yard社が利用したデータには搭乗者の名前はない。したがって、ジェイ・Zが行ったフライトの一部が実際には妻のビヨンセを運ぶためのものだった可能性もあるのだ。ビヨンセ自身はYard社のリストでワースト10に入っていない。
元野球選手のアレックス・ロドリゲスは2022 年前半にプライベートジェットで5,300トンの CO2を排出。米国における1人当たりの平均年間排出量は16トンだが、この数値にはフライトの利用のみならず、あらゆる活動によるCO2排出量が含まれていることに注意しなくてはならない(しかも、ウェブサイトnature.orgによれば、米国はCO2排出量で世界一だという)。
飛行機好きのアレックスはためらうことなく自分のプライベートジェットを人目に晒している。写真は、2021年に行われたジョー・バイデン大統領の就任式に向かうアレックスがジェット内で撮影し、Instagramに投稿したもの。隣に座っているのは当時のパートナー、ジェニファー・ロペスで、大統領就任式ではパフォーマンスを披露している。
カントリーシンガー兼ボイストレーナーのブレイク・シェルトンもプライベートジェットでのフライトがお気に入りだ。2022年前半のCO2排出量は約4,500トン。
ブレイクは米国の歌唱コンテスト『ザ・ヴォイス』の同僚、グウェン・ステファニーと2021年に結婚している。グウェンはYard社のリストに名を連ねていないが、ブレイクのフライトの一部が妻のものである可能性もある。
『ジュラシック・パーク』や『A.I.』などテクノロジー信仰に批判的な作品を発表し、環境問題にも敏感なスピルバーグ監督が、実はCO2排出に無頓着だとは誰が予想しえただろう?
『ニューズウィーク』誌によれば、スピルバーグ監督の最短フライトはアムステルダム発ロッテルダム着の18分。ところが、同誌は監督が2018年に行った「私は地球温暖化が不安だ」という発言を引用。監督は地球温暖化について「政治的なまやかしなどではない、科学的現実だ。定量的で測定可能な現実の一部なのだ」とコメントしたというのだから、皮肉なものである。
地球温暖化についてはあまり積極的に発言していないキム・カーダシアン。『ガーディアン紙』がYard社および@CelebJetsのデータに基づいて調査を行ったところ、キムは2022年6月から7月にかけてカリフォルニア州サンディエゴ発同州カマリロ着の30分のフライトを行い、3 トンの CO2を排出したという。
SNSやリアリティ番組で放埓なライフスタイルを売りにするカーダシアン一家のこと、自家用ジェットを見せつけるのは当然だ。『インディアン・エクスプレス』紙が報じたところでは、最近クロエ・カーダシアンが娘のトゥルーとプライベートジェット内で撮影した写真を公開して批判を浴びたことがあるという。上の写真は母のクリス・ジェンナーとともにポーズを取るキム・カーダシアン(2010年)。
多種多様なビジネスで莫大な財産を築き上げたマーク・ウォールバーグ。そんな彼がプライベートジェットを利用するのは驚くべきことではないだろう。
とはいえ、その頻度が問題だ。『ガーディアン』紙の報道によれば、ラスベガス発カリフォルニア州ヴァンナイズ着のフライトは飛行時間40 分で、CO2 排出量は 4トンだという。同紙いわく、この数値は「1人当たりの年間排出量の世界平均に等しい」とのこと。
有名司会者でメディア起業家でもあるオプラ・ウィンフリー。彼女もまた地球温暖化について雄弁に語っているが、行動が伴っていないようだ。『ニューズウィーク』誌によれば「ウィンフリーは番組内で環境活動家をサポートしたり、OprahDaily.com で自然や環境汚染についての記事を公開し、環境保護推進派の姿勢をたびたび明確にしてきた」はずなのだが……
同誌はオプラのコメントとして「生命の未来は私たちが今何をするのか、何をしないのかにかかっています」という言葉を引用した。ならば、自家用ジェットの利用はもう少し控えてもよさそうなものだ。
Yard社のリストで10位につけるのは、カイリー・ジェンナーとの間に子供をもうけたことで知られるラッパーのトラヴィス・スコット。彼のプライベートジェットは2022年1月から6月までの期間に3,000トン強のCO2を排出したという。
もちろん、トラヴィスのフライトは一部がカイリーを伴ったものだった可能性もある。Yard社の調査でジェンナーは第19位にランクインしており、ワースト10にはランクインしていない。
トラヴィスとカイリーが2機のジェットを共有しているという事実は、カイリーが最近行ったInstagramへの投稿によって明らかになっている。カーダシアン一家の一員らしく、自家用ジェット2機の前でパートナーと一緒に写真に納まり、「私ので行く?あなたので行く?」というコメントを付けたのだ。
8月初めに『ニューズウィーク』誌が「先週、カイリーの所有するボンバルディア社製グローバル・エクスプレス(2019年モデル)が20分未満のフライトを複数回行った」と報道すると、SNS上で多くの批判が寄せられることとなった。
自分からプライベートジェットを自慢するカイリーは何度も@CelebJetsにキャッチされており、飛行時間17分、12分、3分といった無駄なフライトが指摘されている。『ガーディアン』紙いわく、17分のフライトの代わりに「自動車で40分かけて移動すればCO2排出量はごくわずかで済んだはず」なのだ。
『ガーディアン』紙の指摘によれば、カナダ人ラッパーのドレイクも、Yard社のワースト10リストには名前がないとはいえ、無駄なフライトを批判されている1人だという。彼の自家用ジェットはオンタリオ州ハミルトンから同州トロントまで18 分のフライトを行い、5トンのCO2を排出。同紙は「これだけで、1人あたりの平均年間排出量を上回っている」と語気を強めた。
これに対し、ドレイクは「Real Toronto Newz」のInstagramアカウントにコメントする形で反論、18分のフライトに乗客はいなかったと主張した。いわく「駐機されていた空港から利用者のもとへ移動しただけ」であり「乗客はいなかった」というが、それは言い訳になっているのだろうか?
こうした贅沢なフライトが可視化されたことで、SNSユーザーやインターネットユーザーたちは環境問題に対してセレブ達が果たすべき役割について声を挙げはじめている。
『ガーディアン』紙によれば、プライベートジェットによる「温室効果ガス排出量は3,300万トンあまりに達している。これはデンマーク一国の排出量を上回る数値だ。プライベートジェットは乗客が非常に少ないため、1人当たりの排出量が民間航空機に比べて5~14倍に達するほか、鉄道と比較すると50倍もの大気汚染を引き起こしている」という。
@CelebJetsアカウントの運営者ジャック・スウィーニーはイーロン・マスクのプライベートフライトの分析も行っている。『ガーディアン』紙が彼にイーロンのフライトについて尋ねたところ、イーロンはその他のセレブたちとは違って自家用ジェットの濫用はしていないという。
ジャック・スウィーニーいわく「イーロンの場合、仕事の効率化のためにプライベートジェットを使っているだけだ。しかし、キム・カーダシアンは…… 『キム航空』の写真を投稿して自慢したいだけだ」とのこと。彼が問題視しているのはCO2排出量というよりも、利用方法なのかもしれない。