女性でも男性でもないトップモデルたち:ファッション界に吹き込む「ノンバイナリー」旋風
ファッション界にまたひとつ、新たな革新が起こりつつある。ノンバイナリーの新風が吹き込み、女性でも男性でもないモデルたちがランウェイを闊歩しているのだ。
新世代のモデルたちは、男と女な違いは何か、「ジェンダー・フルイド」とは何かをめぐる、ラディカルな問題を人びとに突きつける。今回は、ファッションを通じて世界を変えていくノンバイナリーのモデルたちを追っていこう。
ブレットマン・ロックはフィリピン出身、ハワイ在住のモデル・インフルエンサーである。2023年6月には『VOGUE』フィリピン版の表紙を飾った。インタビューによれば、ジェンダーは一定ではなく、流動的に変化する「ジェンダー・フルイド」だという。
エリオット・セーラーズはまずウィメンズの世界で活躍したのち、2012年に頭を丸刈りにし、メンズウェアを着てランウェイを歩き始めた。ファッション業界におけるノンバイナリーの流れ、つまり男と女の二分法(バイナリー)には取り込まれない存在にスポットをあてていこうとする流れは、決して一過性のものではないとセーラーズは考えている。
写真:Elliotsailors / Instagram
カシル・マッカーサーはもともと女性モデルだった。その頃の名はダニ・ローズである。ある時点から男性ホルモンの補充をはじめ、男性モデルとして活動するようになった。
インディア・ムーアは俳優でもあり、テレビドラマ『POSE /ポーズ』への出演などで知られている。出生時の性別は男性だが、トランスジェンダーのノンバイナリーであり、15歳のときからディオールとグッチのモデルとして活躍している。
ヨアキム・イェムスタッドは自身のことを「クィア」(性的マイノリティ)だと考えている。2022年には『ヴォーグ』誌の取材に対し、自分はいちおう男性ではあるが、「自分のジェンダーをどう定めるか、自分が誰であるかといったことはとても大きな問題だ」と語っている。イェムスタッドはモデルとして、そのときどきで、ウィメンズウェアを着ることもメンズウェアを着ることもあり、多くのデザイナーのランウェイに立っている。
写真:joakimgjemmestad / Instagram
デヴィン=ノレルはトランスジェンダーの論者でもあり、さまざまなファッション誌に寄稿している。出生時は女性だったが、性別適合手術を受けて、今は男性でも女性でもない。
ビミニ・ボン=ブーラッシュはイギリス出身のドラァグ・クイーンである。女装でパフォーマンスを行う男性だ。ステージの外ではノンバイナリーとして振る舞う。テレビ番組『ル・ポールのドラァグ・レースUK』(イギリス版ドラァグ・クイーンのコンテスト)に出演して有名となり、その後大手モデルエージェンシーと契約し、一流ファッション誌の表紙を飾るようになった。
オスロ・グレイスはカリフォルニア出身、トランスジェンダーでノンバイナリーのモデルである。「自分は少女と少年とのどこか中間あたりに位置する、その二つが混ざっている感覚だ」と、若者向けのメディア『Refinery29』に語っている。グレイスは、特異な演出で話題を呼んだグッチの2018年秋のショーで、赤ちゃんのドラゴンを抱えてランウェイを歩いた。
ジャゼル・ザノーティは世界的なインフルエンサーで、インスタグラムのアカウント(@uglyworldwide)には66万人のフォロワーがいる。『ブリティッシュ・ヴォーグ』誌の取材に対し、ザノーティは思春期のころ、成熟した女性へと向かっていく自分の外見をうっとうしく思っていたと語っている。しかしやがて、社会がおしつけてくる美の基準に自分を合わせることはないのだと思うようになり、そういう努力はやめたという。
レイン・ダヴは女性として生まれたが、成長するにつれて周囲との違いが気になりはじめた。周りの女の子にくらべて体つきが明らかにがっしりしており、そんな自分を醜いと感じるようになったという。モデルになったきっかけは、友人との賭けに負けてオーディションに応募したことだという。カルバン・クラインの下着モデルだ。以来、レイン・ダヴはメンズとウィメンズ、どちらのファッションショーにも登場している。
ルビー・ローズはオーストラリア出身のモデル・女優・テレビ司会者である。ネットフリックス配信のドラマ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』に出演して広く知られるようになった。ローズは自身の性別をジェンダー・フルイドだとしている。自身の性を固定された項(男、女、あるいはノンバイナリー)にではなく、流動性のなかに位置付けているのだ。「もし性別をどちらかに選べと言われたら、男を選ぶと思う。それでも、いま私の身体に実際に備わっているものとは別の生殖器を持ってこの世に生まれるべきだったとは思わない」と、ルビー・ローズは語っている。
マグダレーノ・デルガドはメキシコ出身のモデル。この写真ではグッチの服をまとって『ヴォーグ・メキシコ』の紙面を飾っている。デルガドは2022年に『ヴォーグ』誌のインタビューで、「男と女をはっきりと分けるように強いる力は、少しずつ、しかし着実に、モデルの世界で弱まりつつある」と語っている。
写真:Vogue México y Latinoamérica / YouTube
フィッシュ・フィオルッチはキャリアをつうじて、ジェンダー・ニュートラルなルックスを選んできた。最近になって自身のことをノンバイナリーと公表し、メンズとウィメンズのどちらのショーにも出演している。フィオルッチが常に念頭においているのは、「自分自身のありのままの体を使ってウィメンズウェアを美しく表現すること」であり、その均衡点を見出すことだという。
写真:fish f10rucci / Youtube
グレイス・ヴァレンティンはノンバイナリーのモデルとして、メンズとウィメンズの両方のショーでランウェイを歩いている。2022年9月に開催されたフェンディのショーで、ランウェイを半分ほど歩いたところで靴を脱ぎ、脱いだ靴を手に持って残りを歩いたことで注目された。本人いわく、履き心地が悪く、歩きにくかったから靴を脱いだのだという。その正直な発言と行動には多くの人が感心した。
ジョージ・ゴルクはスロバキア出身。ブルガリアのモデル・エージェンシーにスカウトされ、15歳でモデルになった。今はロンドンに拠点を移し、ノンバイナリーのモデルとして活躍している。ウェブメディア『The Standard』の2023年の取材では、トランス・ジェンダーをめぐるモデル業界の現状について、「一歩進んで二歩下がる」ような状態であるとこぼしている。ゴルクは2022年、「ヒールを履いて女性のふりをしてほしい」とあるエージェントに頼まれたという。
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