ノルウェー国王ハーラル5世:画像で追うノルウェー王室の進化
上の少年は、ノルウェーの現国王が幼い頃のものだ。今回は9世紀に建国されたノルウェー王国の現国王、ハーラル5世の人生を振り返ってみよう。
上の画像はハーラル5世の近影。1991年にノルウェー国王として即位し、現在も在位中である。
ハーラル5世はオーラヴ5世とスウェーデン王女マッタ・アヴ・スヴェーリエの長男として生まれ、ベルギー王妃アストリッド・ド・スエードの甥にもあたる。また、エリザベス女王の夫フィリップ王配とも血縁関係があり、敬称順位は低いものの英国王位継承権も有している。
ハーラル5世は1937年に生まれた。やがて第二次世界大戦でドイツがノルウェーに侵攻してきたため、国王一家はアメリカへの亡命を余儀なくされ、1945年の終戦まで滞在した。上の写真は、当時のハーラル5世がフランクリン・D・ルーズベルト大統領の愛犬と遊んでいる際の一枚だ。
ハーラル5世は優れたヨット競技の選手でもあり、ヨットレースのノルウェー代表として、3度のオリンピック出場経験がある。1964年に開催された東京オリンピックではノルウェー選手団の旗手を務め、入場時に先頭を歩いた。
東京オリンピックに出場した当時、ハーラル5世はすでに王太子になっていた。1957年に祖父のホーコン7世が亡くなり、父親のオーラヴ5世が即位していたのだ。
1968年、王太子だったハーラル5世は民間出身のソニア・ハーラルセンと結婚した。しかし、民間人との関係は論議を呼んだため2人のデートは密かに行われていたほか、結婚までの交際期間が9年に及んだ。王太子は国王に「彼女でなければ誰とも結婚はしたくない」と宣言したとされ、その願いは晴れて現実のものとなった。
結婚により民間人ソニア・ハーラルセンはノルウェー王太子妃となり、やがてハーラル5世の即位に伴い王妃となった。国王夫妻には2人の子どもが誕生した。1人目は1971年生まれのマッタ=ルイーセ王女で、理学療法師としての経験をもつ。続いて1973年には現王太子のホーコン王子が生まれた。
ソニア王妃は1980年代後半にノルウェー赤十字の副総裁に就任し、10以上の慈善団体のスポンサーも務めてきた。芸術と音楽をこよなく愛する王妃は、年に2回、本人の名前を冠したコンクールを開催し、若き音楽家をサポートしている。
また、ハーラル5世は継続してスポーツ競技に参加し、いくつかの大会では組織委員として関わってきた。国王は1987年のセーリング競技で世界選手権優勝、2005年の欧州選手権においても金メダルを獲得しており、現在も毎年レガッタに参加している。
1991年に父親オーラヴ5世が亡くなったことを受け、ハーラル5世はノルウェー国王に即位した。ノルウェー王室は800年以上の歴史を誇るが、「ハーラル」という名の君主は現国王が初めてだという。
1991年6月、国王夫妻の希望により、聖別式はトロンハイムのニーダロス大聖堂で行われた。夫妻は式典に続き、ノルウェー国内を数週間にわたり視察している。
ハーラル5世は国民にとって親しみやすい王室を目指し、君主制の近代化に尽力してきた。
画像: ノルウェー王立裁判所による配布資料時の一枚(2020年)
ハーラル5世は王室の近代化にともない、民間女性が王室に嫁ぐことを認めた。こうしてホーコン王太子は、衣料品店で働いていたシングルマザーのメッテ=マリット・ヒェッセム・ホイビーと結婚することができた。
国王の娘マッタ=ルイーセ王女は作家兼芸術家のアリ・ベーンと結婚したが、夫婦生活は長く続かなかった。現在はハリウッドで活躍するシャーマン(霊媒師)のデュレク・ベレットと交際している。
ノルウェーは現在、立法君主制だが、ハーラル5世は毎年10月に行われる国会の開会式で演説を行っている。また、国王は国を代表して海外を訪れるほか、政権交代の際はその仲介を務める。
2012年、ハーラル5世はノルウェー国教会であるルーテル教会の長としての地位を放棄。その6年後、国王はルーテル教会から列聖される資格も失っている。
ノルウェー国王としてノルウェー国内外から多くの勲章や栄誉を叙されてきた。英王室の勲章にくわえ、アイスランド「ファルコン勲章」のクロスやフランス最高の勲章である「レジオン・ドヌー」ルなどを所有している。
1992年1月1日にノルウェーを襲ったハリケーンやアンネシュ・ベーリング・ブレイビクによる連続テロ事件など、国に大きな惨事が起きるたび、ハーラル5世は深い悲しみを示し、国民に寄り添ってきた。ノルウェーの人々は国の結束を象徴する国王に、自らの存在を投影しているのだ。
2000年代に入り、国王の健康状態に懸念がみられるようになると、息子のホーコン王太子に注目が集まるようになる。王太子は何度か摂政を務め、2020年には国会の開会式で国王代理として演説も行っている。
ハーラル5世が亡くなった場合、ホーコン王太子がホーコン8世としてノルウェーの新国王に即位する予定だ。ホーコン王太子が受けてきた教育と日々の公務は、まさに君主になるためのステップに他ならない。
現在、国王夫妻はともに80代。2021年、ハーラル5世は在位30年を迎えた。
国王夫妻には5人の孫がいる。長男のホーコン王太子には娘のイングリッド・アレクサンドラ(2004年生)、息子のスヴェレ・マグヌス(2005年生)がおり、王位継承順位は父親に続きそれぞれ2位と3位だ。
長女のマッタ=ルイーセ王女と元夫アリ・べーンの間には、モード・アンゲリカ(2003年生)、レア・イサドラ(2005年生 )、エマ・タルーラ(2008年生)という3人の娘がいる。夫妻は2017年に離婚し、アリ・べーンはその2年後に亡くなっている。
ノルウェーでは1990年の憲法改正により、王位は性別に関係なく君主の第一子に与えられることが決まった。したがって、将来的にはイングリット・アレクサンドラ王女がホーコン王太子の跡を継ぎ初代ノルウェー女王に即位することになる。
現国王ハーラル5世には5歳年上の姉、アストリッド王女がいるが、憲法改正以前には女性が王位に就くという選択肢はなかった。アストリッド王女が王位に最も近づいた時期は、母親が逝去した1954年から弟のハーラル5世が結婚した1968年までの間だといえるだろう。
いずれにせよ、ハーラル5世は今も昔も国民に愛されている。いつかホーコン王太子が即位するその日まで、ハーラル5世は伝統を大切にしながら、王室の近代化を推し進めていくのだろう。