トム・ハンクス映画ベスト20、あなたのベストは何ですか?
トム・ハンクスは親しみをこめて「アメリカのお父さん」と呼ばれることもある。ハリウッドの歴史のなかでも特に華々しいキャリアを歩み、出演した映画は80本以上、大きな賞に何度もノミネートされ、数えきれないほどの栄誉を得ている。その演技は世界中のファンの心をとらえており、出演作をランキングすることはとても難しい。この記事ではまずトム本人の言葉を紹介し、それからトップ20を発表する。もしよければ読者のみなさんもコメント欄でそれぞれのベスト「トム・ハンクス映画」を教えてほしい。
2022年9月27日付の『ピープル』誌の記事でトム・ハンクスの言葉が紹介されている。「一本の映画がどんなふうに出来上がるのか、実のところ誰も知らないんです。自分は知ってる、とみんな思っていますが。僕はこれまで山ほど映画を作ってきたけれど(そのうち4本はかなり良い映画だと思います)、映画が形になるたびに驚きを新たにしています。ちらっと浮かんだアイデアが映像となってスクリーンに映し出される、これはまさに奇跡なんです」
トム・ハンクスが「かなり良い映画」だと思う4本の具体的なタイトルは明かされていない。だが2021年11月の『Bill Simmons Podcast』に出演したトムは、自身のベストとして3タイトルを挙げている。映画の出来ばえではなく「その映画を作っていたときの個人的な経験にしたがって」選んでいると彼は語る。
トム・ハンクス本人のベスト3はお楽しみにとっておくことにして、まずは我々が作ったランキング・トップ20を紹介しよう。
古いファンの受けがいいのは『マネー・ピット』だ。シェリー・ロングと共演するトム・ハンクスは若い弁護士を演じている。愛する二人は立派な豪邸を格安で購入するが、その家はとんでもない代物で……。もちろん、オスカー本命の演技とはいかないにせよ、若き日のトムがのびのびと演技し、スラップスティック(どたばた)でお下品なコメディアンとしての持ち味をいかんなく発揮していることは間違いない。
『クラウド・アトラス』は、オンラインデータベース「IMDb」によると、「一人一人の人生における行いが過去・現在・未来において、それぞれ強く影響しあう様子を描く。一つの魂が人殺しから英雄へと形を変え、親切な行いが巡り巡って数世紀後の革命につながる」。中身のぎっしり詰まった映画で、さまざまな解釈ができる。
批評家たちからの評判は今一つだったが、一般客は『ダ・ヴィンチ・コード』をしっかり楽しんだ。その証拠に興行収入はすばらしく、トム・ハンクス出演作では収益トップの映画になっている。彼は映画でロバート・ラングドン役を演じる。共演は『アメリ』でお馴染みのオドレイ・トトゥ。
感動的な大作『グリーン・マイル』はスティーヴン・キングの同名小説が原作となっている。映画は大ヒットし、2000年アカデミー賞では音響・脚本・作品賞にノミネート、マイケル・クラーク・ダンカン(死刑囚コーフィー役)は助演男優賞にノミネートされた。物語の主な舞台は大恐慌期(1930年代)のアメリカに設定されており、トム・ハンクスは死刑囚棟の看守を演じる。ある日仕事場の監房に変わった囚人(マイケル・クラーク・ダンカン)がやってきて、トム・ハンクスは超自然的な出来事を目にするようになり……。
犬好きのみなさん、お待たせしました。映画『ターナー&フーチ』でトム・ハンクスは私服捜査官ターナーを演じ、相棒犬フーチと一緒に犯罪に立ち向かう。映画はとてもヒットし、のちにテレビドラマとしてもリメイクされた。
スティーヴン・スピルバーグ監督がメリル・ストリープとトム・ハンクスを迎えて作った『ペンタゴン・ペーパーズ(原題:The Post)』は、実話に取材した社会派映画である。1971年、『ワシントン・ポスト』紙の2人のジャーナリストが「ペンタゴン・ペーパーズ」と呼ばれる悪名高い機密文書の暴露記事を発行しようとする実話が語られる。
トム・ハンクスは伝記もの(のアメリカ映画)にかなり熱心に出演している。『キャプテン・フィリップス』は、2009年に実際起こった「マースク・アラバマ号乗っ取り事件」を描いている。トムが演じているのは、ソマリア沖の海賊によって人質に取られたフィリップス船長である。
トム・ハンクスとレオナルド・ディカプリオの共演。驚くべき実話を元に描かれたテンポの速い犯罪映画。『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』の物語は懐かしの1960年代を舞台に繰り広げられ、すばらしい役者たちが脇を固める。主演の二人は世界を飛び回って壮大な追いかけっこに興じる。逃げるのはレオナルド・ディカプリオ扮する天才詐欺師。トム・ハンクス扮するFBI捜査官が(さんざんコケにされながら)追いかける愉快な映画である。
お次は『ユー・ガット・メール』。メグ・ライアンとトム・ハンクスはこの映画で三度目の共演を果たし、スクリーンで素敵な化学反応を起こす。この二人は以前にも共演したことがあるが、それについては後で詳しく見てゆこう。インターネットが爆発的に普及しつつあった90年代後半、電子メールは手紙に代わる新しいコミュニケーションの形だった。その新鮮なツールを通じてロマンスが育まれる過程を描いたのがこの作品だ。第一級の役者が演じる上質なロマンティック・コメディといったところだろうか。電子メールつながりで、深津絵里の『(ハル)』(1996年)を思い出す方もおられるかもしれない。
映画『スプラッシュ』のオープニング・クレジットで流れるゴキゲンな音楽は、メキシコ系ロックバンド「サム・ザ・シャム&ザ・ファラオス」の1965年の曲「Wooly Bully」。ご存じない方はぜひYoutubeなどで聴いていただきたい。映画は青年と人魚の恋を描いている。青年がトム・ハンクス、人魚がダリル・ハンナ。映画は主に80年代のシカゴが舞台になっている。言うことなしだ。この古典的なロマンティック・コメディは今観ても新鮮である。
さてここからトップ10。トム・ハンクスとメグ・ライアンの初共演は『ジョー、満月の島へ行く』(1990年、日本では劇場未公開)だったが、二度目の共演作『めぐり逢えたら』がやはり決定的だった。ロマンティック・コメディでこの映画を超える作品はちょっと見当たらないかもしれない(メグ・ライアンだと『恋人たちの予感』も捨てがたいが、今回はあくまでトムがメイン)。物語は喪失、愛、そしてスマホや携帯電話のない当時のローテクな通信手段をめぐって揺れ動く。手段が限られていることから生じるすれ違いや偶然の一致こそ、ロマンティック・コメディの真髄ではないだろうか。一見の価値あり。
トム・ハンクスは「アメリカのお父さん」と呼ばれるが「ミスター・ナイスガイ」としても知られており、『幸せへのまわり道』のミスター・ロジャース役にぴったりだった。心温まる物語で子供のころの懐かしい気持ちを思い出させてくれる映画だ。その素晴らしい演技により、トムは2020年のアカデミー賞とゴールデングローブ賞の助演男優賞にノミネートされた。
デンゼル・ワシントンとトム・ハンクスは『フィラデルフィア』で鬼気迫る名演を見せている。とりわけ80年代後半から90年代前半にかけて、新しい疾患であったエイズはゲイ差別と結び付いたのだったが、トムはその時代のエイズ患者を演じ、病のみならず社会からの差別とも戦っていく。この映画で彼は初めてオスカー像を獲得し(アカデミー主演男優賞)、初めてゴールデングローブ賞(1994年)に輝いた。
スポーツ系コメディドラマ『プリティ・リーグ』でトム・ハンクスは、ジーナ・デイヴィス、マドンナ、ロージー・オドネル、ロリ・ペティと共演している。映画は第二次大戦中のアメリカで実際に創設された、全米女子プロ野球リーグを題材にしている。なぜ女子なのかというと、大リーグ選手(男子)が出征したからである。この映画は一部のファンにカルト的に支持され、2022年にはAmazon Prime VideoのTVシリーズとしてリメイクされた。
トム・ハンクスは『トイ・ストーリー』シリーズの4作品でカウボーイ人形ウッディに声を吹き込み、命を吹き込んだ。このランキングではその4本をまとめて扱おう。一連の「トイ・ストーリー」はウォルト・ディズニー・カンパニーにおいて息の長い大ヒットを記録しており、子供から大人までおしなべて高い人気を誇っている。
ランキングのトップ5にこの映画が入っていないとがっかりすることになるだろう。というわけで『ビッグ』が5位。早く大人になりたい、一夜のうちに大人の体になりたいと、子どもなら誰でも夢見るものだ。トム・ハンクスが演じるのは、そんな願いが叶ってしまった子どもである。大人になったトムはおもちゃ会社に就職して大人として生活することになり、大人の恋愛にも足を踏み入れるのだが……。この演技でトムはアカデミー賞にノミネートされたほか、ゴールデングローブ賞主演男優賞に輝いた。
4位はドキュメンタリードラマ、『アポロ13』。映画は批評家から高い評価を受け、描写の驚くべき正確さと細部をないがしろしない作風で観客の度肝を抜いた。アポロ13号船長ジム・ラヴェル役のトム・ハンクスの演技は文句なしに感動的で、その姿には思わず涙がこぼれるだろう。
さて、ようやくトップ3。『キャスト・アウェイ』のトム・ハンクスの演技は当時としては革命的だった。45分間にもわたって会話も音楽もなしというのは前代未聞だったのだ。しかしトムはやってのけた。アカデミー賞にノミネートされ、ゴールデングローブ賞を受賞したのもうなずける。
『プライベート・ライアン』は第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦に題材をとった大作映画で、念入りな時代考証のもと、スティーヴン・スピルバーグが監督をつとめた。トム・ハンクスが演じるのはジョン・H・ミラー大尉。ひょんな経緯から前線の一兵士リチャード・ライアンを故国アメリカに帰還させる任務に就く。映画冒頭のシーンからして普通ではない。トム・ハンクスは1999年のアカデミー賞とゴールデングローブ賞の両方にノミネートされた。
1位は『フォレスト・ガンプ』。たいていの人はこの映画を観てしみじみと説得されてしまう。いわば叙事詩的な映画で、50年代から80年代にかけてのアメリカの歴史が一人の男「フォレスト・ガンプ」の人生に沿って紹介され、時代時代に強く結びついたサウンドトラックがその映像を彩る。そこから得られるノスタルジアが、俳優たちが紡ぐ人間ドラマとあいまって、言葉にできない映画的感動をかきたてる。『フォレスト・ガンプ』は多くの番付でオールタイムベストにランクインしており、トム・ハンクスの演じぶりは最高だ。トムは1995年のアカデミー賞とゴールデングローブ賞の両方を受賞した。
さて、トム・ハンクスが選んだベスト3を発表しよう。トムは2021年の『Bill Simmons Podcast』で、映画を作りながら味わった最高の経験として、『プリティ・リーグ』『キャスト・アウェイ』『クラウド・アトラス』の3本を挙げた。その長いキャリアのなかでどうしてこの3本が特別な位置を占めるのか、彼のコメントに耳を傾けよう。
『プリティ・リーグ』の撮影期間は、まるで子どもの時分に戻ったような気分だったとトムは語る:「(撮影のあった)夏のあいだずっと、野球に明け暮れていた…… 僕の家族も撮影についてきて、みんな一緒に暮らしていたんだ…… 家の周りにはトウモロコシ畑が広がっていた。すばらしい経験だったよ。僕の家族は今でもみんなあの時のことを口にする」
トム・ハンクスは続けて『キャスト・アウェイ』の経験を語る。この撮影でも家族がトムに同行し、フィジー島への二度の旅行にも連れ立った。「毎日、もっと言えば毎晩が冒険の連続だった」
トムが最後に選んだのは『クラウド・アトラス』。撮影は主にドイツで行われた。何といっても共演者陣がすばらしく、皆が「ベストを尽くすことだけを考え、アメフト名選手ケン・ステイブラーの言葉を借りて言うなら『心の奥に突き刺さる』この作品に取り組んでいた」とトム・ハンクスは語った。