ディナーで600万円?:ロンドン一高額な「塩振りおじさん」のレストラン
ロンドンのナイツブリッジに新しいレストラン「Nusr-Et」が2021年9月にオープンすると、グーグルにもトリップアドバイザーにもすさまじい数のレビューが並んだ。あの「塩振りおじさん(ソルトベイ)」はいまや、贅沢ディナー界の「くせもの」になりつつあるのだ。好き嫌いはさておくとして、とある4人グループが、ひとつ豪勢なディナーでもということで2021年10月8日にレストランの門をたたいた。評判にたがわず豪勢なのはよかったが、わたされた勘定書を見た4人は目玉が飛び出してしまったようだ。
「塩振りおじさん」のレストランは、たしかにかなりすごい食材を使っている。だが、しめて37,000ポンド(約600万円)の勘定書は、4人の客に好ましい印象を与えなかった。勘定書をみると、注文した料理についてずいぶんと踏み込んだ料金設定が行われていた。例えば、ワインのボトルが9,000ポンド(約150万円)、デザートが600ポンド(約10万円)。
ニュースサイト「MyLondon」によると、このレシートの写真が「Snapchat」に投稿されたことから、この時の支払額が広く知られることになったという。もちろん、このレシートに多くの人があっと驚いたが、当の4人組にとってはおもしろくもなんともなかったようで、フォトキャプションには「人をおちょくってやがる」とあった。
このような不幸な客を生み出してもいるのが「塩振りおじさん」ことヌスレット・ギョクチェ。彼はトルコ出身のシェフでフード・エンターテイナー、レストラン経営者である。肉に塩を振りかけるしぐさがネット上で拡散し、彼は一躍有名になった。
塩振りおじさんはこれまで数店をオープンさせているが、客の反応はまちまちである。批評家たちが言うには、料理はしょっぱく、値は高すぎ、おおむね肉は、それほど多額の勘定書を背負い込めるほど良質ではないのだとか。フード専門のウェブサイト『Eater』の評論家Robert Sietsemaは、このレストランとシェフ本人のセンスのよさを(ニューヨーク支店のことだが)まずは褒める。「新しくニューヨークに支店を出したNusr-Etをただのステーキハウスとして評価しようと努めるなら、あなたはきっとがっかりすることになる…… そうではなくて、このレストランをディナー劇場として認めるならば、さぞ満足のいくものであることがわかるだろう。とはいえ、塩振りおじさんが在店の場合にかぎるけれども」
そのセンスのよさ、才能、演技力、そして料金の高さのおかげで、彼はすぐに有名になった。目の玉の飛び出るような価格設定をしたシェフは、実際かなりうまくやっているようだ。その純資産は4600万ポンド(70億円以上)と見積もられている。では、Nusr-Etのメニューにはどんな料理が載っているのだろう。
Nusr-Etといえば、もちろんステーキが有名だ。とはいえメニューには、サラダ、ラム肉、バーガー、ミートボール、スジュク(トルコの発酵ソーセージ)も並ぶ。
このレストランのロンドン支店では、ゴールデン・ジャイアント・トマホークステーキが1450ポンド(約23万円)する。ゴールデン・ジャイアント・ストリップロイン(サーロイン)は1350ポンド(約21万円)、ゴールデン・カフェは500ポンド(約8万円)。やれやれ、ゴールデンばっかりだ。
写真:Instagram @nusr_et
さて先ほどの4人組は、400ポンド(約6万円)という何とも法外な値段がつけられた「バクラヴァ」を16個食べた。このデザートは成り立ちからして、そこまで高くつくはずがない。バクラヴァは要するに、生地の間に砕いたナッツを挟み、シロップやハチミツで甘くした菓子なのだから。
写真:Slashio Photography / Unsplash
サイドメニューも信じられない高額設定だ。わずかな量のアスパラガス一皿が18ポンド(約3000円)、ブロッコリーのソテーが欲しければ、14ポンド(約2000円)を覚悟しなければならない。野菜料理にむちゃな値段がつけられている。
写真:Unsplash/Ashley Byrd
写真ではごく一般的なステーキハウスに見えるかもしれないが、つけあわせのフライドポテトが欲しい場合は、それなりに財布をはたく必要がある。マッシュドポテト(じゃがいもを潰しただけ)は12ポンド(2000円弱)。
写真:Instagram @nusr_et
今回のレシート写真の投稿について、4人組が9100ポンド(150万円弱)をだして1996年もののヴィンテージワイン「ペトリュス」を注文している事実に、当然のことながら多くの人が注目している。実際、飲み物代が高くついているのだ。
写真:Instagram @nusr_et
この4人組はさらに、2003年もののペトリュスを2本追加し、19900ポンド(約320万円)支払っている。お会計があんなに高かったのは、このせいだ。
一杯目にまずシャンパンを飲んだのか、あるいは締めの一杯としてシャンパンを傾けたのかは、わからない。いずれにせよ、彼らは2006年もののドン・ペリニヨン・ロゼを2本開けている。こちらのボトルは、Nusr-Etとしてはカジュアルな価格、1本810ポンド(約13万円)でサーブされている。
高価なディナーに行くと、緊張からか、のどが渇くことがある。お肉をどっさり食べたあとは、「お冷や」でお口をさっぱりさせたくなることも。そういうときは、一本9ポンド(約1500円)の水を注文すればいい。
写真:Unsplash/Steve Johnson
金箔に包まれているのは、ただのステーキではない。これは「ハンバーガーの金箔包み」、100ポンド(約1万6000円)である。イギリスのモデル、ダニエル・ロイドもレストランを訪れ、贅を尽くしたこのハンバーガーをためしてみた。彼女にいわせれば、値段相応だという。「すごくおいしかった。でも、すごく高くついた。要するに、お金を出してめずらしい経験をしたようなものね」
写真:Instagram @missdlloyd
金箔に包まれるのは、料理だけにとどまらない。ディナーのあとに、50ポンド(約8000円)のカプチーノなどはいかが? 演出効果のおかげで目も覚めることだろう。
たまねぎはたったの18ポンド(3000円)。この店の「オニオンブロッサム」は、客観的に言ってきれいに仕上がっている。スライスはあくまで正確、揚げ加減も申し分ない。とはいえ、いたって普通の「まるごとオニオンフライ」だ。
写真:Trip Advisor
肉料理やトルコ菓子「バクラヴァ」といったメニューがありつつ、海老天ロールという品も注文できるのは、やや意外かもしれない。レストランを訪れたある客が、この品をオーダーしてみた。海老の天ぷらを巻いたものが2つ出てきて、お代は60ポンド(1万円弱)だった。
写真:Getty Images / Instagram @jarrodbowen
穂軸つきのトウモロコシを、10ポンド(約1600円)で食べることもできる。こちら、トウモロコシです。ごゆっくりどうぞ。
写真:Robert Krčmar / Unsplash
もっと驚きなのは(やけに高価な水はさておき)、この4人組がソフトドリンクに払った金額だろう。コカコーラが9ポンド(約1500円)、レッドブルが11ポンド(約1800円)だった。
写真:Artem Beliaikin/Douglas Bagg / Unsplash
Nusr-Etのディナーでは、そのしめくくりに、15パーセントのサービス料が計上される。この4人組の場合、酔いもさめてしまうような4829.10ポンド(約80万円)が計上された。ロンドンは物価が高いというが……