スイス鉄道の旅:美しい大自然を車窓から満喫
国土の殆どが山岳地帯だが、スイスは密度の高い鉄道網が発達している。中には富士山と同じ標高まで登る列車すらある。今回はスイスならではの美しい大自然を車窓から楽しむことができる、観光客に人気の鉄道を紹介していこう。
観光客から1番人気の鉄道といえば、最新のパノラマ展望車両でスイス南部を東西に貫く氷河特急だろう。新しいトンネルが開通したことで、車窓から名前の由来となったローヌ氷河を見ることはできなくなったが、見所は他にも有り余るほどある。
氷河特急の平均時速は35km。世界で最も遅い特急だ。標高差1400m、全長275kmを8時間かけて走行する。291の橋、7つの谷、91のトンネルを通過し、最高到達点はオーバーアルプ峠の2033m。
氷河特急のハイライトとなるのがラントヴァッサー橋だ。1904年に完成したアーチ式石橋で、長さ136m、高さは65mある。最大の難所と呼ばれた渓谷にラントヴァッサー橋がかけられたことで、東西の鉄道が結ばれ大きな経済効果ももたらされた。
氷河特急と並んで人気が高いのがベルニナ特急。湖、山、森、様々に変化する絶景の連続を車窓から楽しむことができる。標高差も大きく、最低地点はイタリア領の町ティラーノの429m、最高到達点はベルニナ峠の2253m。
見るもの全てが美しい路線だが、必見はブルージオのループ橋。世界的にも珍しい円形の橋で、列車は高低差を調節するためにぐるっと一周する。勾配は70%。世界で一番有名なループ橋で、日本のCMにも使用された。
ベルニナ特急は歯車を使ったラック式ではなく粘着式鉄道、つまり普通の電車だ。それでいて、ラック式並みの標高に達するので、多くの国の登山鉄道の手本となった。日本の箱根登山鉄道もベルニナ特急をモデルにして作られた。
1912年に開通した全長9.3kmのユングフラウ鉄道。ヨーロッパで一番高い地点にある駅に達することから人気を博している。富士山の高さが3776m、そして「Top of Europe」と呼ばれるユングフラウヨッホ駅の標高は3454mだ。
終点のユングフラウヨッホ駅は地中にあり、隣接するスフィンクス展望台には108mを25秒で上るスイス最速のエレベーターで上る。ヨーロッパで最も標高が高い展望台で、3591mある。
ユングフラウ鉄道は技術的、そして予算的に実現不可能とされていた。とくに魔の山と恐れられたアイガー山中にトンネルを作る作業は困難を極め、工事中の爆発事故で作業員が命を落としている。完成まで16年を費やした。
ユングフラウ鉄道が開通したことで、かつては経験を積んだ登山家しか見ることが出来なかったアルプス3大名峰のひとつ、ユングフラウが身近な山となった。
世界一の急勾配を誇るのが、1889年に開通したピラトゥス鉄道。最大傾斜度48%、4.8kmしかない路線だが標高差は1629mもある。さらに特異なのは、ラック(歯車)式の中でも世界唯一となるロッヒャー式を採用していること。所要時間は30分。
オーバーハウプト展望台(標高2016m)は、ピラトゥス山頂駅から徒歩15分の距離にある。ピラトゥス山は、ドラゴンや亡霊が出る魔の山として恐れられ、数百年に渡って入山が禁止されていた。ピラトゥス鉄道の開通により、今では多くの人が訪れる一大観光地となっている。
ピラトゥス山を訪れた後は、スイスで一番美しい町ルツェルンを観光しよう。町のシンボルとなるのは、ヨーロッパ最古の木造の橋、カペル橋だ。長さ200mの屋根付きの橋で、1333年に建てられたが1993年の火災で大部分が消失、しかし直ぐに忠実に復元された。
現在でもまだ電化されていない、スイスで唯一蒸気機関車での定期運行を継続しているのがブリエンツ・ロートホルン鉄道。1892年開業当時の機関車を使用し、ブリエンツ湖畔からブリエンツアーロートホルンまでの標高差1700mをゆっくり進む。
アルプス3大名峰のひとつマッターホルンは、スイスで最も有名な山だ。1898年開通のゴルナーグラート鉄道は、マッターホルンを間近で楽しめることから人気がある。標高3089mにある終点ゴルナーグラート駅は、地上駅としてはヨーロッパで最も高いところにある。
終点駅にはスイスで最も見応えがあるとされるゴルナーグラート展望台がある。マッターホルンはもちろん、スイス最高峰のモンテ・ローザ(4634m)、そしてゴルナー氷河の迫力ある景色を堪能できる。
「高貴な白」を意味し、スイスを代表する花がエーデルワイス。スイスの国花だが、野生のエーデルワイスを見ることは近年難しくなっている。アルプスの高地で放牧が行われるようになり、牛に食べられてしまったのだそう。しかし、最近ゴルナーグラード鉄道の発着点となるツェルマット近辺で、野生のエーデルワイスの群生が見られるようになった。
ヨーロッパ最古の登山鉄道で1871年に開通した。ルツェルン湖畔のフィッツナウと「山の女王」と称されるリギ山頂を結ぶ。夏の間はベルエポック調の蒸気機関車も特別運行し人気を集める。
スイスのマッジョーレ湖畔の町ロカルノとイタリアのドモッドソラを結ぶ鉄道。イタリア語で「100の谷」を意味し、その名の通りの素晴らしい景色を楽しむことができる。
スイス西部のモントルーと東部ルツェルンを結ぶゴールデンパス・ラインが走行するレマン湖地方は、5月から6月の初めに野生のナルシスの花が一斉に咲き乱れる。ナルシストの語源となった可憐な花で、草原がまるで雪原のようになることから「5月の雪」と呼ばれている。