ジョニー・デップ、カリスマ俳優の栄光と凋落
80年代から90年代にかけて数多くの作品に出演し、世界を熱狂させたハリウッドスターのジョニー・デップ。その彼も今や50代の終わりに差しかかっている。長期化する元妻との係争で大金を失いイメージもダウンするなど、人生最良の時を迎えているとは言いがたい。
ジョニー・デップことジョン・クリストファー・デップは1963年6月9日にケンタッキー州オーエンズボロで生まれた。若い頃から反抗的な雰囲気の持ち主で、16歳で高校を中退し、バンド活動に参加。彼のグループ「ザ・キッズ」は大きな成功を収め、イギー・ポップの前座も務めるほどに成長を遂げた。
1983年、ジョニー・デップはわずか20歳の時にメイクアップアーティストのロリ・アン・アリソンと結婚。年上の妻にニコラス・ケイジを紹介されたことをきっかけに、ハリウッドスターへの階段を上り始めた。
ニコラス・ケイジと知己を得たおかげで、ジョニー・デップはウェス・クレイヴン監督のホラー映画『エルム街の悪夢』で映画デビューを果たす。
それに続きオリバー・ストーン監督の戦争映画『プラトーン』を始め、いくつかの作品で端役を得て経験を重ねていった。そして1987年、ティーンエイジャー向けのテレビシリーズ『21ジャンプストリート』で主演、ジョニー・デップは一躍アイドルとして脚光を浴びた。
ハリウッドのイケメン俳優としてブレイクしたジョニー・デップ。そのポスターは何百万人もの若者の部屋の壁を飾ることになった。
やがてジョニー・デップはイケメンアイドルのイメージから脱却すべく、『クライ・ベイビー』でバイクを乗り回す不良少年役で主演。この作品が彼のキャリアに大きな転機をもたらすことになった。
1990年代、ジョニー・デップはハリウッドの問題児という評判をとるようになる。1993年にはセレブ向けナイトクラブ「ザ・ヴァイパー・ルーム」をハリウッドにオープン、自身もロックスターのような風格を身につけていった。
ジョニー・デップのキャリアに大きな影響を与えた出来事のひとつが、ティム・バートン監督との出会いだ。監督は代表作のひとつとなる『シザーハンズ』の主演に彼を抜擢、本作は世界的成功を収めた。その後、ティム・バートンとジョニー・デップは5本以上の映画でタッグを組むことになる。
1989年、ジョニー・デップはやはりハリウッド女優として人気を博していたウィノナ・ライダーと映画のプレミアで出会い、二人はたちまち恋に落ちた。翌年に公開された『シザーハンズ』には、二人がプライベートでも築いた絆が反映されていた。
理想のカップルとされた二人の関係は4年間続き、婚約までしていたものの破局。ジョニー・デップは腕に「Winona Forever(ウィノナよ永遠に)」というタトゥーを入れていたが、別れた後には「Wino Forever(アル中よ永遠に)」に変えている。
1994年、スーパーモデルのケイト・モスと交際をスタート。どちらも有名人である二人のロマンスはメディアを賑わせ、多くのコメンテーターがその関係を取り上げたものの、1997年に破局。
『フェイク』、『スリーピー・ホロウ』など数々の名作を世に送り出したジョニー・デップ。その功績を称えられ、1999年に栄えあるセザール賞名誉賞を獲得した。
1998年、フランスの女優で歌手のヴァネッサ・パラディと1998年に交際をスタート。二人の関係は14年間続き、その間に2人の子供も授かっている。相思相愛のお似合いカップルとされていただけに、二人が破局したときは多くのファンに衝撃を与えた。しかし、ヴァネッサとジョニーは別れてからも良好な関係を保っている。
風変わりで個性的な役柄を好むジョニー・デップは、『フロム・ヘル』や『チャーリーとチョコレート工場 』のはまり役で大人気を博した。しかもファンを楽しませるためには俳優としてどんな挑戦もいとわない。
2000年代に数々の作品で大きな成功を収め、ジョニー・デップは映画史にその名を残した。とりわけ『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのキャプテン・ジャック・スパロウが当たり役となり、大スターの仲間入りを果たした。
2010年には敬愛するティム・バートン監督とふたたびタッグを組み、『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』の映画化に挑戦。本作では「帽子屋」役で演技力の高さを見せつけたほか、その見事な変身ぶりからジョニー・デップは『映画界のカメレオン』と呼ばれるようになった。
ジョニー・デップはロマンティック・スリラー作品『ツーリスト』でアンジェリーナ・ジョリーとも共演。二人はお互いを嫌い合っていたという噂もあるが、作品自体は大きな成功を収めた。
2011年、ジョニー・デップは『ラム・ダイアリー』の撮影を通じて女優のアンバー・ハードに出会う。21歳差の大物カップルは世界の注目を集めたものの、波乱万丈な関係の始まりはジョニー・デップの凋落の始まりになったともいえるだろう。
瞬く間に恋に落ちた二人は2015年に結婚。しかし結婚生活にはわずか1年で終止符が打たれた。ジョニー・デップはアンバー・ハードから家庭内暴力で訴えられ、メディアで大きく報じられたことから著しく評判を落とすことになった。
アンバー・ハードとの泥沼離婚で物議を醸したジョニー・デップ、俳優としての人気にもかげりが出てきたようだ。『オリエント急行殺人事件』、そして『パイレーツ・オブ・カリビアン』の続編などで人気回復を図ったが、批評家や観客の評価は分かれている。
雑誌『フォーブス』の発表によれば、ジョニー・デップは2015年と2016年に「もっともギャラをもらいすぎの俳優」ランキング第1位に輝いた。これは俳優に支払われた金額に対し、その作品の興行収入がもっとも少ないことを意味する。
2018年、ジョニー・デップはさまざまなプライベートの問題に苦しめられ、それはキャリアにも影を落としはじめていた。最近の主な出演作は『ハリー・ポッター』の著者J・K・ローリングによる大ヒットシリーズ『ファンタスティッ・ビースト』で、魔法使いグリンデルバルド役を務めている。
しかし、これまでのイケメンスターのイメージは急速に変わりつつある。カリスマ性にあふれたハリウッド俳優の雰囲気はどこにいったのか、急に痩せていき、疲れ果て、生気が失われたようにも見える。
近年、ジョニー・デップは映画出演を続けながらも、かつて活躍していた音楽の世界に戻ってきた。デップ本人に加え、アリス・クーパー、ジョー・ペリー(エアロスミス)、トミー・ヘンリクセン、ロバート・デレオ(ストーン・テンプル・パイロッツ)、マット・ソーラム(元ガンズ・アンド・ローゼズ)、ブルース・ウィトキンからなるロックバンド「ハリウッド・バンパイアズ」を結成、ツアーも敢行した。
しかし、ジョニー・デップにはアンバー・ハードとの離婚問題という影が付きまとい続けた。2020年7月、彼は自身を「DV夫」と呼んだ英大衆紙『ザ・サン』を名誉棄損で上訴。一方、元妻アンバー・ハードには家庭内暴力で訴えられている。
雑誌『フォーブス』によれば、訴訟にかかる弁護士費用は数百万ドルにのぼるという。さらにジョニー・デップはアンバー・ハードに対して名誉棄損で訴訟を起こし、本件は2022年春に裁判が行われる予定だ。
しかし、『ザ・サン』誌に対する名誉棄損の訴えは、英裁判所から棄却された。元妻のヴァネッサ・パラディと元婚約者のウィノナ・ライダーはジョニー・デップを擁護する発言をしたものの、裁判所は『ザ・サン』が彼を「ワイフ・ビーター」と表現したことは正当だと判断した。
裁判の結果は、明らかに彼の評判を落とすことになった。ハリウッド俳優としての活動への影響は大きく、ディズニーが『パイレーツ・オブ・カリビアン』のジャック・スパロウ役として彼を再起用しないことを決定。『ファンタスティック・ビースト』シリーズ第3弾からも降板することになった。
90年代から2000年代にかけて、俳優としてのキャリアと貢献に対し数々の栄えある賞を受けたジョニー・デップだが、現在はそうした華やかな舞台から遠ざかりつつある。彼はかつての名声を取り戻せるのだろうか、それとも、キャリアの終焉に向かいつつあるのだろうか。