女優ジュリエット・ビノシュ:知られざる生い立ちと華麗なる成功
今年59歳を迎えたフランスの女優、ジュリエット・ビノシュ。12歳で舞台デビューしてから数多くの舞台や映画作品に出演、数多くの賞に輝いたほか、積極的な社会貢献活動でも知られている。
ジュリエット・ビノシュの父はパントマイム俳優で彫刻家のジャン=マリー・ビノシュ(2019年没)。母はポーランド出身の女優、モニク・スターレンスだ。
ジュリエットはの子供のころ、親元を離れて叔母と暮らしていた。2008年の『Psychologies』誌上では「学校では規則に従うのに苦労しました。しかも、親元を離れて転居したりしたせいで、読み書きが身に付かなかったんです」と打ち明けている。
しかし、ジュリエットは女優という天職に巡り合った。12歳で舞台に立ったのち早い段階で演劇専門コースに進み、フランス国立高等演劇学校で演技の知識を深めていった。そして、1985年には21歳の若さでジャン=リュック・ゴダール監督の『こんにちは、マリア』に出演を果たす。
若きジュリエットに決定的な影響を与えたのは、1986年の『汚れた血』で監督を務めたレオス・カラックスとの出会いだ。2人はフランス映画界でもっとも注目されるカップルとなり、『ポンヌフの恋人』で再び共演。しかし同作の撮影中に破局することとなった。
1987年、ダニエル・デイ=ルイスと共演した『存在の耐えられない軽さ』で、ジュリエット・ビノシュの名は世界的に知られるようになった。チェコの作家ミラン・クンデラの小説を映画化したこの作品は、1968年のプラハの春に翻弄される人物たちを描いている。
1990年代に一世を風靡したジュリエット・ビノシュ。1994年にはクシシュトフ・キェシロフスキ監督の「トリコロール/青の愛」でセザール賞最優秀女優賞に輝いたほか、1997年には『イングリッシュ・ペイシェント』でアカデミー助演女優賞を獲得。フランス内外でスター女優としての地位を確立した。
ジュリエットは、有名な監督からのオファーであっても、その役が自分に合っていないと感じれ躊躇なく断ってきた。実際、スティーヴン・スピルバーグ監督の『インディ・ジョーンズ』シリーズや『ジュラシック・パーク』への出演オファーも続けて断っている。
1994年、数千人の犠牲者を出したロサンゼルス地震では、生後5か月の息子ラファエルとともに九死に一生を得たジュリエット。2016年に放映された番組『Le Divan』では「もう、お終いだと思いました。揺れはかなり長い間、1分弱ほど続きました。ここで死ぬんだという諦めの境地で息子を守ろうとしました」とコメントしている。
2000年には、1950年代のフランスの村を舞台とした恋愛映画『ショコラ』で、ジョニー・デップとロマンチックな共演を果たした。
俳優のオリヴィエ・マルティネスや息子ラファエルの父、アンドレ・ハルと生活を共にしたのち、ジュリエット・ビノシュは1999年の『年下の人』でブノワ・マジメルと知り合った。2人の間には娘のハンナが誕生したが、2003年に破局。
2000年代も女優を続けていたジュリエットだが、かつてほどの華々しさはなかった。とはいえ、ミヒャエル・ハネケ監督の『隠された記憶』でダニエル・オートゥイユと共演、名演技を披露している。
2010年には『トスカーナの贋作』でカンヌ映画祭女優賞を獲得。これによってカンヌ映画祭、ヴェネツィア映画祭、ベルリン映画祭を制覇、ジュリアン・ムーアと並ぶ偉業を達成した。
2013年、ブリュノ・デュモン監督の『カミーユ・クローデル ある天才彫刻家の悲劇』ではタイトルロールを演じたジュリエット。この映画は、波乱の人生の末、精神病院に入院することになってしまった彫刻家カミーユと、彼女の元を訪問する兄で作家のポール・クローデルを描いた伝記映画だ。ジュリエットは数年後『Ma Loute』でもデュモン監督と再び組んでいる。
女優としてだけでなく、活動家としても知られるジュリエット・ビノシュ。 2018年には、天体物理学者のオーレリアン・バローとともに『ル・モンド』紙が主催する地球温暖化対策フォーラムを立ち上げ。アラン・ドロン、ジェーン・バーキン、マチュー・カソヴィッツ、パティ・スミスをはじめ、200人あまりの有名人が署名した。
フランスが反政府デモ「黄色いベスト運動」で揺れた2019年初頭、ジュリエットはドイツ紙『シュピーゲル』のインタビューで、デモ参加者への支持を表明。その後、この運動を支持するフォーラムを組織し多くの文化人の署名を集めた。
2020年5月、新型コロナウイルス危機が峠を越すと、再びオーレリアン・バローと協力して「通常に戻る」ことに反対するフォーラムを立ち上げ、生活様式の根本的な革新を呼び掛けた。すぐに、スティングやロバート・デ・ニーロといった著名人が加わり、波紋を広げた。
最近では、エマニュエル・カレール監督の『ウイストルアム-二つの世界の狭間で-』に出演。この映画は、英仏を結ぶフェリーの清掃員として不安定な日々を送る女性を描いたフロレンス・オーブナ作『OUISTREHAM』を映画化した作品だ。
2022年9月にはスペインのサンセバスチャン国際映画祭で最高賞にあたるドノスティア栄誉賞を受賞。コンチャ湾ではカジュアルな素顔でインタビューに答え、ステージではエレガントなドレス姿で登場。59歳を迎えた今も、女優として輝かしい成功を収め続けている。