オスカー像はたくさん獲っても、観客は少なかった映画たち
ヴィンセント・ミネリ監督の『恋の手ほどき』は、アカデミー賞の9部門にノミネートされたばかりかそのすべてで賞を獲得した。そのなかには作品賞と監督賞も含まれていた。映画史上最も多くの賞を得た作品だったにもかかわらず、映画の売り上げはわずか700万ドルにとどまった。現在の価値で6000万ドルほどである。
ウディ・アレンは、特にアメリカでは、それほど大当たりする監督ではない。だが、アカデミー賞を4部門(作品賞、監督賞、主演女優賞、脚本賞)で受賞した『アニー・ホール』の売り上げが、わずか38万ドル止まりだったことは注目に値する。ちなみに、ウディ・アレンは主演男優賞にもノミネートされていたが、こちらの受賞は逃した。
フランク・キャプラの『素晴らしき哉、人生!』は、とても有名な古典的名作である。ではあるのだが、アカデミー賞の舞台では、ノミネートされた5部門のうち1部門での受賞にとどまった。映画の売り上げはさらに伸び悩んだ。製作費の360万ドルに対し、1946年の興行収入はかろうじて900万ドルに届く程度だった。
映画『炎のランナー』に描かれる、ランナーたちの凛とした生き様に対して、5900万ドルという売り上げでは足りないような気がしてくる。映画はアカデミー賞を4部門で受賞し、ヴァンゲリス作曲のサウンドトラックはことに有名である。が、それに見合った興行的成功を得ることはできなかった。もちろん、製作費が500万ドルそこそこであることを考えると、十分もとは取れたようだ。
ミロス・フォアマン監督の映画『アマデウス』は、アカデミー賞にノミネートされた11部門のうち、8部門で受賞した。批評家はそのように高く評価したが、一般の観客は天才作曲家の人生について不思議と興味がなかったのか、興行収入は全世界で5200万ドルにとどまった。
『アマデウス』の2年前、こちらも伝記映画の『ガンジー』がアカデミー賞を同じく11部門でノミネート、8部門で受賞した。興行収入も似たり寄ったりの5300万ドル。一般の観客はガンジーの生涯についても、それほど関心がなかったのだろうか。製作費は2200万ドルだった。
ベルナルド・ベルトルッチ監督の映画『ラストエンペラー』は、アカデミー賞を文字通り席巻し、ノミネートされた9部門の全部で受賞を果たした。だが、それで売り上げに発破がかけられるということはなく、興行収入は4400万ドルにとどまった。製作費は2400万ドル。
映画『ムーンライト』は、アカデミー賞の8部門でノミネートを受け、うち3部門(作品賞、助演男優賞、脚色賞)で受賞した。薬物依存者や同性愛者を描く、繊細ながら気骨ある作品で、映像的にも美しい。にもかかわらず、全世界の興行収入は5500万ドルにとどまった。
アメリカン・ニューシネマの代表作として根強い人気をほこる『真夜中のカーボーイ』は、ジョン・ヴォイトとダスティン・ホフマンという、ちぐはぐな、だからこそ強い印象を与える二人が演じるロード・ムービー。彼らは二人合わせてアカデミー賞主演男優賞にノミネートされるも、受賞は逃した。興行収入は全世界で4400万ドル。アカデミー賞作品賞、監督賞、脚色賞を受賞した伝説的映画としては、やや少ない収入である。いくつかの国で成人映画に指定されたことも、売り上げが伸び悩む理由になったといえる。
『ファイト・クラブ』はアカデミー賞音響編集賞にノミネートされるも、『マトリックス』に賞をさらわれる。とはいえ『ファイト・クラブ』は高い注目を集める話題作になり、カルト的な人気を得た。じっさい出来のいい映画でもあった。だが不思議なことに、興行収入は1000万ドルを超える程度に終わってしまう。製作費は630万ドル。
アカデミー賞を6部門で受賞し、他2部門でもノミネートを受けた映画『わが命つきるとも』の売り上げとして、2800万ドルはいささか少なく思われる。アカデミー作品賞、監督賞、主演男優賞、脚色賞、撮影賞、衣裳デザイン賞に輝いたというのに、これでは少なすぎないか。ただ、製作費はわずか200万ドルだった。
映画『ハート・ロッカー』はアカデミー賞を、作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞、音響効果賞、録音賞の6部門で受賞した。にもかかわらず、全世界の興行収入は5000万ドルに届かなかった。ただ、製作費のほうも1500万ドルと安上がりではあった。
古典大作映画『ハムレット』(1948年)は、アカデミー賞の4部門で受賞を果たした。ローレンス・オリヴィエは主演男優賞に、映画は最優秀作品賞に輝いた。だが、興行収入はたったの300万ドルで、現在の価値でいうと3000万ドルほどだった。