英王室に伝わる婚約リング:ジュエリーに秘められた愛の物語
世界中の人々の関心を集めるイギリス王室には、壮麗かつ貴重なジュエリーコレクションが収められている。今回は、王室メンバーの婚約発表で必ず取り上げられるエンゲージリングの秘められたストーリーをご紹介しよう。
イギリス王室がケンブリッジ公ウィリアムとケイト・ミドルトンとの婚約を発表してから、早くも10年以上が経過した。キャサリン妃の指に光るエンゲージリングは、大粒のサファイアをダイヤモンドで囲んだヘイローデザイン(”Halo”が後光を意味し、中央の宝石をダイヤモンドで囲んだタイプ)で、大切な思いがつまったジュエリーとして知られている。
キャサリン妃の指輪は12カラットのオーバルカットサファイアを14石のダイヤモンドで囲んだデザインだ。地金は18Kホワイトゴールド製で、王室御用達ブランドのガラード( Garrard )によるものである。なお、キャサリン妃の細い指に合わせるために、バンド部分の内側にサイズ調整用のプラチナ製ビーズが溶接されている。
キャサリン妃の指輪は現ウェールズ公ウィリアムの母であるダイアナ妃が身に着けていたものだ。ダイアナ妃はチャールズ皇太子と婚約した際、王室所有の宝石を使用せず、ガラードのジュエリーカタログから自らサファイアの指輪を選んだ。ダイアナ妃が亡くなった際の遺産分与ではサセックス公ヘンリーが母の形見として相続したが、兄の婚約発表の際に、キャサリン妃へ指輪を譲っている。
2017年当時、世界でもっとも魅力的な独身男性の1人といわれたサセックス公ヘンリーと婚約。メーガン妃の左手薬指に輝く指輪は、王子自らがデザインしたものだ。
指輪の中央には3カラットのボツワナ産のクッションカットダイヤモンドがセッティングされ、その両サイドにはダイアナ妃のプライベートコレクションのラウンドカットダイヤモンドがあしらわれている。ダイアナ妃所有のダイヤモンドをあしらった指輪には、いつも母とともにいることを願うヘンリー王子の思いが込められているのだ。なお、中央のダイヤモンドは7万ポンド~11万5千ポンドの価値があると推定される。絵に描いたようなシンデレラストーリーだが、王子が考えたデザインは数年後にメーガン妃によってリメイクされている。
初恋の相手と文通で恋を育んできたエリザベス2世だが、フィリップ王配と結婚するまでの道のりは苦難の連続だった。1947年、若き日のフィリップ殿下は即位前のエリザベスにスコットランドでプロポーズした。なお、エリザベス2世の指輪は王配自身がデザインしたものである。
エリザベス2世のエンゲージリングはセンターストーンにラウンドカットを施した3カラットのダイヤモンド、その両側に5石ずつ小さなダイヤモンドをセットしたプラチナ製のパヴェスタイルのリングだ。フィリップ王配はギリシャおよびデンマークの王子として生まれたが決して裕福とはいえず、指輪には母アリス・オブ・バッテンバーグのティアラに使われていたダイヤモンドの一部を外して再利用している。ダイヤモンドの専門家によると、この指輪は20万7千ポンドもの価値があるという。一方、指輪に使われているゴールドはダイアナ妃、アン王女、キャサリン妃の結婚指輪と同じく、イギリス王室伝統のクロガウ鉱山のウェルシュ・ゴールド(ウェールズ産の金)である。
写真:Getty Images (Colorisation edit Showbizz Daily)
チャールズ皇太子とカミラ夫人の婚約が発表されたのは2005年のことだ。薬指に輝くプラチナ製の指輪はアール・デコ期に制作されたもので、言葉にできないほど美しい。この指輪は、エリザベス2世の母であるエリザベス王太后のコレクションの1つで、王太后自身が身に着けていたものだという。
指輪のセンターには5カラットのエメラルドカットのダイヤモンド、その両側にはバゲットカットを施したダイヤモンドがそれぞれ3石あしらわれている。カミラ王妃はこの指輪を、控えめなゴールドの結婚指輪と重ねて着用している。なお、2人は2005年にウィンザー城で民事婚を挙げ正式に夫婦となった。
2人の婚約後、多くの人々がカミラ夫人の薬指に輝くリングに釘付けになった。イギリスのスーパーマーケットASDAは「一般の人にも王族の気分を味わってほしい」というコンセプトで、レプリカの指輪を19ポンドで限定販売した。
ユージェニー王女は7年間の交際を経て、2018年にジャック・ブルックスバンクと婚約。王女は父アンドルー王子がサラ・ファーガソンに贈った指輪とよく似た、ピンクの宝石が輝く指輪を披露している。
指輪はピンクとオレンジの中間色の大粒パパラチア・サファイアをダイヤモンドで取り巻いたデザインだ。パパラチアとはサンスクリット語で「蓮の花」を意味し、原産国であるスリランカの蓮の花の色に似ていることから名づけられた大変貴重で美しい宝石だ。
アンドルー王子とサラ・ファーガソンは1986年3月に婚約し、4か月後の7月23日に結婚した。王子はサラ・ファーガソンを喜ばせようと、予算を惜しむことなく指輪の制作にあたった。
イエローゴールド製の指輪は「クラスターリング」と呼ばれる花をイメージしたデザインで、中央のビルマ産ルビーの周りには10石のダイヤモンドがあしらわれている。ダイアナ妃の指輪と同じく、王室御用達ジュエラーのガラードにより制作された。
ソフィー妃は1999年1月にエドワード王子からプロポーズを受け、同年6月に結婚したが、今までその指輪に大きな注目が集まることはなかった。ソフィー妃の指輪は3石のダイヤモンドが連なるトリロジーリングである。トリロジーには「過去・現在・未来」という意味があり、いつまでも夫婦円満な2人にはぴったりのデザインだ。なお、制作はガラードが担当している。
ソフィー妃の指輪の中央には2カラットのダイヤモンドが輝き、両サイドには小ぶりのハートシェイプダイヤモンドがセットされている。なお、こちらのリングはホワイトゴールド製で、専門家によると10万5千ポンドの価値があるという。
アン王女の長女ザラ・フィリップスは、2010年12月にラグビー選手のマイク・ティンダルと婚約。シドニーのバーから始まった2人のロマンスも話題になったが、ザラの指輪も多くの人々の関心を集めてきた。マイクは馬術競技選手であるザラが乗馬中でも着用できるように、台座の低いリングデザインを考えたそう。夫の優しさと配慮を感じる心温まるエピソードだ。
この指輪は高位王族の女性たちに比べると、より実用的なデザインである。アクティブなザラが日々着用している指輪は、スプリットショルダー(フェイス部分につながるショルダーが2手に分かれているデザイン)の中央に1.5カラットのラウンドブリリアントカットダイヤモンドをセットしたものだ。アール・デコを思わせるデザインの指輪はプラチナ製で、その推定価格は14万ポンドだという。
エドワード8世は離婚歴のあるアメリカ人女性、ウォリス・シンプソン夫人と結婚するために、わずか11カ月で退位した「王冠をかけた恋」の主人公である。当時もっと寛容な社会であれば、シンプソン夫人はウィンザー公爵夫人ではなく王妃になっていたかもしれない。1936年にエドワード8世から贈られた指輪は、シンプソン夫人にとって愛と希望そのものであった。
エドワード8世が贈ったエメラルドの指輪は、ムガール皇帝が所有していた大粒のエメラルドを半分にカットして使用したものだ。19.77カラットもの大粒エメラルドはカルティエにより、ダイヤモンドをセットしたプラチナ製リングに生まれ変わった。(後にシンプソン夫人自身がカルティエに依頼し、イエローゴールドとダイヤモンドをあしらったモダンなデザインに仕立て直している)なお、この指輪のバンド内部には秘密のメッセージが刻まれている:
"We are ours now 27 X 36"(シンプソン夫人が離婚裁判に勝訴した1936年10月27日を表す)
シンプソン夫人の死後、指輪はサザビーズ(ジュネーブ)で競売にかけられ、198万ドルで落札されている。