ブラッドリー・クーパー・アルコール依存と薬物依存を乗り越えて
ハリウッドのセレブたちの人生は、必ずしも順風満帆だったわけではない。俳優や映画監督、さらに脚本家としても成功をおさめたブラッドリー・クーパーも、アルコールと薬物依存症に苦しんだことで知られている。
2001年から2006年まで、ブラッドリー・クーパーはJ・J・エイブラムス製作のTVシリーズ『エイリアス』に計46話にわたり出演、ジェニファー・ガーナー演じる主人公シドニー・ブリストウの親友、ウィル・ティッピン役を務めた。この仕事を降りた頃からキャリアが狂い始めるが、問題はかなり前からあったのかもしれない。
2013年の『GQ』誌のインタビューで、ブラッドリーはアルコールの問題にふれている。「週に3日くらいしか仕事がなくて、シーズン2に入るとさらに出番が減ったんだ。自尊心が削られて、死にたいとさえ思うようになった。仕事に必要とされていない事実を受け入れなければならなかった」
問題はそれだけではなかった。ドラマ『エイリアス』の撮影のためにロサンゼルスに移り住んだブラッドリーは、完全にうつ状態だったという。
当時、映画やテレビ業界でフラストレーションに陥っていたブラッドリーは、すべてから逃れるためにアルコールや違法薬物に手を出していた。
俳優仲間のウィル・アーネット、ジェイソン・ベイトマン、ショーン・ヘイズらが司会をつとめるポッドキャスト番組『スマートレス』に出演したブラッドリーが当時を詳しく振り返ったことで、依存症に陥った注目を浴びるようになった。
「30代前半の頃はかなり自分を見失っていて、薬物に溺れ、自尊心もなくなっていた。そのうえ『エイリアス』から降ろされ、その直後にはアキレス腱を切ってしまったんだ」
「29歳でそうなったんだ。ウェンディーズのコマーシャルの仕事をもらったときには、功したと思ったよ。でも『エイリアス』に出演するためにロサンゼルスに引越した時は、高校時代に戻ったようだった。どのナイトクラブにも入れてもらえないし、女の子には見向きもされなかった。完全にうつ状態だったよ」
皮肉なことに、ブラッドリー・クーパーが一躍有名となり、自己破滅的な負のスパイラルから抜け出し始めたのは、『ハングオーバー!消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』(2009)でアルコールに溺れた教師、フィル・ウェネックを演じてからだった。
「今ほど有名になる前に、依存症と向き合うことができた。29歳から34歳にかけてさまざまな問題を克服したんだ。少なくとも人と向き合い、落ち着いて話をしたり聞いたりできるようになった」と、『スマートレス』に対し当時のつらい自己成長のプロセスを振り返っている。
『スマートレス』で司会を務めたウィル・アーネットは、ブラッドリーが人生最悪の時期を乗り越えた際の彼をしっかりと支えた一人だ。
2004年、犬の散歩を一日中しなかったブラッドリーを見て、ウィルは友人が問題を抱えていることに気付いた。ブラッドリーは、「あのとき初めて自分が薬物とアルコール依存症であることを知ったんだ。ウィルから注意されて人生が変わった。あの日のことは絶対に忘れないよ」
当時ブラッドリーとアパートをシェアしていたウィルは、親友が抱える問題にいち早く気づくことができたのだ。
「2004年7月、ウィルはこの難しい問題にふれ、ケンカも覚悟の上で僕と向き合ってくれた。それが人生を変えるきっかけになったんだ。すべてウィル・アーネットのおかげだよ」
依存症との闘いで、重要な役割を果たすもう一人の人物がブラッド・ピットだ。依存症克服にあたり二人は同志であり、ともにアルコール問題に取り組んできた。
番組の司会者たちは、依存症を乗り越えようと闘ったブラッドリーを称え、中でもウィル・アーネットは「今、こうやって会えるというのはすごいことなんだ。これ以上の幸せはない」と語り、ジェイソン・ベイトマンは「温かく、思慮深く、寛大な今の君になることで己を取り戻したんだね」としている。
依存症というトンネルの先の光が見えてから2年後、ブラッドリー・クーパーは新たな試練に直面する。最愛の父親を肺がんで亡くしてしったのだ。しかし、今度はアルコールの誘惑に負けなかった。いや、父の死をきっかけに依存症の克服にいっそうの努力を傾けるようになったのだ。
「敬愛する父親を失ったとき、長年生きてきた破滅的な状況から抜け出さなければならないことに気づいたんだ」米国の『ヴァニティ・フェア』誌のインタビューで語っている。
幸運なことにブラッドリー・クーパーはじきに立ち直ることができ、成功への道を突き進むことができた。『ヴァニティ・フェア』誌に対し、「もう10年以上禁酒している。自然にアルコールが飲みたくなくなったんだ」と語っている。
インタビューでは、今の人生観も明らかにしている。「年をとればとるほど、人生はグレーにみえる。20代前半は何事も白か黒だった。今となっては、誰かをジャッジするなんて考えられないよ」
人生最悪の時期は、恋愛も上手くいかなかった。女優のジェニファー・エクスポジートと結婚するも、わずか5カ月で離婚。しかし、その後はモデルのイリーナ・シェイクと安定した関係を築き、2017年には娘のレア・ド・セーヌを授かった。二人は2019年に破局したものの、良好な関係を続けている。
安定した人間関係そして何よりも娘の存在が、過去と決別しアルコールを断つためのきっかけとなった。「すべてが変わった。父親になるという素晴らしい経験をしたことで、人生に輝きを感じられるようになったんだ。本当に最高だよ」
仕事の面でも不安や怯えは完全に過去のものとなった。俳優として4回、プロデューサーとして3回、脚本家として1回、計8回のアカデミー賞にノミネートされたほか、英国アカデミー賞、批評家協会賞、グラミー賞を2回受賞するなど、ハリウッドで最も知名度の高い俳優の一人となった。
そのフィルモグラフィーに成功のすべてが表れている:『世界にひとつのプレイブック』(2012)、『アメリカン・ハッスル』(2013)、『アメリカン・スナイパー』(2014)、そして『アリー/スター誕生』(2018)が良い例だ。
現在、ブラッドリーは新しいプロジェクトに打ち込んでいる。アメリカの指揮者レナード・バーンスタインの生涯を描く伝記映画『Maestro』で、監督兼主演を務めるのだ。2023年公開予定の本作は、苦い過去からの完全な決別を告げる新たなヒット作となるだろう。