オスカーの事件後、ウィル・スミスを襲った予期せぬ余波
ウィル・スミスはクリス・ロックへの平手打ち騒動以降、アカデミー賞受賞式を含むイベントへの出入り禁止、映画芸術科学アカデミーの会員辞任、プロジェクトの頓挫にイメージダウンなど、日々ネガティブな出来事に見舞われている。
スミスにとって予想外の吉報もあった。ニューヨーク・タイムズ』紙のベストセラー・ノンフィクション部門において、2021年に発売された自伝『ウィル』がランキングトップを飾ったことだ。
マーク・マンソンが共同執筆者となった『ウィル』がトップに輝くまでには21週間という時間、そして平手打ち騒動という話題性が必要だった。なお、興味深いことに2位にはデイヴ・グロールの自伝『ザ・ストーリーテラー:テイルズ・オブ・ライフ・アンド・ミュージック』がランクインしている。
さまざまな悲劇や物議を醸す話題が書籍の売上を左右することはよくあるが、ここではアメリカの国民的俳優がいかに失墜してしまったかに注目が集まっている。すべては間の悪いジョークがきっかけだった。
2022年のアカデミー賞授賞式でロックに平手打ちをした瞬間、会場は約3秒間、凍りついた。次の瞬間、誰もが「とんでもないことになる」と感じた。そして、スミスはアカデミー賞関連イベントへの出入りを10年間禁じられたのだ。
だがずスミスは『ドリーム・プラン(原題:King Richard)』でアカデミー賞主演男優賞を受賞。受賞により平手打ち騒動は見送りになるかと思われたが、それはまったくの見当違いだった。
スミスの行動は変化をしていった。アカデミー賞の受賞スピーチでは、ロックには触れずに謝罪を行っている。翌日には所属事務所のアドバイスに基づき方向修正を行ったが、時すでに遅しであった。
わずか数日の間にスミスは2つの行動について高い代償を払うことになった:テレビ番組の生中継でプレゼンターに手を上げたこと、そして一般視聴者向けの番組では禁じられている俗語を使ったことだ。
アカデミー賞のプロデューサーの1人ウィル・パッカー(写真)は、ロサンゼルス市警がスミスを暴行罪で逮捕しようとドルビー・シアターに駆けつけたと朝の情報番組「グッド・モーニング・アメリカ」で証言した。
最終的にロックは告訴をしなかったため、一連の騒動が事件化することはなくスミスも逮捕を免れることができた。
数時間後、映画芸術科学アカデミーはスミスに対し懲戒手続きに入ることを決定。スミスは制裁が下される前に、自らアカデミー会員退会を表明した。
映画芸術科学アカデミー会員の退会に加え、今後10年間アカデミー賞授与式、その他関連イベントへの参加が禁じられた。スミスはこの制裁を受け入れ、遵守することを声明で伝えている。
『ハリウッド・リポーター』誌によると、スミスが携わるプロジェクトの2作品が制作中止になっているという: 『バッドボーイズ4』、『ファスト・アンド・ルーズ』
パンデミック前に公開された『バッドボーイズ フォー・ライフ』は、興行収入が4億2千万ドルを超えるという大ヒットを収めた。配給会社ソニーはためらうことなく続編の制作を決定した。
『ハリウッド・リポーター』誌によれば、スミスは『バッドボーイズ4』の40ページ分の脚本をすでに手にしておりマーティン・ローレンスと再び共演予定だった。
しかしソニーは今回の騒動を受けて、状況が落ち着くまでプロジェクトを保留するとした。スミス演じるマイク・ローリーが活躍する『バッドボーイズ』シリーズの再会にはまだ時間がかかりそうだ。
スミスのもう1つの主演作『ファスト・アンド・ルーズ』はより事態が深刻なようだ。このNetflix作品は、2022年のアカデミー賞授賞式以前から制作上の問題を抱えていた。
デヴィッド・リーチ(写真)は『ファースト・アンド・ルーズ』の監督に就任していたが、ライアン・ゴスリング主演『フォール・ガイ』の制作に専念するためアカデミー賞授賞式前に降板。制作元のNetflixでは後任の監督を探している最中だった。
『ハリウッド・リポーター』誌によると、今のところ後任の監督探しは中断されているようだ。現段階で制作が再開されるかどうかは分かっていない。
スミスは他にも2つのプロジェクトに携わっている。1つ目はアップルが制作し、現在ポストプロダクション作業が行われているアントワーン・フークア監督の『エマンシペーション』だ。
2つ目は『ザ・カウンシル』で、ピーター・ランデスマン(写真)が監督を務めることが明らかにされている。
平手打ち騒動からわずかの間に、これほど大きな影響があるとは誰も想像できなかっただろう。少なくとも短期的には、ハリウッドでの活躍に大きな影が差したといえるだろう。
一方、平手打ちをくらったロックはといえば、ジェイダ・ピンケット・スミスに対する不適切なジョークはさておき、平手打ち後の反応は驚くほど冷静でスミスに対し告発も行わなかった。
事件後、人々はロックをまるで殉教者のように持ち上げ、ひとたび公の場に現れれば彼を大きな歓声で迎えている。
さらにロックのコメディーショー『エゴデス・ツアー』は完売。大好評につきツアーの延長が決定したと『ミラー』紙は伝えている。
加えてロックは、報酬100万ドルでオプラ・ウィンフリーやエレン・デジェネレスのトークショーへの出演交渉をしていると、『ミラー』紙は報道している。
90年代から2000年代に最盛期を迎えたロックだが、この平手打ち騒動がきっかけで人気が再燃し、莫大な利益を手にすることになった。最終的に、ロックは元を取ったといっても間違いではないだろう。