『鉄腕アトム』そっくりな巨大ブーツがニューヨークで大人気
今年2月のニューヨーク・コレクションのストリート・スタイルで最も話題をさらったのは、漫画でお目にかかるような巨大なゴム製ブーツだった。ブルックリンを拠点とするアート集団MSCHF(ミスチーフ)が作ったブーツで、各界セレブもこのブーツを履いているという。
天才的な女優・歌手であるジャネール・モネイが今のところブーツ・ファンの筆頭だ。これを履いてガーデニングを楽しむ様子や、バスケットボールをしている姿、居心地のよさそうな暖炉の前でかかとを弾ませている写真や動画をツイッターに投稿している。
イメージ:@JanelleMonae / Twitter
このブーツの使用はおしゃれの枠内にとどまらない。現場で使っているプロもいる。プロレス団体WWEの最近の試合では、プロレスラーのセス・ロリンズがこのブーツを履いて名刺代わりの必殺技「カーブ・ストンプ」をお見舞いし、試合に勝利したのだった。
イメージ:wwe and wwerollins / Instagram
オーストラリアの歌手イギー・アゼリアもこのブーツを愛用し、ぶっ飛んだプライベート・ジェットの旅に連れ出している。Instagramのコメントには「クセが強いトレンドだね」や「最高!」や「どうやってブーツ脱いだの?」などが並んだ。
イメージ:thenewclassic /Instagram
スケートボーダーであり靴系インフルエンサーであるジョージ・エスティーヴは、靴の機能性がひと目でわかるよう、ブーツを履いてスケートボードに乗っている動画をTikTokとInstagramに投稿している。
イメージ:george.esteve / TikTok
アメリカのラッパー、コイ・ルレイも、ブルックリン・ネッツ(バスケットボール)のハーフタイムショーに呼ばれたとき、パフォーマンスでこれ見よがしにブーツを身につけた。
イメージ:Barclayscenter and brooklynnets / Instagram
これぞ新しいトレンドと露骨な売り込みがなされた結果、2月16日午前11時にこのブーツがおよそ350ドルで発売されるやいなや、文字通りあっという間に完売してしまった。現在は中古市場で数千ドルの値がついている。
イメージ:mschfsneakers / Instagram
MSCHFは製品説明で、マンガのようなブーツは3Dの世界をクールに楽しむためのものだと書いている:「マンガっぽさは一種のアブストラクション(抽象)です。不自由な現実から私たちを自由にしてくれます…… バーチャル世界と実用的デザインのシームレスな融合によって、私たちは普通ではない刺激を追い求めるようになります…… ビッグ・レッド・ブーツは仮想現実空間でコミュニケートするためのブーツなのです。
このブーツの元ネタの一つはもちろん鉄腕アトムにほかならない。あの心優しい少年ロボットだ。
配管工のキャラクターからもインスピレーションを受けたとMSCHFは語る。マリオシリーズの制作者たちは、限られたドット数で動かせるほど簡単で、かつブーツであることが分かるような素朴なフォルムを発明した。「ビッグ・レッド・ブーツの形状は足には似ていません。それはどこまでもブーツの形状なのです」と製品説明はつづく。
MSCHFは「アルマジロ・シューズ」についても触れている。人気デザイナー、アレキサンダー・マックイーンが2010年春夏コレクションで発表したシューズだ。「ヒールの高いアルマジロは(モデルが)ランウウェイでよろけてしまいましたが、もしこのブーツを履いていたら、角の店までひと走りできたでしょう」とある。ゲーム的なセンスも美的センスの一環として広く受け入れられつつあると製品説明はつづいている。
ビッグ・レッド・ブーツはマンガの外ではきわめてオリジナルだが、ファッションブランドのロエベもすでに、ミニーマウスの履いているようなパンプスを昨年9月のパリ・コレクションで発表している。
ゲームの世界と実体のある世界を結び合わせようとしているのは、なにも靴だけではない。2023年春夏パリコレクション(ウィメンズ)で披露されたロエベのファッションをご覧あれ。
話を戻すと、馬鹿げたブーツのやかましい宣伝のせいで人の心はかき乱された。MSCHFがInstagramに投稿したブーツの写真にはコメントがつき、このブーツは「人々がたやすく感化されて思慮のない判断をしてしまう様子を調べる社会的実験だ」という人や、まるでブーツ自体が買わないでほしいと訴えかけているようだと言う人もいた。
イメージ:thenewclassic / Instagram
ソーシャルメディアのユーザーたちは、このブーツの芸術的・倫理的価値について議論を戦わせてもいる。あるユーザーが「ハイ・アートだ」と言うと別のユーザーが「これこそ石油ピークならぬ資本主義ピークじゃない?」と答え、また別のユーザーが「おお、無知こそ至福なり。みなさんお大事に」と茶化す。
イメージ:Lil Wayne wearing the boots. lilwaynefangang and lilwayneganggang / Instagram
ブーツを買うためのアプリがどうやらアクセス殺到のせいでパンクしてしまったことも、ファンの怒りの種だった。足の形でしかない足を、ブーツの形でしかないブーツになるべく早くつっこみたくてみんな必死だったのだ。「アプリがすぐ落ちるのよお! やっと繋がったと思ったら、もう全部売れちゃって! 一晩中夢に見てたのに、どうしてくれんのよお」と、あるユーザーはコメントした。
イメージ:Salemstatealum / Instagram
クロックスを心底嫌う人もいるが、いまやほとんどの家に一足や二足はあるのがクロックスだ。同じ素材の似たもの同士として言うなら、クロックスはきわめて実用的で、履き心地がよいことで知られている。
YouTuberのスティーヴ・ナットは、ウェブサイト「マッシャブル」で、例のブーツを一週間試した体験を語っている。クロックスやアディダス「イージーフォームランナー」の履き心地と似ているらしい。慣れてしまえばずっと履いていられるし、着脱も慣れれば簡単だという。
イメージ:@SteveNatto / YouTube
「びっくりすることに履き心地はまずまず。見ての通り、でかくてちょっと分厚いから、他の靴と比べると履いたときの足や腰の浮き具合が違ってくる。でも実際に歩いてみると、インソールとか質感については詳しく知らないけれど、まあ悪くない感じではある」とスティーヴ・ナットは続けた。
イメージ:@SteveNatto / YouTube
スニーカー業界のコンテンツ・クリエーターであるスティーヴ・ナットのもとに呼ばれてもいないブーツがやってきた顛末はどんなものだったのか。「ある日、玄関の前にブーツが現れたんだ。見るもイカれた代物だったね。とことん赤くてデカいんだ。まあ、僕としてもひとつ試してみたくてうずうずしたよ」
イメージ:WWE and wwerollins / Instagram
MSCHFはおよそ真面目なファッションブランドとはいいがたい。過去にはWD-40(防錆スプレー)の匂いの香水や、マーク・ザッカーバーグをかたどったアイスキャンディー、シリアルの箱に巨大なシリアルが一つだけ入っているような製品を作ってきた。「アート」ということで、うわべは目新しいが似たような商品が中古市場で高値をつけているのである。
イメージ:mschf / Instagram