とにかく明るい安村:世界を股にかけるコメディアン
「とにかく明るい安村」の本名は、安村昇剛(やすむらしょうごう)という。1982年、彼は北海道旭川市に三人兄弟の末っ子として生まれた。
安村は高校卒業後の2000年に上京し、現在は吉本興業に所属するお笑い芸人として活動している。2019年にYouTubeの公式チャンネルに投稿したネタ「東京って凄い」のなかで、安村は芸人になる前のことを振り返っている。
写真:Twitter @yasudebu
その動画は、とにかく明るい安村がパンツ一丁で踊りながら、アカペラで自作の歌詞を歌うという内容だ。こういう一節がある。「小4のとき親が離婚して/おばあちゃんに育てられた俺が/東京に来て20年経ったら/恥ずかしくもなくこんなことができる」
写真:Twitter @yasudebu
北海道の田舎を離れ東京に出てきた安村は、芸人養成所のNSC東京校に入学し、古くからの友人とお笑いコンビ「アームストロング」を結成した。そもそも安村が上京したのは、この相方に誘われたからだった。しかし、2014年4月にコンビは解散する。
コンビ解散後、安村は決断を迫られた。お笑いをやめて地元に戻るか、あるいは……。結局、安村はピン芸人「とにかく明るい安村」として出発し直すことを決める。
写真:Twitter @yasudebu
その翌年の2015年、とにかく明るい安村は「安心してください、はいてますよ」のネタで大いにブレイクし、多くのテレビ出演を果たした。だがその翌年2016年、不倫相手とホテルから出てきたところを雑誌記者に押さえられてしまう。
安村は世間の厳しい批判にじっと耐え、コメディアンとしての活動を続ける。一方、所属先の吉本興業は、所属タレントの海外売り込みにも力を入れていた。安村のネタも、そのユニバーサルな性格がフォーカスされることになる。
写真:Twitter @yasudebu
2023年、同社の営業が実を結び、安村はイギリスのオーディション番組『ブリテンズ・ゴット・タレント』に出場する。安村は定番ネタの「安心してください、はいてますよ」で、オーディション会場につめかけた観客を沸かせ、審査員を熱狂させ、番組の公式YouTubeを通じて各国で大きな評判になった。
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安村が出場した回は4月22日に放映された。日本でも大きな話題となり、いわば人気が逆輸入される形となっている。それもそのはず、どうやら世界の動向では、日本といえば安村さん、というほどの知名度を得つつあるのだ。
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ロンドンから帰った安村は、日本のラジオ番組に出演した。5月24日水曜日、朝の生放送番組『パンサー向井の#ふらっと』に出演した安村は、「安心してください」のネタを思いついたきっかけについて話している。
写真:安村が財布をすられたというバッキンガム宮殿前の広場
ところで安村は2012年にある女性と結婚している。安村はこの女性の影響のもとでアイドルファンとなった。
ピン芸人となって間もない安村は、2011年に出版されたアイドル写真集の表紙から、「安心してください」のインスピレーションを得たという。表紙のアイドルは当時17歳。当然水着姿のはずだが、いわゆる体育座りで正面を向いているため、何も着けていないように見える。
それは安村の体つきからいってもぴったりのネタだった。彼は高校生のころ野球部に所属し、伝令の役ではあるが、甲子園のマウンドにも駆け寄ったことがある。上京後にはスポーツをやめ、スポーツで鍛えられた筋肉を土台に、脂肪がおいそれとは落ちないくらいについていた。
「安心してください、はいてますよ」のネタは、その体つきが大きな役割を果たす。安村は目立たない色のパンツ一丁という姿で、靴も靴下もはかずに登場する。
写真:Twitter @yasudebu
安村は前置きもそこそこにネタにはいる。『ブリテンズ・ゴット・タレント』で披露したものを例にとると、サッカー選手の真似をする。ドリブル、フェイントをかけて相手を抜き去り、シュート。そして足を振り抜いたタイミングで、動作をぴたりと(そこまでぴたりとはいかないが)止めてみせる。その数秒間、安村は裸に見える。
視覚に訴えるこのネタは、まさしく一見に如かずである。ところで、日本でもこの定番ネタだけが注目されているきらいがあるが、他にも安村はこまごまとした、しかし滋味深いネタを作っては自身のSNSに投稿している。そのような芸の厚みが定番ネタを影から支えている。
写真:Twitter @yasudebu
『ブリテンズ・ゴット・タレント』の優勝者には、賞金25万ポンド(約4000万円)と「ロイヤル・バラエティ・パフォーマンス」への出演権が授与される。「ロイヤル・バラエティ・パフォーマンス」は、英王室のチャリティー募金を目的として毎年開かれるバラエティ番組であり、したがってショーには英国王室メンバーも数名臨席するのが慣わしとなっている。過去の出演者には、ビートルズ、レディー・ガガ、トニー・ベネット、バニー・マニロウらがいる。
審査の結果、安村は優勝こそ逃したものの、準決勝、そして決勝の舞台に進んだ(ワイルドカード枠として進出)。『ブリテンズ・ゴット・タレント』の決勝進出は日本人として初の快挙だという。そう、世界を股にかける活躍だ。
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