『ベスト・キッド』のラルフ・マッチオ、35年ぶりに『コブラ会』でブレイク
「過去は必ず戻ってくる」と言うが、ラルフ・マッチオの場合はそうならなかったようだ。
『ベスト・キッド』(1984)で主人公ダニエル・ラルーソーを演じ、一世を風靡したラルフ・マッチオ。本作の続編として制作されたドラマシリーズ、『コブラ会』(2018~)への出演で見事な復活を遂げた。
『コブラ会』に出演するまでの35年間、『ベスト・キッド』で一躍スターとなったラルフは予想されたほどの活躍を見せなかった。
最近還暦を迎えたラルフは、80年代ほどの輝かしい活躍を見せていない。しかし彼には俳優ポール・ラッドなど、ごく一部の人々しか持ち合わせていない何かがあるのだ。それは、悪魔と契約を交わしたかのような”永遠の若さ”である。
ラルフは一見、60代とは思えない。しかし計算すればすぐわかることだが、『ベスト・キッド』出演時の彼はまだ22歳だった。(しかもまだ10代に見えた)
『ベスト・キッド』制作時、ラルフも共演者のパット・モリタも武道や空手の経験はまったくなかった。それにも関わらず熟達した演技を見せたのは、1日4時間の集中訓練に4カ月間取り組んだおかげである。
撮影が開始すると、ラルフはためらうことなくすべてのアクションシーンを自らこなした。ただし、自転車ごと坂道の下に突き落とされるシーンだけは、スタントマンが代役を務めた。
コブラ会のメンバーが骸骨のコスチュームで追いかけてきてめった打ちにしたのは、ラルフ本人だった。早朝に撮影されたこのシーンでは、敵役のウィリアム・ザブカがラルフの顎を蹴り、数日間の休養を要するケガを負うというアクシデントもあった。
ラルフは『ベスト・キッド』出演前に、80年代の人気アイドルたちが集結した映画『アウトサイダー』に出演している。
ラルフと並び、マット・ディロン、パトリック・スウェイジ、ロブ・ロウ、トム・クルーズ、エミリオ・エステべス、レイフ・ギャレットといった錚々たるメンバーがそろった。しかも監督を務めたのは巨匠フランシス・フォード・コッポラだった。
共演者たちと比べ、ラルフ・マッチオのその後の活躍がいまひとつだったのは誰にとっても予想外だった。マッチオは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の主役の座をつかみそこなっているが、主人公マーティーとはよく似た雰囲気。オーディションに受かっていればまた違った道を歩んでいたことだろう。
『ベスト・キッド』では熾烈な主役争いがあった。チャーリー・シーン、ニコラス・ケイジ、エミリオ・エステべス、ロバート・ダウニーJr.等が候補に挙がっていたのだ。
ここでエリック・ストルツについても触れておこう。彼は『ベスト・キッド』と『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の両作で主役オーディションに残った。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』では撮影も始めたものの数週間で役を降ろされてしまう。結局、彼に栄光をもたらしたであろう二大プロジェクトを逃してしまったのだ。
70年代後半、まだ10代だったラルフ・マッチオはテレビCMにひっぱりだこだった。とくに有名なのは、チューインガム「バブルガム」のコマーシャルだ。
90年代以降、ラルフは演技の仕事から距離を置くようになる。そして、有名無名を合わせてさまざまな映画やテレビ作品に単発で出演をしてきた。
90年代以降に出演した映画作品は、『いとこのビニー』(1992)、『ヒッチコック』(2012)、出演ドラマ作品は『アントラージュ★オレたちのハリウッド ラルフ』(2005)、『ママと恋に落ちるまで』(2013)など。
2018年に『ベスト・キッド』の続編である『コブラ会』がYotube Premiumで配信されると、彼を取り巻く状況は180度変わった。今作では、ラルフと並び『ベスト・キッド』で敵役ジョニー・ロレンスを務めたウィリアム・ザブカも出演を果たしている。
ちなみに2人の俳優は『ベスト・キッド』撮影時から親交があり、長年に渡り友人関係を保ってきた。
パット・モリタとも親交を続けていたラルフは、2005年に彼が逝去したときには葬儀に参加し、旧友に温かな感謝と称賛の言葉を贈った。
30年という年月の中で、ラルフは何度も『ベスト・キッド』のダニエル・ラルーソー役の再演オファーを受け取っていた。しかし、その覚悟ができていないことを理由にあらゆるオファーを断っていたが、ついに『コブラ会』で再演を承諾したのだ。
『コブラ会』はシーズン2終了後、その反響の大きさからNetflixに買収され、シーズン4まで制作された。なおシーズン5の制作も発表されている。
果たしてラルフはダニエル・ラルーソー役をこなせるのか?その心配は無用だ。ラルフは長年培ってきた経験を活かしつつ、第二の青春を楽しむように演技に取り組んでいる。
意外なことに、ラルフは映画『ベスト・キッド(原題は“Karate Kid”)』のタイトル変更を求めていたと、『スポーツ・イラストレイテッド』誌で語っている:
「映画タイトルは永遠に残るもの。だからこそ、なんとか変更できないか奮闘したんだ」
ラルフの考えは正しかった。再演オファーを受けることを決めてから、彼はハリウッドにおける高い評価と人気を再び手にしている。
ラルフは彼が演じた役柄に敬意を表し。息子を「ダニエル」と名付けた。
各世代を代表する2人の俳優マコーレ・カルキンとラルフ・マッチオが、わずか数カ月違いでそれぞれお40歳と60歳を迎えた。まぎれもなく、時間は流れ続けているのだ。