欧州で頭角を現しつつある新たな大国:経済力と軍事力を背景に存在感を高める国とは
これまで長きにわたってヨーロッパを牽引してきたのはドイツやフランス、イギリスといった国だった。ところが最近では、意外な国が欧州連合(EU)内における存在感を増しつつある。いったいどの国だろうか。
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存在感を高めている国、それはポーランドだ。ヨーロッパの政治力学の中では見落とされがちだが、この30年間で著しい成長を見せており、専門家の中には近いうちにワルシャワが欧州の中心都市になるかもしれないという意見さえある。
1989年、東欧の共産主義諸国の中では真っ先に民主化を果たしたポーランド。以来、人々の暮らしぶりは劇的な変化を遂げている。『テレグラフ』紙のダニエル・ジョンソン記者は2023年5月の記事で、当時をこう振り返った。
同記者いわく:「1989年に『テレグラフ』紙の東欧特派員としてポーランドを訪れたときは、どの街もボロボロで、あたりには共産主義時代の物々しい建物が立ち並んでいました。店はガラガラで生活は苦しく、希望も見えませんでした」しかし、現在のポーランドはまったく違っている。
ジョンソン記者によれば、「旧ソ連の勢力圏において、市民の力がこれほど盛り上がったのはポーランドだけです。(共産主義の)大義を失った国が、自由と繁栄の先鋒になったのです」とのこと。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのデータによれば、ポーランド経済はコロナ禍をあっさり克服してしまったというが、これはさして驚くべきことではない。というのも、ポーランドは民主化以来、一貫して経済成長を続けてきたのだ。
ポーランドの右派政党「法と正義」が2019年10月に政権を奪還した際、『フィナンシャル・タイムズ』紙はポーランド経済がコロナ禍まで28年間にわたって堅調な成長を続けてきたと解説。
当時、欧州復興開発銀行の首席エコノミストを務めていたベアタ・ヤヴォルチク氏も、ポーランドについて「体制移行の成功モデル」だとしている。
ヤヴォルチク氏によれば、ポーランドはわずか30年間で、あらゆるものが不足する貧しい国から「富裕国の仲間入り」を果たしており、2030年までには英国経済を追い抜く見込みだという。
スカイニュース放送が2023年2月に報じたところによれば、イギリス労働党のキア・スターマー党首は世界銀行のデータを引用しつつ、ポーランドは年間成長率平均3.6%を維持しており2023年2月に英国経済を追い越すだろうと発言。では、ポーランドは新たに獲得しつつある影響力を一体どのように活用しているのだろうか?
まず、挙げられるのはポーランドがヨーロッパにおいて指導的役割を果たす機会が増えたということだ。とりわけ、プーチン政権がウクライナ侵攻を開始すると、ポーランド当局はロシアに対する断固とした姿勢を示し、注目を集めることとなった。
ドイツの在ポーランド大使だったアルント・フライターク・フォン・ローリングホーフェン氏はニュースメディア「ポリティコ」の記事の中で、「ポーランドはロシアに対する厳しい制裁措置を科し、政治・経済・軍事の面でウクライナを支援するよう積極的な働きかけを行った」とコメント、その役割を大きく評価した。
ローリングホーフェン氏いわく、ポーランドはウクライナ支援のパイプ役として積極的な役割を果たす一方、自らも戦車300両を提供。当局者が戦時下のキーウを他国に先んじて訪問したばかりか、数百万人に上るウクライナ人難民の受け入れも行っている。
地政学的な変化に加え、ロシアが帝国主義的な野望を露わにしたことで、ポーランドの安全保障政策は再考を迫られている。実際、同国の指導者たちはポーランドが軍事的に自立しなければならない時が来たと公言するほどだ。
ニュースメディア「ポリティコ」の報道によれば、ポーランドのマテウシュ・モラヴィエツキ元首相は独立記念日を前に、「ポーランド軍は抑止力になるほど強大でなくてはならない」と発言したとされる。
同メディアいわく、ポーランドはロシアによるウクライナ侵攻を受け、2035年までに自国軍を30万人規模に拡張するという目標を掲げている。ちなみに、ドイツ軍の兵力は17万人に過ぎない。しかも、このときポーランド軍はすでに正規兵およそ15万人、領土防衛軍3万人というかなりの兵力を抱えていた。
このような情勢の中、ポーランドが持つ重要性は米国およびその同盟国にとって、ますます高まりを見せている。実際、アメリカ欧州軍のある高官は「ポリティコ」に対し、「ポーランドはヨーロッパ大陸で最も重要なパートナーとなった」と述べたほどだ。では、ポーランドの強大化によって、ヨーロッパは今後どのように姿を変えるのだろうか?
盤石な経済的基盤と現代的な軍隊によって、ヨーロッパでもっとも勢いのある新興国となったポーランド。ウクライナ情勢を巡って外交力も示しており、欧州における大国としてさらに台頭する可能性があるといえる。
2023年10月15日には政権交代が実現。AP通信の報道によれば、保守派政党「法と正義」による民族主義的な政策に終止符が打たれ、民主主義が勢いを取り戻すと見られている。
米国のリベラル系シンクタンク「アメリカ進歩センター」のロバート・ベンソン氏は、「最近、ポーランドで行われた選挙は同国の政治を軌道修正したばかりか、ヨーロッパの将来にも大きな影響を与えるものだった」と書いている。
これまでヨーロッパで幅を利かせてきた国々が勢いを失う中、ポーランドはかつてドイツやフランス、あるいはイギリスが担ってきた役割を果たすことになるのだろうか? それとも、EU内における独自路線を歩むのだろうか? いずれにせよ、成長著しいポーランドの台頭を止めることができる国はなさそうだ。