世界の先端半導体の9割以上を生産、AI景気に沸く台湾
世界はAI時代に突入し、マイクロチップなどの半導体の需要は高まる一方だ。そのため、多くの半導体メーカーが集まる台湾は、いまや世界のテック企業にとり経営を左右する存在になっている。
『フィナンシャル・タイムズ』紙によれば、台湾はいまや世界の先進半導体のうち9割以上を生産しているという。台湾では一大産業となった半導体企業の利益は増大、従業員の給料や賞与も上昇しているという。指導的地位にあるわけではない従業員でさえかなりの額を手にしており、不動産投資などに乗り出す人もいるようだ。
台湾最大級の投資信託企業「Fuh Hwa Investment Trust」のマーク・デュー氏は「富の効果が拡がっており、今までとは違った若い才能がそれを享受しています」と同紙に語っている。実際、半導体企業の役員や中堅管理職は2023年、年収の2倍以上のボーナスを受け取ったとされる。
台湾の人口は約2,400万人だが、『ビジネスインサイダー』誌によると100万ドル以上の資産を持つ人が79万人ほどいるとされる。しかも、スイスの銀行大手UBSはこの数字がさらに増えるとみており、2028年には47%増の116万人に至るとしている。
『フォーブス』誌によると台湾経済は今年の第1四半期に6.5%成長したという。主要因はAI需要の高まりによる輸出増大だ。さらに、『フォーカス台湾』によると、台湾の資産家上位50人の保有資産も12%増えているという。
奢侈品ビジネスメディア『Luxury Tribune』は台湾人はどちらかというと控えめで派手な消費を好まないとしている。だが、それでもフェラーリの売上げはここ4年で倍増、奢侈品全体でみても2023年には前年比9%増しとなっている。
しかし、7月にはトランプ元大統領が『ブルームバーグ』のインタビューで台湾の好況に水を差す発言を行い、半導体大手TSMCの株価が全体で2.4%、米市場では8%も下落する一幕があった。
『ブルームバーグ』はトランプ元大統領とのインタビューで、仮にトランプ氏が大統領となった場合、台湾有事があれば台湾を防衛するのかと質問。トランプ元大統領は、台湾がアメリカに守ってほしいなら金を払うべきだと返した。
バイデン政権は台湾問題について「戦略的曖昧さ」(英紙『ガーディアン』の表現)を保っているものの、それでも軍事侵攻があれば防衛に協力するとは表明している。だが、『ブルームバーグ』のインタビューでトランプ元大統領はこの問題についてアメリカは「保険会社とまったく同じような立場」であるとし、台湾は「我々になにも与えていない」と述べている。
だが、『ガーディアン』紙も報じているように、実際には台湾は巨額を費やしてアメリカから兵器を購入しており、その額はトランプ政権時代に増大している。台湾は自国の兵器をほとんどすべてアメリカから購入しており、アメリカの防衛産業にとって非常に大きな顧客となっている。
それでもトランプ元大統領は台湾の半導体ビジネスの成功が面白くないらしく、同じインタビュー内では台湾はアメリカの半導体産業を「ほぼ100%」盗んだという根拠のない主張も行っていた。トランプ元大統領の論理では、だからアメリカには台湾を支援する義理はないということになるらしい。
台湾半導体最大手のTSMCはアップルやエヌヴィディアにも半導体を提供しているほか、海外でのプラント製造にも巨額の投資を行っており、アメリカのアリゾナ州にも650億ドル(約10兆円)を費やして3つのプラントを建造している。ただし、TSMCは製造工程のほとんどはこれからも台湾に留まるとも述べている。
トランプ元大統領のコメントが物議を醸した数日後、TSMCが第2四半期の決算を発表した。売上高は前年同月比40%増の6735億台湾ドル(約3兆1,500億円)、利益は36%増の2478億台湾ドル(約1兆1,000億円)となった。NHKが報じている。
TSMCの魏哲家CEOは記者会見でアナリストや記者らに次のように語った:「AI産業はいまとてもホットです。いまはわれわれの顧客は誰もが自社デバイスにAI機能を搭載しようとしています」ロイター通信が報じている。
このようにAI景気に沸く台湾だが、テック業界内でこそ富が湧き出ている状態かもしれないものの、業界外にその恩恵が広まるにはもう少し時間が必要そうだ。非技術部門でもそれなりの昇給はみられたものの、テック業界での爆発的な給与上昇によって高騰した住居費などを賄うほどにはなっていない。
台湾全体の生活水準について、ある政府高官は『フィナンシャル・タイムズ』紙にこう語った:「少なくとも何らかの変化はみられます。AIブームがさらに高まることが最大の望みですね」