1912年のタイタニック沈没事件:じつは替え玉船だった......?
歴史に残るタイタニック号はイギリス船籍のオーシャンライナーで、世界最大の客船として1912年に完成した。同年4月14日23時40分、サウサンプトンからニューヨークに向けて処女航海を開始したものの、北大西洋で氷山に衝突し、翌4月15日2時20分に沈没してしまった。
この事故により、タイタニック号の乗員乗客2,224人(推定)のうち、1,490人から1,635人が命を落とした。そして事故から一世紀が経った今も、船は海の底に沈んだままである。さて、ここに一つの疑問が差し挟まれる。沈んだ船は、本当にタイタニック号だったのだろうか?
沈んだ船がタイタニック号でないとすれば、いったい何が沈んだのか? アメリカの電子掲示板「Reddit」などでささやかれている説によると、氷山にぶつかって沈没したのは、別の大型客船「オリンピック号」なのだという。いったいどうしてそんな説が生まれるのだろう?
電子版『ポピュラーメカニクス』誌やロイター通信の指摘によれば、このタイタニック号すり替え説における黒幕は、モルガン財閥の創始者、ジョン・モルガンだという。彼はタイタニック号とオリンピック号の建造時に出資を行った金融王であり、すり替えの意図は保険金をせしめることにあった。つまりタイタニック号の沈没は、大胆きわまりない保険金詐欺であったというのだ。
この陰謀論の筋書きをたどるには、20世紀初頭にさかのぼらなくてはならない。当時、二つのイギリスの海運会社、ホワイト・スター・ライン社とキュナード・ライン社が激しく競い合っていた。世界最大の客船を保有すべく、しのぎを削っていたのである。まずリードを奪ったのは、ルシタニア号(写真)とモーリタニア号の姉妹船を就航させたキュナード・ライン社だった。
遅れを取り戻そうと、ホワイト・スター・ライン社は国際海運商事(IMM)の子会社となった。IMMはジョン・モルガンが出資する持株会社で、ホワイト・スター・ライン社はその資金力にあずかり、当時としては最大の規模と豪華さを誇る三隻の船を建造できるようになったのだ。三隻の船とは、オリンピック号、タイタニック号、ブリタニック号という姉妹船である。
このうち、まず最初に完成したのはオリンピック号だった。しかし、5度目の航海でイギリス海軍の巡洋艦と衝突事故を起こしてしまう。1911年9月20日のことだった。
オリンピック号はなんとか自力でサウサンプトン港に引き返すことができたが、損傷は大きかった。事故の原因はオリンピック号側の過失にあったので、修理費は保険の適用外となり、イギリス海軍への賠償義務も負ってしまう。陰謀論が始まるのはここからである。
陰謀論によると、オリンピック号の次に完成した船がふたたびオリンピック号と名付けられたという。一方で本物のオリンピック号は、衝突事故後に十分な修理を施されないままに、表向きはタイタニック号として処女航海に乗り出し、沈没して保険金を稼ぐという手はずになった。
歴史家のマーク・チャーンサイドが指摘しているように、タイタニック号は建造費が750万ドルであったが、かけられた保険は500万ドルだった。この保険金は、当時IMMの副社長であったフィリップ・A・S・フランクリンによってのちに確認が取られている。不十分な保険金、これが陰謀論の傍証になっているのだ。
さらに大胆な陰謀論によると、ジョン・モルガンが船の沈没を画策したのは、その船に乗船する政敵たちをまとめて排除するためだったという。モルガンが敵視していたのは、自身が推進する連邦準備制度(FRS)に反対の立場をとっている面々だった。
こうした陰謀論の支持者たちは、信憑性の薄い“証拠”を並べ立てている。たとえば、処女航海の前にタイタニック号の公開検査が行われなかったのは、船がオリンピック号であることが専門家たちによって見破れられるのを恐れたため、というように。
また、電子掲示板「Reddit」では、建造中のタイタニック号とされる写真と処女航海に出るタイタニック号とされる写真が出回っており、それぞれの相違点が指摘されている。
研究者のスティーヴ・ホールとブルース・べヴァリッジは2012年に『タイタニック号かオリンピック号か:どっちの船が沈んだか?』を出版し、舷窓の数がすり替え説の重要な論拠であると論じている。
しかしこの陰謀論を、前出の歴史家マーク・チャーンサイドはいくつかの著書で反駁している。たとえば、「使用年数1年の船を完成したばかりの船と偽るのはまず不可能である」といったように。
沈んだのはタイタニック号だったのか? オリンピック号だったのか? 競馬史においては馬のすり替えが何度か発覚しているが、すり替えるのが巨大客船となるとスケールが桁違いに大きい。巨大な真実は今も、海の底に沈んでいる……のだろうか?
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