黒幕はルワンダ?:コンゴ民主共和国東部で反政府勢力が主要都市を占領
1月26日にコンゴ民主共和国東部の主要都市、ゴマをめぐって始まった軍事衝突。BBC放送によれば、反政府勢力は2月4日から停戦に入ると宣言したそうだが、一帯では緊張が続いている。
また、CNN放送によれば、この衝突の犠牲者は2月1日の時点で少なくとも700人、負傷者は2,800人に上っているとのこと。
実は、同地における紛争の兆しは1月初めにすでに表れていた。「France Info」放送によれば、戦闘が始まる前から、民間人40万人がゴマ市からの避難を図っていたという。
仏紙『ル・モンド』いわく:「この地域では数十年にわたって紛争が続いており、深刻な人道危機に至るリスクがある」
同紙はさらに、この地域の住民の生活は「人道支援を行うNGOや国連組織にかかっている」と指摘した。
紛争の当事者はコンゴ民主共和国(DRC)と、ルワンダの支援を受けているとされるDRCの反政府勢力「3月23日運動(M23)」だ。M23およびルワンダ軍部隊は1月27日にゴマ市を掌握したと報じられている。
コンゴ民主共和国のフェリックス・チセケディ大統領は1月末にルワンダとの国交断絶を発表。そして、ルワンダがコンゴ民主共和国に部隊を派遣し、「宣戦布告」したことを非難した。
国連ははじめ、両国に対する態度を決めかねていたが、ルワンダがコンゴ民主共和国に干渉するためM23を支援しているというコンゴ民主共和国側の主張を認めた。
もちろん、ポール・カガメ大統領率いるルワンダはこの主張を否定。ルワンダはコンゴ民主共和国との紛争において、「専守防衛に徹している」と述べたという。「France Info」放送が伝えた。
コンゴ民主共和国とルワンダが突如、戦闘におよんだことは驚くべき事態のように思えるが、実はその火種は根深い。両国は20世紀末から、確執を抱えてきたのだ。
ルワンダでは1994年にフツ族によるツチ族の大量虐殺が発生。その後、200万人あまりのフツ族がコンゴ民主共和国(当時はザイール)に流入したが、その中には虐殺に加担した者もいたとされる。
1997年、ザイールのモブツ政権は、ルワンダとウガンダの支援を受けたローラン=デジレ・カビラによる反乱によって打倒された。この事件は第1次コンゴ戦争と呼ばれている。この紛争の結果、コンゴ東部では武装集団や難民キャンプが増加し、ルワンダに懸念を抱かせることとなった。
翌年、ルワンダの影響下から抜け出そうとするカビラ政権と、近隣諸国の支援を受けるキヴ州の反政府勢力との間で第2次コンゴ戦争が勃発。
2002年に和平合意が成立したが、2年後にふたたび戦闘が発生。コンゴ民主共和国政府はルワンダが反政府勢力を支援していると非難したが、ルワンダ側はこれを否定。両者の立場は平行線をたどっている。
2009年、ルワンダのポール・カガメ大統領とコンゴ民主共和国のジョゼフ・カビラ大統領の間で歴史的な会談が行われ、両国は外交関係の修復を試みる。ただし、平和は長続きしなかった。
というのも、2012年3月23日に結成された反政府勢力「3月23日運動(M23)」が、ゴマ市をはじめとするキヴ州北部の街を占領したためだ。翌年には国連の支援を受けたコンゴ民主共和国軍がM23を排除。国連はルワンダこそがM23の背後に潜む黒幕だとして非難した。
2021年、M23の一部勢力が部隊を再編し、コンゴ民主共和国軍の拠点複数を攻撃。しかし、このとき戦闘に参加したのはM23のメンバーだけではなかったようだ。2024年7月に国連がまとめた報告書によれば、ルワンダ兵4,000人がM23陣営に加わったばかりか、実質的には指揮していたいうのだ。これはルワンダによる戦争犯罪の可能性があるとのこと。
また、「France Info」放送によれば、NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は、M23およびルワンダ軍の兵士らが「コンゴ民主共和国東部で殺人や暴行をはじめとする戦争犯罪に手を染めた」とする報告を2023年に行っている。
コンゴ民主共和国とルワンダは和平協議のため、昨年12月15日に首脳会談を行う予定となっていた。しかし、協議の条件をめぐって合意に至ることができなかったため、首脳会談は中止に追い込まれてしまった、
その後、ルワンダ政府は1月26日に声明を発表、「コンゴ民主共和国政府はルワンダのせいにしたがっているが、2021年のM23の活動再開はルワンダ国内で起きたわけではないことを思い出していただきたい」とした。
コンゴ民主共和国東部における紛争の原因は長年にわたる部族間の確執だけではない。キヴ州北部には鉱物資源が豊富に眠っているのだ。
『ル・モンド』紙はこの紛争について「当事者の一方が明確になっていない」特殊なものだと指摘。そのせいで、国際社会の介入による紛争の解決や、責任の所在の追及が難しいとした。
同紙いわく:「コンゴ民主共和国政府と反政府勢力の紛争だと見なされがちだが、実際にはルワンダとコンゴ民主共和国が直接、対立しており、東部主要都市ゴマの占領はルワンダがこの地域を支配下に置いたようなものだ」
ルワンダはすでに、コンゴ民主共和国東部における鉱物資源採掘を牛耳っている。それどころか、「コンゴ民主共和国が腐敗と貧困に悩まされているのをいいことに、領土拡大の野心を見せている」という見方もある。
一方、国連安全保障理事会も1月26日に緊急会合を開き、ルワンダを名指しすることは避けつつも「外部勢力」の撤退を要求したとのこと。『ル・モンド』紙が伝えた。
また、フランスとルワンダも妥協点を探る動きを見せていたが、1月27日にフランスが「ルワンダ軍の支援を受けるM23が戦闘を主導した」と述べ、立場を鮮明にした。
このまま迅速な解決がなされない場合、紛争が地域一帯に飛び火する可能性もある。地域住民を巻き込んだ大惨事にならないことを祈るばかりだ。