「外交免除」を乱用する各国在住ロシア外交官たち:駐車違反を重ねて相手国に借金......

優雅な外交官
「外交免除」
法に縛られない外交官
「非友好的な国」に駐在するロシア外交官
ニューヨーク市の場合
米国務省の介入
外交官一般の問題
ウクライナ侵攻以降さらにひどく
オーストラリアの場合
全体のおよそ半分
オーストラリアとロシアの軋轢
大使館建設予定地をめぐる問題
不憫なオポッサム
日本の場合
日本外務省の対策
外交官は普通の人?
優雅な外交官

外交術はおそらく科学よりは芸術に近いのかもしれない。それは踊りのパートナーを国から国へと替えていく複雑なステップのようなものだ。優雅さと直感、そして少しばかりの幸運があれば、彼(彼女)は成功をおさめるだろう。もっとも舞踏会を後にすれば、外交官も俗っぽさで一般市民に少しもひけをとらないのだが。

「外交免除」

外交免除という言葉を耳にしたことがあるだろうか。外交官は、派遣先の国(接受国)の国内裁判所において、それが刑事訴訟であろうと民事訴訟であろうと訴えられることはない。

法に縛られない外交官

といっても、たとえば殺人のような重大な犯罪を外交官が犯した場合、その特権が派遣元の国によって停止されることはある。だが、外交官が何か問題を起こした場合でも、派遣元の国はそれを取るに足らない軽微な犯罪と片づけて目をつぶることが多いのだ。

「非友好的な国」に駐在するロシア外交官

その傾向がさらに顕著になるのは、派遣元の国が「特別軍事作戦」なる油断のならない侵略行為を隣国に仕掛け、そのことにより冷ややかな視線を国際的に向けられている場合だろう。「非友好的な国と地域」に駐在する外交官は、自国のイメージを多少落としたくらいではもはや、祖国から咎め立てされることはないのだ。

ニューヨーク市の場合

米「NBCニュース」によると、ニューヨーク市に駐在するロシア外交官たちは駐車違反の未払いを長らく続けており、罰金の総額は2003年から計算して10万ドル以上にのぼるという。

米国務省の介入

事態が深刻になったため、米国務省が介入にふみきった。罰金が支払われないかぎり、ロシア連邦の公用車には今後、外交官ナンバープレートの交付を見合わせるべく検討をすすめていると発言したのである。

外交官一般の問題

ただ、反則金の踏み倒しは万国共通という面もあって、国連加盟国の外交官たちが違反切符を処理していないケースはじつに多く、ニューヨーク市に対する未払い額あわせて1,600万ドル以上にのぼる。その大半は2002年より前の違反に課せられた反則金だ。2002年、ニューヨーク市の法律が変わり、外交官車両に対する取り締まりが厳しくなったのだ。

ウクライナ侵攻以降さらにひどく

そんななかでもロシア外交官による未払いは突出しており、ウクライナ侵攻が始まると事態はいっそうひどくなった。この問題に悩まされているのはニューヨーク市だけではない。

オーストラリアの場合

オーストラリア連邦外務貿易省は、2007年から積もりに積もった5万米ドル相当の駐車違反金を、ロシア外交使節から徴収するべく苦闘している。『ガーディアン』紙が報じている。

全体のおよそ半分

オーストラリアのテレビ局「チャンネル・ナイン」によると、ロシア外交官による駐車違反金未払いはとりわけ多く、全体のおよそ半分を占めているという。

写真:blurblock07 / Unsplash

オーストラリアとロシアの軋轢

オーストラリア当局とロシア外交官の軋轢はこれにとどまらない。2023年、首都キャンベラのオーストラリア連邦議事堂にほど近い土地を、ロシア政府関係者が数週間にわたり不法に占拠するということがあった。

大使館建設予定地をめぐる問題

なぜそのようなことが起きたのだろうか? ロシア政府はオーストラリアの国会議事堂に隣接した土地に大使館を移転しようとしたのだが、オーストラリア当局は安全上の脅威を理由に、その動きを阻止する法案を可決させたのである。ロシアは裁判に訴えるが最高裁でも退けられた。写真の男はロシア政府関係者で、大使館建設予定地の賃借契約が取り消されたあともスタンディングを続けていたが、高等裁判所の判決が出ると外交官車両に乗ってどこかへ去ったという。

不憫なオポッサム

この件を発端として、オーストラリア市民の間でもデモの動きが広がった。ロシアのアレクセイ・パブロフスキー駐オーストラリア大使によれば、デモの参加者によってロシア大使館公邸(既存の公邸)の敷地にオポッサム(写真にある小動物)の死骸が投げ込まれたという。『ガーディアン』紙が報じている。

写真:rwlinder / Unsplash

日本の場合

日本においても外交官ナンバーによる駐車違反と罰金の踏み倒しは後をたたず、国別の最多ランキングでトップを占めるのはやはりロシアだ。『朝日新聞』などさまざまな日本メディアが指摘し、香港の『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』紙も取り上げているように、ロシア大使館員の駐車違反は目に余るものがある。ロシアの外交官ナンバーで登録された車両は2022年までの5年間で、2,300件以上の未払い駐車違反切符をためこんだという。

日本外務省の対策

日本外務省は策を講じた。2021年5月以降、駐車違反を繰り返し罰金を払わない悪質な「青ナンバー」の車両に対し、給油時に提示することでガソリン税の免除を受けられる証明書の発行を取りやめたのである。

外交官は普通の人?

アメリカ、オーストラリア、そして日本の事例を見てきたが、どのような国にあってみても、一国を代表する外交官はそれなりの人物であってほしいものだ。「郷にいれば郷に従え」といった規範が外交的に免除されているとはいえ、受け入れ国の市民に対する最低限の敬意はあってしかるべきだろう。しかしそれは人々が思い描くイメージにすぎず、外交官は一般的に、とくべつ高潔なわけでも正義感にあふれたわけでも人格者なわけでもなく、たまたまその地位に収まっている普通の人なのかもしれない。いずれにしても、駐車違反を取り締まられて違反金を支払わないのはあまり褒められたことではない。

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