露メドベージェフ元大統領、ウクライナへの核移転の噂に核を用いた恫喝で応じる
いまだプーチン大統領の側近としての地位を保っているロシアのメドベージェフ元大統領だが、先日、その元大統領がアメリカに対して核による恫喝を行い、米ロ間の緊張が高まる一幕があった。
メドベージェフ元大統領(現ロシア安全保障会議副議長)が自身のテレグラムチャンネルで、アメリカでウクライナへ核兵器を移転させるという議論があることを批判した。
元大統領の投稿はこう始まっている:「アメリカの政治家やジャーナリストは、ウクライナに核兵器を移転した場合にどのような影響があるかについて真剣に議論している」『ニューズウィーク』誌が翻訳して伝えている。
元大統領はこう続ける:「かつて私は、老いさらばえて認知の衰えたバイデン大統領が、この世を去るにあたって多くの人類をお供にすることにした……という笑えないジョークを言ったことがある。だが、恐ろしいことにこれが現実になりつつあるようだ」
元大統領いわく、他国と交戦状態にある国家に世界最大級の核戦力を移転するというのはまったく常軌を逸した考えであり、バイデン大統領が「パラノイア的精神状態にあるという疑い」を呼ぶものだという。
しかも、メドベージェフ元大統領は核移転というアイディアをただ批判するだけにはとどまらなかった。アメリカでそういった議論を行っている政治家やジャーナリストに対して応答する義務があると考えた元大統領は、核移転が米政府にとって優れた選択ではない理由をふたつ挙げている。
元大統領はまず、アメリカがウクライナへの核移転を検討するだけでも、ロシアと核兵器を用いた紛争を始める準備であると見なされうると指摘している。
そして次に、仮に実際にウクライナに核兵器を移転したとすれば、それは「(プーチン政権が2020年に署名した)『核抑止の分野におけるロシア連邦国家政策の基礎』第19パラグラフで規定されている、『ロシア連邦への侵略』に該当する」のだという。
「その結果どうなるのかは、明らかだ」と元大統領は述べている。確かに、ロシアの核戦略を理解していれば、結果は自明と言える。ロシアは、いくつかの限定的な状況においては核による先制攻撃をも辞さない戦略を採用しているのだ。
「核抑止の分野におけるロシア連邦国家政策の基礎」第19パラグラフでは、ロシア及びその同盟国に対する「弾道ミサイルの発射に関して信頼の置ける情報を得たとき」、核兵器の使用が可能になるとされている。
こうしてみれば、メドベージェフ元大統領がテレグラムチャンネルへの投稿で言いたかったことは明瞭だ。ウクライナへの核兵器の移転は、その議論だけでもロシアによる核兵器の使用条件を満たすものになりえるとしているのだ。
さらに、実際にウクライナに核兵器が移転されたとなれば、それはもはや「使用条件を満たす」というレベルのものではなくなる。とはいえ、このシナリオについてはそれほど真剣に心配する必要はないだろう。
11月21日、『ニューヨーク・タイムズ』紙がある報道を行った。それによると、米高官の話として、ソビエト崩壊後にブダペスト覚書の一環としてウクライナが放棄した核兵器を、バイデン政権がウクライナに返還する可能性があるとされていた。
これに対して、ロシアのディミトリ・ペスコフ報道官は「現実世界の理解力に乏しい人々による、まったく無責任な議論だ」とにべもない反応を返している。ロイター通信が報じている。
ペスコフ報道官は情報源とされた米高官について「そのような提案をするにあたって、一片の責任も感じていないのであろう」と述べ、その発言が匿名でなされていることも指摘している。
ペスコフ報道官によるコメントを受けて『ニューズウィーク』誌は米政府に同紙の報道について質問、「ウクライナの核武装に関する計画は存在しない」という回答を得ている。