三菱UFJ銀行で前代未聞の盗難事件:貸金庫荒らしの犯人は元行員
銀行の信頼は顧客とその資産のセキュリティを重んじることによって成り立っている。ところが、三菱UFJ銀行の貸金庫では、まるで探偵小説のような盗難事件が発生していたようだ。
事件の舞台となったのは三菱UFJ銀行の練馬支店および玉川支店だ。テレビ朝日によれば、事件発覚のきっかけは、「貸金庫に預けていた金品が消えた」という顧客からの苦情だったという。では、一体、誰がどうやって、厳重に管理されている貸金庫から顧客の金品を抜き取っていたのだろうか?
画像:Kyodo News Images
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外部から貸金庫に侵入し、人知れず中身をくすねるなどというのは、フィクションに登場するような怪盗でなければ難しいだろう。しかし、灯台下暗し。犯人は内部の銀行員だったのだ。
今年1月14日、警視庁は三菱UFJ銀行の元行員、今村由香里容疑者(46)を逮捕。貸金庫から金塊をはじめとする顧客の金品を盗み出した疑いがもたれている。同容疑者は容疑を認めており、盗んだ金品はFX投資(外国為替証券取引)などの資金として流用したと供述しているとのこと。『毎日新聞』が伝えた。
なお、事件そのものは昨年の時点で発覚しており、同容疑者は11月に銀行側から懲戒解雇されていた。しかし、貸金庫はその性質上、利用者しか中身を知らないため、逮捕までに時間がかかったとのこと。『日本経済新聞』が伝えた。
さて、今村容疑者は一体、どのような手口で犯行を繰り返していたのだろう? テレビ朝日の報道によれば、同容疑者は貸金庫の責任者という立場を悪用し、銀行が保管しているスペアキーを用いて貸金庫を開け、中身を物色していたという。
意外とシンプルな手口だが、これでは簡単にバレてしまいそうなものだ。しかし、同容疑者は用意周到だった。貸金庫のスペアキーは封筒に封印されており、開封するとわかるようになっていたが、今村容疑者は丁寧に封をはがしてスペアキーを取り出し、これを戻す際には再度のり付けして、気づかれないようにしていたのだ。
さらに、犯行におよぶ際には監視カメラを含むセキュリティシステムの電源を切り、証拠が残らないようにしていた。テレビ朝日が伝えている。
また、NHK放送によれば、同容疑者は「盗んだ金品はかごにいれ、見えないように布をかぶせて持ち出した上で、自分の机やキャビネットに鍵をかけてしまっていた」などと供述しているとのこと。なんとも大胆不敵な犯行だ。
しかし、金庫の中身が消えたままになっていれば、いずれは顧客に気づかれてしまうはずだ。そこで、同容疑者は盗難の“自転車操業”を行い、事件の発覚を遅らせていた。つまり、現金を抜きとった金庫に補填するため、別の金庫から金品を盗むというプロセスを繰り返していたわけだ。テレビ朝日が報じた。
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けれども、このような方法で悪事を隠蔽するには、現金を補填する際に金庫内を元通りにしておく必要がある。そこで、同容疑者はスマートフォンで金庫内を撮影し、記録していたそうだ。ところが、皮肉なことにこれらの写真が動かぬ証拠となり、警察に逮捕されることになってしまった。
問題はそれだけではなかった。テレビ朝日によれば、今村容疑者は現金の補填に困るようになると、今度は金塊に手を出し、これを現金化して金庫に戻していたという。しかし、盗んでしまった金塊を補填するには、別の金塊を入手しなくてはならない。こうなると、もはや打つ手は残されていない。その結果、金塊の持ち主が異変に気付き、今回の逮捕劇へと至った。
NHK放送の取材によれば、同容疑者が金塊の換金のために訪れた質店の中には、取引の記録が残っているケースもあったそうだ。それによれば、同容疑者は「親から預かったもの」「事業の運転資金にする」といったウソの説明をしていたとのこと。
さて、『読売新聞』によれば、今村容疑者が“自転車操業”を繰り返して積み上げた被害総額は14億円に上るというから、驚くほかはない。
しかし、今村容疑者はそれほどの大金を一体、何につぎ込んでいたのだろう? テレビ朝日によれば、同容疑者は競馬やFX(外国為替信託投資)にのめり込み、多額の借金を作っていたそうだ。つまり、借金を返済するために、自分の管理下にある貸金庫を荒らしていたのだ。
ちなみに、銀行員は原則的にFX取引をしてはいけないことになっている。しかし、今村容疑者は自身の職場とは別の銀行に口座を開設して取引していたため、三菱UFJ銀行は違反行為に気づかなかったようだ。
ここで気になるのは、被害者は盗まれた金品を取り返すことができるのかということだ。これについて、『読売新聞』は三菱UFJ銀行がこれまでに被害総額の半分にあたる、およそ7億円の補償を行った、と伝えている。
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顧客の財産を預かる銀行員がその立場を利用して貸金庫荒らしに手を染めるという、前代未聞の盗難事件。今後の取り調べや裁判の中で、その全貌が明らかになるはずだ。
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