西側諸国がロシアの凍結資産を没収、ウクライナ復興に利用?
1月6日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、西側諸国の口座で凍結されているロシアの資産およそ3,000億ドルについて、ウクライナ復興に充てるための措置をとるよう各国に呼びかけた。
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ゼレンスキー大統領は自身のX(旧Twitter)投稿で、「これはテロ国家に代償を払わせる歴史的な機会です。ロシアの指導者やエリート層は人命については無頓着ですが、何にも増してお金に執着しています」とコメント。
ロシアはこういった資産を失うことで打撃を受け、国際社会の団結力を示すことにもつながるというのがゼレンスキー大統領の主張だ。さらに、これは侵略を続けるロシアに対する正当な措置だとした。
同大統領いわく:「ウクライナ支援のためにロシアの凍結資産を活用するというのは、ウクライナ侵攻を続けるロシアに対するまったく正当かつ合法的な措置です。今後、他国を侵略をしようとする国々に対する明確なメッセージにもなるでしょう」
ゼレンスキー大統領はさらに、「私は各国のパートナーに対し、迅速に法的枠組みを整えるよう要請します。ロシアの凍結資産をウクライナで活用できるよう、今年中にはっきりとした道筋をつけなくてはならないのです。この課題に関して、ウクライナはG7のリーダーシップを大いに期待しています」とした。
しかし、主権国家の凍結資産を他国に譲渡するというのは本当に「正当かつ合法」なのだろうか? また、実現した場合、どのような結果が考えられるだろうか?
ウクライナを支援する西側諸国は開戦以来、ロシアの凍結資産の扱いについて議論を重ねてきた。しかし、その資産をウクライナ支援に充てるために具体的な措置が検討されるようになったのはつい最近のことだ。
1月10日、情報大手「ブルームバーグ」が米国のバイデン政権はロシアの凍結資産の一部を戦後、ウクライナ復興に利用するための法案を支持していると報道。
「ブルームバーグ」が入手した国家安全保障会議の議事録には、「この法案は行政府がロシアの資産を差し押さえ、ウクライナのために利用する上で必要となる権限を付与するものだ」と記されていた。
この法的整備は、西側諸国による資金援助の継続が困難になる中で行われたものであり、近々実現する可能性があると見られている。
このような措置については反対の声も挙がっていたが、中欧・東欧の現代史を専門とするティモシー・ガートン・アッシュ氏はそのような意見を一蹴。米国・英国・カナダがロシア凍結資産の扱いに関して2024年2月にはG7各国首脳に働きかけを行うだろうと報告した。
反対派の主張としては、ロシアの凍結資金がウクライナ支援に利用されることになれば、ロシア以外の権威主義国家が西側諸国から資産の引き揚げを図るかもしれない、というものがある。しかし、前出のアッシュ氏によれば、現在までにそのような事態が発生していない以上、今後も起きる可能性は低いとのこと。
ロシアによるウクライナ侵攻が勃発すると、ウクライナを支援する国々はロシアの資産を即座に凍結した。権威主義的な指導者たちはこの毅然とした対応を目の当たりにした段階で、西側諸国からの資金引き揚げに取り掛かることもできたはずだ。しかし、現実にはそうなっていないのだ。
また、西側諸国が凍結資産をウクライナに譲渡すれば、ロシアがさらなる報復措置に出るだろうという主張もある。しかし、アッシュ氏は、ロシアがすでに西側資産の押収を進め、外国企業に事業の売却を強制していると指摘。
しかし、「主権免除」についてはどうだろう? これは、主権国家およびその財産は他国の裁判権に従う必要がないという国際法上の原則のことだ。
しかし、前出のアッシュ氏いわく、そのような原則は1990年代に発生したフセイン政権によるクウェート侵攻など、無効化された前例があるとのこと。実際、クウェート侵攻のケースでは同国の復興のため、524億ドルの賠償金が支払われている。
同氏いわく、ロシアの凍結資産を受け取ることでウクライナは戦争を克服し、より強固に再建されるはずだという。そして、それこそが一帯に長期的な安定をもたらすカギだとしている。
アッシュ氏はさらに、「結局、ウクライナの勝利で平和が訪れることはNATOにとって、1980年代後半の共産圏崩壊以来、もっとも重大な安全保障上の目標なのです。プーチン大統領が保有する数十億ドルをウクライナに渡すことは、法と実践の合わせ技です。他に選択肢はありません」と結論づけた。
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