英国の新首相、リズ・トラスはどんな人?:政治キャリアを振り返る
9月5日月曜日、困難に直面する英国の次期首相が決定した。リズ・トラス新首相は高騰する物価や欧州連合(EU)との溝、低い給与や生活苦にあえぐ市民の不満など、数々の難題に挑むこととなる。
ライバル候補のリシ・スナックと次期首相の座を争っていたリズ・トラス。今回は彼女の政治キャリアを振り返るとともに、その素顔に迫ろう。
リズ・トラスの政治的姿勢には一貫性がないと言わざるを得ない。たとえば、政治家デビューしたころは英国自由民主党員として英国の欧州連合離脱、「ブレグジット」に反対していた。
彼女はまた、自由民主党のオックスフォード大学支部長を務めていた。英国自由民主党はもともと親EU派だったが、2回目の国民投票ではブレグジット支持に転じた政党だ。
当時、残留支持派だったリズ・トラスは「私の娘たちがヨーロッパで働くためにビザや許可が必要になったり、法外な通話料金や貿易障壁のせいでビジネスを妨げられたりする世界は真っ平です」と述べたこともある。
しかし、2017年にはブレグジットについて意見を翻し、徐々に保守派よりの姿勢を示すようになる。今では保守党員として確固として地位を築いており、ナディーン・ドリーズとジェイコブ・リース=モグの支持を得ている。また、ボリス・ジョンソン前首相の支援を受け続けていたとも言われている。
政治家たちの間で支援を勝ち取ったリズ・トラスだが、2010年に保守党から庶民院選挙に出馬した際には、数学教授の父に選挙キャンペーンへの参加を断られてしまったという。
BBC放送のインタビューに対し、母親が反核運動団体「核軍縮キャンペーン(CND)」のメンバーだったので一緒にデモに参加したことがあると語ったリズ・トラス。保守派のサッチャー政権に対して「マギー(マーガレット・サッチャー首相の愛称)は去れ!」とシュプレヒコールをあげながら成長したというのだが、もはや急進左派の面影はない。
イングランド北部の公立高校に通った後、オックスフォード大学に進学。そこで哲学・政治・経済学を学ぶこととなった。その後、エコノミストとしてケーブル・アンド・ワイヤレス社に就職。2009年からはシンクタンク「Reform」の副局長も務めた。同時に、保守政治に参加してゆくこととなる。
庶民院選挙に立候補したリズ・トラスだが2度落選。結局、2010年にサウス・ウェスト・ノーフォーク選挙区から選出され、政治家デビューを果たした。
一見、順調にキャリアを積み上げてきたように見えるリズ・トラスだが、ジョンソン内閣の外相を務めた際には危うくスキャンダルに足をすくわれそうになったこともある。
保守党の会議で彼女が行ったチーズおよび豚肉市場に関する奇妙なスピーチは、世界中でネットミームのネタにされてしまった。いわく:「英国の食について言えば、かつてないほど好調です」
しかし、すぐに顔をしかめるとこう語りだした:「今、英国はリンゴの2/3、梨の9/10、チーズの2/3を輸入に頼っています」そして、一拍置くと「こ・れ・は・不名誉な事態です」と付け加えたのだ。もちろん、ネットユーザたちが飛びつかないわけがなかった。
一方、外相としてロシアによるウクライナ侵攻に対応することとなったリズ・トラスはプーチン政権に対して断固とした姿勢を強調。両国間の緊張をエスカレートさせ、国益を損なってしまうのではと不安視する声も上がるほどだった。ロシアの『コメルサント』紙によれば、ロシア外相との会談で彼女はロストフ州およびヴォロネジ州(北コーカサス地方のロシア領)におけるロシアの主権に異議を唱えたという。
2019年にアンドリュー・ニールが司会を務めるTV番組に出演した際には、保守党の住宅記録をめぐって激昂してしまったリズ・トラス。首相となったからには、きちんとメディアに対応すべきだと考える人も多い。
口笛を吹いて異性の気を惹いたり、やじを飛ばしたりといった行為をハラスメントとして違法化することを公約に掲げたリズ・トラス新首相。しかし、生活苦にあえぐ英国民が求めているのは、おそらくそのような政策ではないだろう。
保守党の会合で会計士の夫と出会い、結婚。子供は2人。
保守党内では高い人気を誇るリズ・トラス。以前は「人間手榴弾」と呼ばれていたという。どうやら、良くも悪くも「物事を吹き飛ばす」傾向があるようだ。
リズ・トラスは国会議員向けのイベントを主催することで知られており、「リズのシャンパン(fizz with Liz)」と呼ばれている。ただし、彼女自身がこの用語を使ったことはないと主張する人もいる。
しかし、国会議員とのスキャンダルが露見すると、保守党員からも反発が強まり、政治生命を絶たれる寸前に。
ボリス・ジョンソン前首相が辞任を発表したとき、リザ・トラスはバリ島に滞在していたという。しかし、会議を短縮して急遽ロンドンに戻り、後継者候補に名前を連ねたと『デイリー・メール』紙は報じている。
『デイリー・テレグラフ』紙に寄稿したリズ・トラス新首相は「保守党の方針に則って英国経済が必要とする変化をもたらし、ウクライナおよび自由主義陣営が直面する安全保障上の脅威に積極的な対応を取ることができるのは自分だけだ」と述べている。