経済危機のキューバでライフラインが大幅値上げ:ガソリンの値上げ率は500%
2023年12月末、キューバ議会では同国のマヌエル・マレロ首相によって一連の抜本的な経済改革が発表され、驚きをもって受け止められることとなった。
各国のメディアによれば、今回の改革は経済政策の大幅な見直しを伴うものであり、包括的な補助金を対象別の支援策に切り替えるといった路線変更が行われる模様だ。
写真:Claudia Salamone / Unsplash
マレロ首相(写真)は国家機関の再編に言及する一方で、電力やガソリン、ガス、水道といった生活インフラの料金値上げを発表。こういった変更はすでに行われており、キューバ国民に大きな影響を与えているようだ。
なかでも、最初に値上げの対象となったのはガソリン価格だ。AFP通信によれば、その値上げ率は500%にものぼったという。しかも、観光客はガソリン代をキューバ・ペソではなく外貨で支払わなくてはならないとされたのだ。
続いて対象となったのは交通機関だ。2024年1月には、州の間を運行するバスの運賃や航空運賃が議題として取り上げられた。
ところが、キューバ当局の公式サイトによれば、この2つの値上げ措置は「サイバー攻撃」によって実施が見合わせられることになったという。このトラブルは施行期日の前日に起きたものであり、新たな期日は発表されていない。
EFE通信の報道によれば、今年度18%の財政赤字を抱え、著しい景気後退に悩まされるキューバとしては今回の措置によって経済危機を乗り越える狙いがあるものと見られる。
また、今回発表された措置には関税の引き上げが含まれており、成長を続ける民間部門に影を落とす可能性もある。さらに、2021年以来活況を見せてきた非公式の為替市場を抑制するため、外貨による投機は厳しく罰せられるという。
長年、社会主義をとってきたキューバだが、2021年に民間による中小企業の運営が認められるようになった。当局の公式メディアによれば、3年後の時点でその数は9,000社を突破したとのこと。
こういった民間企業にとって非公式の為替市場は欠かせない存在だ。というのも、キューバでは外貨を手に入れる手段が公式には存在しないが、輸入品の支払いにはこれが必須となるためである。
キューバでいま起きている経済の変容は、2021年に実施された経済政策によるところが大きい。このとき、それまでの兌換ペソが廃止され「自由兌換通貨(MLC)」と呼ばれるデジタル通貨に置き換えられたのだ。
しかし、キューバ政府はこの政策が失敗だったとして、アレハンドロ・ヒル経済企画相を2024年1月に更迭。
キューバを訪れる外国人向けの通貨だった「兌換ペソ(CUC)」を廃止し、MLCや外貨による支払いシステムを導入したことで、キューバ経済は部分的にドル化しつつあった。
ところが、EFE通信の分析によれば、この政策はコロナ禍や観光業の落ち込み、米国による経済制裁の強化と相まって、キューバ経済に深刻な危機をもたらしてしまったのだ。
また、非公式の為替市場では米ドルに対するキューバ・ペソ安に歯止めがかからない状況だ。公式レートでは1ドル120ペソとされているが、実際の相場はおよそ300ペソとなっている。
そして、このペソ安はインフレを招き、それによってペソ安にますます拍車がかかるという悪循環を引き起しているのだ。独立系メディアによれば、2023年10月時点のインフレ率はおよそ400%だったという。
インフレの背後にあるもうひとつの要因は、生活必需品の供給が不足していることだ。CBS放送いわく、キューバは島内で消費される日用品の80%を輸入に頼っている。
また、キューバの独立系メディアによれば、医薬品不足や医療従事者不足のあおりを受けて公共医療サービスにも影響が出はじめているようだ。
さらに2022年には、キューバ全土で毎日数時間にわたって電力供給がストップするというエネルギー危機が発生。この状況は2023年に改善したが、燃料不足やインフラの老朽化といった課題は依然として解決されていない。
このような問題が積み重なった結果、キューバではいま格差の拡大が進んでいる。国家公務員や年金生活者の収入は毎月70~150ドル相当に過ぎないが、物価の上昇は激しく玉子の値段は1パック11ドルに達することもあるという。
キューバ経済の原動力を担う観光業は、2019年の水準を大きく下回ったまま回復していない。このような中、発表された今回の経済改革は景気回復を図る奥の手ともいえるが、国民にとっては大きな痛みを伴うものとなるかもしれない。