アメリカで空飛ぶタクシー「eVTOL」が2025年にも実用化へ
Uberの代わりに空飛ぶタクシーを呼び出して、交通渋滞をよそ目にが音もなくビルの間を縫って飛び、郊外の「ドローン・ポート」に到着する…… こんな光景がいずれ現実になるかもしれない。しかも、オクラホマ州立大学のジェイミー・ジェイコブ博士によると思ったよりもそんな未来は近づいているのだという。
ジェイコブ博士の記事によると、アメリカのユナイテッド航空はシカゴやニューヨークといった都市で、電動エアタクシー(eVTOL)を運行する計画を検討しているという。また、米軍も未来の乗り物としてすでにテストを開始しているとされる。eVTOLとは、電動垂直離着陸(electric vertical take-off and landing)機を意味する。
ドバイでは早くも2025年にeVTOLを運用する計画がある。実際、2024年2月には米企業ジョビー・アビエーションが、2026年初頭からUAE国内でエアタクシーを運航するという契約を交わしたことを公表した。しかも、計画を前倒しして2025年中の運航開始も目指されているという。
画像:Event Santa Cruz/Youtube
ドイツのメーカー、ボロコプターは今年のパリオリンピックでeVTOLを飛ばすことを検討しているという。だが『ブルームバーグ』によると、開催が迫るもいまだ認証が得られておらず、バッテリー問題も解決していないことから実現の可能性は低いという。ただし、メーカー側は8月のパラリンピックには間に合うだろうという見通しを示している。
画像:Volocopter/Youtube
ジェイコブ博士によると、多額のベンチャーキャピタルを集めたジョビーやアーチャー、ウィスク、リリウムといったスタートアップ企業だけでなく、ボーイングやエアバスなどの航空大手もeVTOLの開発を進めているのだという。
今のところ、eVTOL開発は有望に見える。ジェイコブ博士によると、従来ヘリコプターが担ってきたような短距離輸送をより低コスト・低騒音・低環境負荷にできるというのがeVTOLの強みだという。
ただし、『ブルームバーグ』が伝えているように、eVTOLはまだ試験段階にある技術で、墜落事故も少なくない。昨年8月にはバーティカル・エアロスペース社が飛ばしていたプロトタイプが、プロペラの不具合のせいで墜落している。また、2022年にはジョビー・アビエーションの機体も墜落しており、こちらは負荷テスト中にブレードが破断したことが原因だとされている。どちらの機体も事故時にはリモートで飛ばされていた。
画像:Joby Aviation/Youtube
ジェイコブ博士も指摘するように、eVTOLが直面している最大の技術的障壁は現在のバッテリー性能の限界だ。そのせいで運航が短距離に限定されているのだが、水素を活用することでこの問題も解決するかもしれない。
「空飛ぶタクシー」実用化に向けて欠かせないのが、機体の安全性を定める規則の制定と航空管制制度の確立だ。将来的には完全リモート操縦が目指されているが、いまのところ、アメリカの連邦航空局はパイロットが乗車することを定めている。また、eVTOLの航路をどこが管理するのかという点もまだはっきりしていない。
『ニューヨーカー』誌によるとeVTOL開発に乗り出しているスタートアップ企業は400を越えるというが、どこも直面している問題は同じだ。同誌は「航空業界の暗黙のルールは『慎重に進めて、なにも壊さない』ということだ」と書いているが、まさにこれこそが、eVTOLがほかのシリコンバレー発の技術よりも開発に時間がかかっている理由なのだろう。
確かにeVTOLは試験段階まで進んでおり、開発も進展している。だが、商業的に実用化するとなると話は別だ。『ニューヨーカー』誌が伝えているように、ニューヨークの通勤手段としてeVTOLを実用化するためには「何万ものドローンタクシーを時刻表通りに運航し、一度も事故を起こさないようにせねばならない」。というわけで、ビルの間を飛んで通勤するというSF的な光景が日常となるには、やはりそれなりに時間がかかるようだ。