空中から水を生み出す技術とは:気候変動対策の切り札?
ユニセフによれば、現在水の入手が困難な状況に置かれている人々の数は世界で20億人を超えるという。しかも、気候変動の影響によりこの数字は今後数十年でさらに上昇すると考えられている。
実際、専門家たちの多くは、水は今後数十年で最も必要とされる資源のひとつになると推測している。これに対し、古代から伝わる技術を使って現在の水不足問題を解決しようとする研究者や企業もある。
干ばつ、環境汚染、水源の枯渇、氷河の融解など、さまざまな要因により水資源が危機に晒されている。だが、まったく対処法がない訳ではない。
解決策のひとつとして注目されているのが「Fog collector(ミストキャッチャー)」と呼ばれる装置だ。これは、空気中の水分を集めて飲用水にするというものだ。
空気から水を取り出す方法は最新技術の成果に見えるかもしれないが、これはペルーの古代インカ帝国や、アフリカや南アジアなどさまざまな地域で太古から採用されていた方法だとBBCは伝えている。
科学ジャーナリストのマイケル・アイゼンシュタインは学術誌『ネイチャー』に発表した論文を通じ、大気から水を取り出す技術により、淡水へのアクセスが限られた地域でも社会の持続可能性を高められると指摘している。
「こうしたシステムの一部はすでに商業化されています。たとえば山間部にあり霧の多い地域では、文字通りネットを張ることで移動していく雲から水分を取り出すことが可能です」とアイゼンシュタインは『ネイチャー』誌に書いている。
画像: mybibimbaplife / Unsplash
現在、大気から水分を取り出す試みはペルーの山岳地帯で実施されているほか、水を使わずに空気中の水分を取り込んで機能するコーヒーメーカーやウォータークーラーが開発され、インドを始めとするさまざまな地域で実際に使われている。ドイチェ・ヴェレ放送が伝えている。
こうした装置は「大気水生成装置」、あるいは「ミストキャッチャー」や「ハイドロパネル」と呼ばれている。水不足に悩む地域社会はもちろん、環境に優しい水の代替供給源を求める大企業に至るまで幅広い需要があり、とくに南アジアでは一大ブームとなっている。
ドイチェ・ヴェレ放送は、こうした水分を集める装置は水不足に悩む地域の問題解決に役立つだけではなく、水を持ち運ぶペットボトルの必要性を抑えることからプラスチック廃棄物の削減にもつながると指摘している。
BBCによれば、空気中から水を集めるという試みは近年大きな注目を集めており、関連ビジネスが活況を呈しているという。例えばハイドロパネルの製造に力を入れる企業のひとつ、「ソース・グローバル」社は現在世界50カ国以上で事業を展開し、その企業価値はすでに10億米ドルを超えている。
写真:アリゾナ州立大学のウォーターファーム / Source Global
アリゾナ州に拠点を置くソース・グローバル社が製造するハイドロパネルは1枚あたりの価格が2,000ドル。耐用年数は15年で、1日あたり約5リットル(約1.32米ガロン)の水を生成するとされている。
写真:Source Global ハイドロパネル / Source Global
英『ガーディアン』紙によれば、こうしたパネルは水道管や水源の不足といった問題を抱えるアメリカ南西部の先住民コミュニティで使用されているという。
写真:オレゴン州ウォームスプリングス先住民保護区のウォーターファーム / Source Global
アリゾナ州とニューメキシコ州にあるナバホ族のコミュニティではすでに500世帯以上にハイドロパネルが設置されており、今後もその数は増える見込みだとされる。
写真:ナバホ族コミュニティのハイドロパネル / Source Global
しかし、『ガーディアン』紙によれば、水不足に悩む地域でこうした技術がどれだけ役立つかについて懐疑的な見方をする専門家もいるという。
空気から水を生成する技術については、生成可能な水の量を高めたり生成コストが下げたりといった改善点がある。こうした問題が解決されるまでは、水道が最良の選択肢であるといえるだろう。