サル痘による欧州初の死亡例:スペインで発生
アフリカ大陸では命取りになることもあるとされているサル痘。ウイルスが世界各国に広がったことで、アフリカ以外でも人命の脅威となっている。
アフリカ以外でサル痘による死亡例が最初に報告された国はブラジルで、今年7 月 29 日に 41 歳の男性がこのウイルスで亡くなった。
それから間もなく、スペインの保健省は、とくに健康上の問題がみられなかった若い男性2人がサル痘で死亡したことを発表した。
サル痘ウイルスによって引き起こされ、死に至ることもあるとされている脳炎が2人の死因だった。
サル痘感染者の世界的な急増を受け、世界保健機関(WHO)は最も厳しい警告レベルにあたる「緊急事態」を宣言した。
テドロス・アダノム・ゲブレイェスス世界保健機関(WHO)事務局長によれば、75カ国で16,000人を超える症例が報告されているという。ウイルスに関する第2回WHO緊急委員会の後、「緊急事態」が発令された。
各国におけるサル痘の拡大を受け、テドロス事務局長はこれは国際的な関心事であり、サル痘の拡大について十分に周知されていないとしている。
現時点では、WHOが高リスク地域とする欧州をのぞき世界の全地域においてサル痘のリスクは中程度であると、テドロス事務局長は述べている。
サル痘に対し「緊急事態」が出されたことで多くの人が警戒心を抱いたかもしれない。しかし、WHOが宣言を出した意図は、ウイルスの蔓延を抑えるためのワクチンや感染対策を加速させることにある。「適切な戦略を、それを必要とする人々に適用すれば、ウイルスの大流行を抑えることはできます」とテドロス事務局長は述べている。
WHOは7月1日、欧州におけるサル痘の感染者がわずか2週間で3倍に増えたことを受けて、「緊急」行動をとるよう呼びかけた。
WHO欧州地域事務局長ハンス・ヘンリ・クルーゲ(写真)は、「本日、私は各国政府と市民に対し、サル痘が拡大しつつある地域へのウイルスの定着を防ぐため、取り組みを拡大するよう強く求める」とした。
クルーゲ事務局長はさらに、「現在進行中のこの病気の蔓延を食い止めるためには、緊急かつ協調的な行動が不可欠です」と述べた。
5月上旬、サル痘が風土病となっている西アフリカや中央アフリカ諸国以外でこの病気が報告された。しかも、クルーゲ事務局長によれば世界で報告された症例の9割は欧州に集中しているという。
サル痘の脅威は、欧州で10人に及ぶ患者が確認された5月に端を発している。イギリスで7名の感染者が報告されたことを皮切りに、ポルトガルやスペインなど他の国でも感染者が出始めた。
この病気は、かつてはアフリカのジャングルにしか存在しなかったウイルスに端を発するものだった。そうしたウイルスがアフリカから欧州に渡った経緯についてはまだ分かっていない。
WHOによれば、ウイルスがどのようにアフリカの外に広がっていったかは明らかにされていない:「まだ調査段階ですが、これまでに報告された症例についてはサル痘流行地域への渡航との関連性は確認されていません」
WHOによれば当初、サル痘の感染例のほとんどが都市部にみられ、患者は同性との性交渉をもった若い男性が多かった。しかし、こうしたデータは変わっていく可能性があり、実際、WHOは妊婦や子供への感染拡大を懸念している。
BBCによれば、5月に英国の保健当局がロンドンとイングランド北東部で新たな感染者を確認したという。しかしその後、英国全土でさらに104の症例が報告された。
人間がサル痘に感染した場合、どのような症状が出るのだろうか。どうやら、一般的な天然痘と似たような症状で、しかしそれよりも少し軽い症状のようだ。
初期症状としては発熱、頭痛、筋肉痛、悪寒などが挙げられる。
サラマンカ大学の微生物学者ラウル・リバスはニュースメディア「The Conversation」に掲載された記事を通じ、「人間の天然痘とサル痘の症状の主な違いは、サル痘ではリンパ節が腫れるが、天然痘ではリンパ節が腫れないことです」としている。
ニュースメディア「The Conversation」は、こうした天然痘の潜伏期間は「通常 7 ~ 14 日ですが、5 日まで短縮されたり、21 日まで長くなる可能性もあります」と報じている。
サル痘を発症すると、発熱と筋肉痛に加え、顔や手足に発疹が出て、それが時間の経過とともにかさぶたになりやがて剥がれ落ちる。
そして、ウイルスはどのように拡散するのだろう?BBCの記事によれば、人から人へ簡単に感染するタイプではなく、その意味で新型コロナウイルスとはまったく異なるといえる。ただし、サル痘感染者と直接接触する場合は、注意が必要である。
「ウイルスは、サル痘の発疹がある人の衣服、タオル、寝具などに接触することで広がる可能性がある」とBBCは伝えている。
また、感染者の皮膚の水疱やかさぶたに直接触れたり、感染者の咳やくしゃみを通じてもウイルスが広がることもある。
このウイルスによる死亡率はどうなっているだろう。どうやらサル痘の感染者の死亡率は高くはないようだ。
ナイジェリアのケースを見てみよう。WHOによれば、サル痘の被害が最も大きい国の一つであるナイジェリアでは、2017年から2022年4月にかけて241人の患者が確認されている。
ナイジェリアの 200 を超える症例のうち、死亡例は8件にとどまっている。
ただし欧州保健当局は、感染者の特定や隔離ができるよう、上記の症状があったり感染が疑われる場合は医師に相談するよう念押ししている。
感染者にはどういった対応が必要なのだろう、また、サル痘にワクチンはあるのだろうか。WHOは、現在この感染症に対する対抗手段や特定のワクチンはない、としている。
だが、85% の発症予防効果を示した天然痘ワクチンが存在する。注射は病気を完全に止めるわけではないが、一般的に病気を軽減し、2〜3週間以内に回復することが示されている。
サル痘は、1970年にコンゴ民主共和国のボケンダ村で初めてヒトへの感染が確認された。
最初の感染者はコンゴ民主共和国のバサンクス病院に入院していた生後9ヶ月の男の子で、その臨床画像は天然痘ウイルスに感染したサルとよく似たものだった。
その後サル痘はアフリカ大陸を中心に拡大し、欧州にはこうした感染地域を訪ねた人から単発的に持ち込まれるだけだった。しかし今後は、各国に住む人々の間で地域感染が起こる可能性がある。
スペイン、イギリス、ポルトガルで発生以前は、2003年に米国で30人以上が感染した事例がある。その原因は外来ペットの輸入によるものと考えられている。
こうした現在、新たな感染症への警戒と対策が求められている。人々は再び、動物から人へと感染する病気(新型コロナウイルスもそうだった)の脅威にさらされている。