核戦争が勃発したとしたら:世界でいちばん安全な国はどこ?
ロシアによるウクライナ侵攻開始から2年半近くが過ぎ、地政学的な緊張感が高まり核戦争のリスクがたびたび語られている。万一実際に核戦争が起きたら人類や地球はどうなってしまうのか、不安に思っている人も多いのではないだろうか。
どのような規模であっても、核兵器が実際に使用された場合、破滅的な影響が幅広く及ぶことになる。直接の死者はもちろん、放射性物質が残留して環境が汚染されるうえ、食糧生産が減少し飢餓も生じる。
とはいえ、科学者の予測によれば、どれほど破壊的な核戦争が起きたとしても、人類が生存できる環境は完全になくなりはしないのだという。
文明崩壊を避けて生き残る可能性が最も高いのは、当然そのような場所に住んでいる人たちだということになる。
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研究者によると、核の冬を生き延び、核戦争後の人類復興を担うことになりそうなのはオーストラリアおよびニュージーランドといった国々だという。
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研究誌『リスク・アナリシス』に発表された論文ではさらに、アイスランドやソロモン諸島、バヌアツ共和国なども核戦争を生き延び得るとされている。
研究によると、こういった国々に共通しているのは島国であることと、「突然の日照減少という破局的事態」にも耐えられるほどの食料自給率があることだ。日照の減少は核戦争以外にも、巨大火山の噴火や隕石の衝突などで引き起こされる可能性がある。
論文の著者らは38の島国を13の要素に基づいて評価、世界滅亡後の状況を生き延びる可能性を比較している。
評価対象となった要素には食糧生産量やエネルギー自給率、工業生産力、気候による影響の多寡などが含まれている。
オーストラリアとニュージーランドは農業生産力に富んでいるうえ、核攻撃を重点的に受けると予想される北半球からも離れている。そういった理由から、安全性リストではオーストラリアがトップに挙げられている。
研究ではこう述べられている:「オーストラリアの農業生産力は非常に余裕があり、数千万人以上の追加人口を養うことができる」
そういった条件に加えて、オーストラリアはエネルギー自給率も100%を大きく越えており、医療機関も充実、防衛費も潤沢と、多くの要素が相まって一位となった。
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ただし、そんなオーストラリアにもマイナス点がないわけではない。同国は軍事的にイギリスやアメリカと比較的近く、ロシアとの全面核戦争となった際には攻撃対象とされる恐れがあるのだ。
その観点から言うと、ながらく非核政策をとっているニュージーランドは一歩有利かもしれないと研究者は指摘している。
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また、ニュージーランドは比較的小規模な島国のため国土の多くが海に近い。そのため、核の冬に日照が大きく減少しても、気温低下の影響をある程度緩和できると見られている。
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研究では、ほかにもフィリピンやモーリシャス、インドネシアなどが食料自給可能な島国として挙げられている。
ただし、その研究では、そういった国々は社会的に不安定で政治腐敗も横行しているため、危機においては安定性を失うリスクがあるとも指摘されている。
また、2022年の別の研究によると、全面核戦争が起こった場合、世界人口の63%に当たる50億人が餓死すると予想されている。
それもそのはずで、全面核戦争が起きた場合、中国やフランス、ロシア、イギリス、アメリカなどで食糧生産が97%も減少すると考えられているのだ。
今回紹介した研究で食料自給率が重視されているのもそういった事情からだ。論文の著者によれば、世界は技術的にも大きく後退することになるため、食料の輸出入も多大な影響を受けることになるのだという。
研究者らはこう結論づけている:「生存可能性がもっとも高いとされた地域でさえ、科学技術が崩壊する可能性は存在する。そうなれば、安定的な食糧生産を共同・協調して管理することも非常に困難になるだろう」