時空トンネル「ワームホール」のシミュレーションに成功:カリフォルニア工科大学による検証
2022年12月、カリフォルニア工科大学の研究者たちがコンピュータ上で、生成後間もない2つの時空トンネル、つまりワームホールをシミュレーションできたと発表。科学界に衝撃が走った。
同大学の物理学者たちはワームホールを「生成」しただけでなく、2つのワームホールを通じた情報のやり取りも確認できたとしている。すなわち、時空トンネルの存在が示されたということだ。
2022年12月初頭、この研究成果が科学誌『ネイチャー』に掲載されると、画期的な理論的発見であるとして科学界の注目を集めることとなった。
共著者の1人マリア・スピロプル氏は、今回の発見について「赤ちゃんワームホール」に相当すると説明。ゆくゆくは「大人のワームホールや子供のワームホールも段階的に」作成したいとコメントした。
量子テレポーテーションで伝送された情報によれば、どうやら時空間を破ることなく通過可能なワームホールが生成できたようだ。
アルベルト・アインシュタインとネイサン・ローゼンが初めて理論的説明を行ったことから、ワームホールは「アインシュタイン・ローゼン・ブリッジ」という名前でも知られている。
フェルミ研究所の著名な物理学者で研究論文の共著者の1人でもあるジョセフ・リッケン氏は、今回の発見について「アヒルのような見た目でアヒルのように歩き、アヒルのようにガーガー鳴く。現時点で言えるのはそのようなことです」としている。
リッケン氏は「つまり、ワームホールの特徴を備えた何かを発見したということです」と締めくくっている。
写真:Twitter @jlykken
しかし、今回のシミュレーションは単純化されたモデルに基づいており、量子物理学に新たな知見をもたらすとは限らないと注意を促す専門家もいる。
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マサチューセッツ工科大学 (MIT)の物理学者ダニエル・ハーロウ氏いわく:「これは、量子重力理論について新たな知見をもたらすものではなさそうです」
そんなハーロウ氏も今回の成果について一定の意義は認めている:「ただし、技術的成果としては魅力的なのも確かです。今回達成されたこの成果がなければ、量子重力理論に関するさらに興味深いシミュレーションは不可能だったはずですから」
また、スピロプル氏およびリッケン氏も、ワームホールを利用して人や生物を輸送できるようになるのはまだまだ先の話だとしている。
スピロプル氏は記者団の質問に答えて、「実験に基づいて言えば、(実用化は)程遠いと言わざるを得ません」とコメント。
スピロプル氏はさらに、「たとえば、『ワームホールで犬を運べますか』と尋ねる人がいますが、答えは『ノー』です。その考えは飛躍しすぎなのです」と付け加えた。
また、リッケン氏も、「原理的に可能だとしても、実現可能かどうかは別問題です」とコメント。
そして、「ですから、ワームホールで犬を送ることの是非について不安を感じる必要はありません。けれども、研究の第一歩を踏み出すのは大切です。その意味で、今回の成果は素晴らしいと思っています」と締めくくっている。