故エリザベス女王の遺産はだれの手に?
フィリップ王配がこの世を去って1年半あまり、後を追うように崩御したエリザベス女王との別れを世界が惜しむ中、王室の遺産の行方が気になる方もいるのではないだろうか?
莫大な財産を所有していたエディンバラ公爵フィリップ王配だが、この世を去るにあたって誰の手に託したのだろう?また、エリザベス女王の富と権力は、残された家族にどのように受け継がれることになったのだろう?
また、女王の死去に伴って息子のチャールズ3世が国王に即位。同時に地位や肩書が変わった王室メンバーもいる。では、これによって英王室はどう変わるのだろう?
政治信条にかかわらず人々を魅了してやまない世界一有名な王室、それが英国に君臨するマウントバッテン=ウィンザー家だ。気になる一家のメンバーとその地位、財産を見てゆくことにしよう。
フィリップ王配がこの世を去ったのはエリザベス女王の即位から69年が経った2021年4月9日のことだった。2人は1947年11月に結婚して以来、73年の長きにわたって連れ添ったのだ。
1947年に2人が結婚したとき、エリザベス女王は英王室の一員としてすでに裕福だった。しかし、夫のフィリップ王配の方はほとんど何の財産も持ち合わせていなかったという。
フィリップ王配の一家は軍事クーデターで祖国を追放されるまで、ギリシャに君臨する王族だった。持てる限りの財産とともに一家が英国に亡命したとき、フィリップ王配はわずか生後18ヶ月だった。
フィリップ王配の一家が持ってゆくことができた財産の中には、後にエリザベス女王に贈られることとなるジュエリーも含まれていた。一方、ウィンザー家は裕福だったが第二次世界大戦直後という状況のため、エリザベス女王といえどもウェディングドレスの生地を配給で手に入れなくてはならなかったという。
2022年9月8日に亡くなったとき、女王はサンドリンガム・ハウスやバルモラル城など邸宅をいくつか所有していたが、バッキンガム宮殿やウィンザー城といった公邸は王室の所有となっている。
ウィンザー城とバッキンガム宮殿はもちろんのこと、英国全土に王室が所有する土地やロンドン市内の不動産、王家の財宝、ロンドン塔のような文化財はエリザベス女王も手を付けることができなかった。ただし、これらの資産が生み出す利益の一部を受け取ることは認められていた。
『イブニング・スタンダード』紙の報道によれば、王室所有の土地は2020年時点で140億ドルの資産価値があったとされる。また、同紙は140点におよぶ王家の財宝についても総額40億ドルと推定している。ただし、これらの財宝は女王個人の所有物ではないので、彼女の純資産には含まれていない。
クリスマスをサンドリンガム・ハウスで過ごし、夏はスコットランドのバルモラル城に滞在するというのが王室の伝統だ。写真は若い頃の王子たち(左からエドワード王子、チャールズ王子、アンドルー王子)とバルモラル城前でたたずむ女王夫妻。
女王夫妻は、自然豊かでプライバシーも確保できるバルモラル城で時を過ごすのがお気に入りだった。『イブニング・スタンダード』紙はこの城の資産価値を1億4000万ドル、サンドリンガム・ハウスはおよそ6500万ドルと推定している。
『フォーブス』誌によれば、女王一家は王室所有の土地、公爵領、宮殿など総額280億ドルの財産の上に君臨しているとされる。ただし、王室所有の資産に手を付けることはできないので、故エリザベス女王とフィリップ王配の遺産に反映されるのは2人の実際の財産だけということになる。
2022年に国王に即位したチャールズ3世は1948年生まれの長男。妹のアン王女は1950年生まれだ。その後、1960年にアンドルー王子が、1964年にエドワード王子が誕生している。写真は1972年にバッキンガム宮殿で撮影されたもの。
エリザベス女王とフィリップ王配、そして4人の子供たちは、まとめて「ザ・ファーム(会社)」と呼ばれていた。これは彼らの人間関係というよりも、経済活動の規模や「王室公開有限会社」で各メンバーが果たす役目を会社にたとえた表現だ。
女王の子供と孫、その配偶者たちは基本的に「ザ・ファーム」執行役員としての役割を期待されていたのだ。しかし、全員がその地位に留まっているわけではない。
故エリザベス女王には8人の孫がいる。国王チャールズ3世の息子、ウィリアム王子 (王位継承順位 1 位) と、ヘンリー王子は中でもよく知られている。
さらに、アン王女とマーク・フィリップス大尉の間に生まれたピーター・フィリップス、ザラ・ティンダルも故エリザベス女王の孫だ。上の写真はいとこのヘンリー王子夫妻と並ぶザラ・ティンダル。
ピーターとザラ(写真右。左は夫のマイク・ティンダル)は王室の称号を帯びていない。子供たちが王室を離れて一般人としての生活を送れるよう、両親が配慮したためだ。
ヘンリー王子とウィリアム王子に続いて、アンドルー王子とサラ・ファーガソンの間に誕生したのがユージェニー王女とベアトリス王女だ。さらに、エドワード王子とウェセックス伯爵夫人ソフィーの子供、レディ・ルイーズ・ウィンザーとセヴァーン子爵ジェームズはまだ10代だ。
女王の孫のなかでも最年少のルイーズとジェームズは王女・王子の称号を持たない。というのも、両親が故エリザベス女王と相談の上、伯爵家の称号を継がせることにしたためだ。
王子・王女の称号を帯びるメンバーには王室直属の護衛が付くことになる。しかし、称号があっても主要メンバーとしての公務を果たさない限り、王室から金銭的な報酬を受けることはできない。ベアトリス王女(写真)とユージェニー王女はこのケースに当てはまる。
ヘンリー王子もまた、このようなケースに当てはまる王子の1人だ。今のところ称号を保持しているとはいえ、王室の公務から遠ざかってしまったからには王室から活動資金の提供を受けたり、一家の護衛を付けたりすることはもはやできないのだ。
ヘンリー王子の王室離脱以来、主要メンバーとして活動しているのは7人:国王チャールズ3世とカミラ王妃、ウィリアム王子とキャサリン妃、アン王女(ただし、夫のティモシー・ローレンスは含まれない)、エドワード王子とソフィー妃だ。
不在が目立つのはエプスタイン事件でスキャンダルを巻き起こしたアンドルー王子と、元妻のサラ・ファーガソン。また、2人の娘ベアトリス王女とユージェニー王女も王室の主要メンバーとして活動しないことを選択している。
主要メンバーたちは王室助成金に加え、コーンウォール公国、ランカスター公国、ケンジントン宮殿など王室所有の地所から不動産収入を得ることもできる。
『フォーブス』誌が2021年に伝えたところによると、英王室は主要メンバーの数を抑えようとしているらしい。というのも、王家の子供や子孫全員が王室助成金を当てにし始めると、時間が経つごとに支出が膨れ上がり、国民の不満につながる恐れがあるからだ。
同誌はまた、当時まだ皇太子だったチャールズ3世が「ザ・ファーム」の財政と主要メンバーへの支払いに大きな役割を果たしていたことを仄めかした。
裕福な君主トップ10に数えられるほどの個人資産を所有していた故エリザベス女王。『サンデー・タイムズ』紙の長者番付によれば、女王の純資産は推定3億8,000万ドル。『フォーブス』誌が報じた5億ドルに近い数字となっている。一方『ヴァニティ・フェア』誌は6億ドルと、さらに高額な推定を行った。
倹約家として知られた女王だが、馬についてだけは例外だった。『イブニング・スタンダード』紙によれば、厩舎とサラブレッドの管理費用として年間推定85万ドルあまりを費やしていたとされる。
『イブニング・スタンダード』が引用した王室財政の専門家、デイヴィッド・マクルーアによれば、女王の馬への傾倒は「かなり高くつく趣味だった。サラブレッド20頭ほど、種馬3頭を飼っていたことがあるほか、自前の厩舎もあった」。
ほとんど無一文で英王室にやってきたフィリップ王配。長年にわたって財産を蓄えてきたとはいえ、エリザベス女王の資産とは比べものにならないほど少なかった。
フィリップ王配は女王の配偶者として、1952年に制定された王室費法に基づいて収入を受け取ってきた。2011年からは、王室助成金法によって王配の年収は50万7,000ドルと規定されることとなった。ひと月あたりでは4万2,000ドルだ。
しかも、フィリップ王配は2017年に公務を離れた後もこの助成金を受け取り続けており、英国政府もこの事実を認めている。さらに、ランカスター公国関連の資産や投資、債券などからも収入があったという。
また、フィリップ王配は長年にわたって美術品をコレクションしていたことでも知られている。英連邦各地から工芸品を取り寄せていたが、とりわけオーストラリア先住民、アボリジニのアート作品を熱心に蒐集していた。
エリザベス女王の資産が5~6億ドルと見積もられているのに対し、フィリップ王配の資産はかなり控えめだと報じられている。たとえば『ヴァニティ・フェア』誌は推定1,450万ドルとしたが、3,000~4,000万ドルと見積もるメディアもある。
英王室でも遺産は近親者が相続するのが習わしだ。したがって、フィリップ王配の遺産はエリザベス女王の手に渡っていた。
エリザベス2世が遺した莫大な財産は基本的に新国王チャールズ3世が相続することになっているはずだ。しかし、その詳細は明かされていない。
わかっているのは、英王室が相続税を支払っていないということだ。通常であれば36~40%程度の相続税を税務署に納めなくてはならないが、国王については免除されているのだ。
英国でも、王室は国民の収めた税金を無駄遣いしているという批判が聞かれることは少なくない。とはいえ、『フォーブス』誌の試算によれば、コロナ禍以前の英王室は年間27億ドルの経済効果をもたらしていたという。
前出の『フォーブス』誌によれば、英王室の経済効果を生み出しているのは、王家にまつわる文化遺産がもたらす観光業の振興やマスコミ報道への無償出演、ジャケットやウィスキーをはじめとする製品に与えられる「王室御用達」の宣伝効果などにあるという。