領土を失いつつあるロシア:大国の威信失墜で生じるさまざまなリスクとは
ここ数ヵ月、ウクライナ軍は有利に戦いを進めており、少しずつとはいえ占領地も解放され始めている。では、ロシアが今回の戦争で敗北を喫した場合、一体何が起こるのだろう?
NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は最近、ウクライナ南部でロシア軍に攻勢を仕掛けるウクライナ軍が「徐々に領土を取り戻しつつある」と述べた。
ロイター通信によれば、ストルテンベルグ事務総長は欧州議会の場で「ウクライナ軍はロシア軍の防衛線を突破することに成功し、前進している」と発言したという。
ウクライナ軍は今年6月に反転攻勢に打って出たが、期待されたような成果を挙げることができず、西側メディアの批判を浴びていた。
ストルテンベルグ事務総長は、ロシア軍が数ヵ月かけて築き上げた地雷原および防衛線に言及、「(突破が)容易ではないのは誰の目にも明らかだ」とコメント。
さらに、「これほど大量に地雷が敷設されたことは未だかつてない。きわめて困難な戦いになるのは言うまでもない」と続けた。
しかし、ウクライナ軍は南部オリヒウ方面でロシア軍の防衛線および地雷原を突破。要衝トクマクへと進軍する道を拓いた。
CNN放送によれば、ウクライナ軍はロシア軍がザポリージャ州に敷いていた第1防衛線を8月末に突破し、現在は第2防衛線に穴を開けようとしているとのこと。
では、このままウクライナ軍が進軍を続け、南部の占領軍を追いやるばかりか軍事力を背景としたロシアの威信を失墜させた場合、一体どのような事態になるのだろうか?
ウクライナ軍は各地で勢いを増しており、今回の侵攻でロシア軍に占領された領土に加え、2014年に一方的に併合された領土まで奪還できる可能性も高まっている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、和平合意のためにウクライナの領土を差し出すつもりはないと明言しており、ロシア軍を領内から完全に追い出す姿勢を見せている。
報道番組『ザ・シチュエーション・ルーム』のインタビューに応じたゼレンスキー大統領は、「ウクライナが自国の領土を手放したり、ロシアへの併合を認めたりすることはありません。私たちの土地なのですから」とコメントした。
ところが、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙のウォルター・ラッセル・ミードによれば、ロシアの決定的敗北は世界のさらなる不安定化をもたらす可能性があるという。
同氏いわく:「ウクライナが勝利すれば、ロシアの威信は失墜します。東では強大化する中国や勃興しつつある中央アジア諸国に圧迫され、西では結束を強めるNATO諸国に睨まれる上、国内の少数民族も言うことを聞かなくなるでしょう」
さらに、トルコのエルドアン政権も「ロシアに対する恐れが薄れれば、ますます図に乗る」かもしれない。
しかし、前出のミード氏は、ロシアがウクライナ侵攻で完全な敗北を喫した場合、同国の保有する核兵器や生物兵器が流出してしまう可能性を懸念。
「核兵器開発に携わる研究者たちが技術を持ったまま四散してしまうかもしれません。さらに、ロシアが不安定化すれば、領内全域で犯罪組織やハッカーが横行する可能性もあります」
とはいえ、国際社会はプーチン政権のやり方を黙認するわけにも行かない。したがって、西側諸国はウクライナへの支援を今後も続けるものと見られる。
これまでにも、世界は第2次世界大戦や冷戦終結など不安定な時期を経験してきた。そして今、国際社会は覇権主義による戦争を避けるため、一丸となって新たな秩序を打ち立てる必要に迫られている。